利回り曲線(イールドカーブ)の起点となる無担保コール翌日物の金利が日本銀行の黒田東彦総裁の望む水準近くまでようやく下がり始めた。プラス金利での取引は短期金融市場からほぼ消え、金融機関が預ける日銀当座預金の一部にマイナス金利が課せられて発生する負担を他の金融機関に渡すババ抜きゲームの様相を呈している。

  19日の短期金融市場では無担保コール翌日物の加重平均金利がマイナス0.078%と過去最低を更新。2日間で6.8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下した。取引の値幅はマイナス0.07-マイナス0.08%程度。手数料などを勘案すると、資金の出し手のコストは日銀当座預金の一部に適用される0.1%のマイナス金利に近い水準と、セントラル短資の佐藤健司係長は指摘する。「実質的な下限まで一気に低下した形だ。資金の取り手が少ないことを意識した出し手が積極的に動いた」と言う。

  「日本銀行当座預金金利をマイナス化することでイールドカーブの起点を引き下げ、大規模な長期国債買入れとあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えていく」ーー。1月末の「マイナス金利付き量的・質的緩和」の日銀発表を受けて、市場金利は軒並み低下した。国債市場では2月に、新発10年物利回りがすでにマイナス0.1%を下回る場面があったが、イールドカーブの起点であるはずの無担保コール翌日物金利は、短資会社のシステム対応が整った3月22日以降もわずかなマイナス水準で下げ渋っていた。

   東短リサーチの飯田潔上席研究員は、マイナス金利政策の効果について、「中長期金利だけ先に下がっていたが、イールドカーブの起点が下がったことでようやく日銀の描いたイメージ通りになってきた」と指摘。ただ、コール取引の量に関しては、「レートが下がっただけで取引が膨らむ様子は見られず、参加者に広がりが見られない」と言う。

  短資協会によると、マイナス金利が大幅に拡大した18日の無担保コール取引残高は2兆6554億円と、金融機関が日銀当座預金を積み上げた3月分の積み期の平均3兆372億円を下回った。日銀当座預金でマイナス金利の適用を受けていた信託銀行は、4月分の準備預金の積み期に入った18日から負担を転嫁する形で投信から手数料を徴収。これを受けた投信による資金放出の積極化で市場のマイナス金利は拡大したが、取引の活性化には至っていない。

  日銀が18日に公表した業態別の日銀当座預金残高によると、3月の積み期にマイナス金利が適用された残高は29.7兆円と、日銀が示す「10兆ー30兆円程度」の見込み額のほぼ上限に達した。割合では、信託銀とゆうちょ銀を含むその他の準備預金制度適用先の金融機関が22.9兆円とマイナス金利適用の大半を占めている。一方、資金の調達側にいるとみられる都市銀行と地方銀行は、ゼロ金利適用残高の上限に対してそれぞれ3兆ー5兆円前後の調達余地を残しており、マイナス金利でも取引を見送る傾向がうかがえる。

  セントラル短資の佐藤氏は、「誰かが必ずマイナス金利を課される政策設計になっているので、無担保コール翌日物は日銀の納得する水準まで下がってきた」と指摘する一方、「日銀当座預金に余裕がある金融機関が市場で動かないとコール市場の活性化はない」と話した。日銀は今後、ゼロ%適用のマクロ加算残高を拡大して金融機関の負担を抑え、コール市場で資金の取り手を増やそうとするのではないかと佐藤氏はみている。