■震災復興イベントを中止に追い込んだ「論理」
活況を呈した日本の酒の試飲イベントだが、人気に水を差す動きもあった。
「フェスティバルに参加する7つの酒蔵が、福島原発事故後に韓国政府が放射能汚染地域として定めた地域で酒を生産している。汚染地域の米や水で作られた酒をPRするイベントは、市民の安全を考慮すれば適切でない」
韓国の「市民放射能監視センター」など11の市民団体がこう抗議し、開催中止を要求したのだ。
これら団体は、2月にソウル城東(ソンドン)区で予定されていた東日本大震災からの復興や日本の魅力をPRするイベントに対しても、「原発事故発生地の産品が配られる」と抗議。区が開催許可を出さず、開催当日になっての中止に追い込んでいた。
韓国政府は、こうした一部市民の声に押され、いまだに福島や青森、岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の8県の全水産物の輸入を禁止し続けている。
韓国社会では、“一見、もっともらしい正論”を振りかざす「声の大きい者」の主張の前で、その他大勢の意見が押さえ込まれてしまう風潮もある。
ここでは「放射能=悪」だという論理の単純化の下、そう決め付ける態度を、被災者はどう感じるかという想像力の多様性が失われている。
慰安婦問題でも見られたことだが、一部支援団体が「日本軍国主義=悪」の強硬姿勢を崩さず、日本との合意に基づく支援を受け入れたいと考える元慰安婦ら当事者の声まで封じ込まれる事態も起きている。
■日本文化の「多様性」をさかなに一献
今回の試飲イベントでは、大使館が「提供される酒は正規の検疫手続きを経て輸入されたもの。安全性に問題はない」と理解を求め、無事、開催となった。
日本産の酒に熱い視線が注がれるなか、難癖でしかない一部団体の抗議は、支持を広げることはなかった。
日本酒や日本など外国産のビールの人気について、韓国では「多様な味覚を求める消費者の変化の表れだ」との見方がある。
居酒屋の多彩なつまみや、それに合わせた多種多様な日本の酒の人気は、味覚の面では、着実に日本の食文化の多様性が韓国社会に受け入れられていることを物語っている。
その食を生み出した日本文化そのものの多様性のよさも同時に伝われば、被災地の産物輸入禁止問題だけに限らず、日韓の意思疎通の面でも、少しは風通しがよくなる気もする。
酒は互いの心を開かせるものだし、隣国の若者らと杯を傾けながら、お国の「多様性」について語ってみるのもおつかもしれない。(外信部記者)