保守主義者の国家債務恐怖症
米タイム誌の最新号(2016年4月25日付)の表紙は、「あなたの借金は42,998.12ドル(469万円)」。
米国の債務13.9兆ドル(約1500兆円)を、米国民一人頭で割るとその金額になるという。
この記事に、何人もの社会民主主義的な考え方をする人々が顔をしかめている。
やはりアメリカのオンラインメディア「Slate」で、ジョーダン・ワイズマンという人が反論記事を書いている。いま、アメリカ国債の利子率は20年間で最低で、いっこうに上がる気配が見られないというのに、国の支出を絞ったら、長期的経済成長が止まってしまうことを心配している。必要なインフラ投資や、機能的な医療制度を持続可能にするための投資などは、国の長期的成長をもたらす。経済成長が早まれば、経済に占める債務の割合も小さくなっていくのに、いま無理をして経済を委縮させたら、返せる債務も返せなくなってしまう。
「債務を返済する」とは、世に出回っているお金を消滅させることでもあるのだが、何の苦もなく何十年も借り続けていられるものを、なぜ、急いで返して(その分のお金を世の中から消滅させて)、国民の暮らしを貧しくしなければいけないのかがちっともわからないわけである。
タイム誌の記事の著者はジェームズ・グラントといって、ワイズマンによれば「蝶ネクタイをするような連中」で、Wikipediaによれば、元共和党の政治家ロン・ポールが前FRB議長バーナンキの後任としてこの男を推していたそうである。
もちろん、ある日突然、大多数の投資家が、「この国はおしまいだ」と本気で考えて、全部の国債投資を引き揚げようとしたら、国家債務は問題となる。もちろん、ギリシャのような自国通貨をコントロールできない国にとっては重大な問題である。ところが、米国は自国通貨を発行することができる。ドルが不足することは決してないのだ。唯一心配なのは、ドルを刷り過ぎて過度のインフレを引き起こすことだろう。国の債務は無価値になり、国債市場が機能しなくなってしまう。
グラントはそれを心配しているようだ。彼も14兆ドルの債務を一度に返さなければいけないと言っているわけではないようだが、なぜか「いつかわからないが」財政が破たんするという。
またグラントは、税の定率化と、巨大な支出削減を主張しているとのことである。彼の債務恐怖は一種の口実じゃないのかと、ワイズマンは疑っている。頑迷なアメリカの保守主義者が政府に対して持つ嗜好―小さな政府、減税と支出削減―を推進するための、口実にしているだけではないのか。
さて、日本を振り返ってみれば、安倍自民党は「伝統」回帰(江戸しぐさ的伝統だが)を強めており、右傾化、保守化を進めようとしている。その一方、労組の腰が引けてている賃上げについて、もっと賃金を上げるよう口を出したり、財政出動をアピールして、あたかもアメリカ的社会民主主義風のポーズを取っている。
実際には安倍政権は、財政緊縮的であることに注意してほしい。社民的な政策は金融緩和以外は口ばかり。2014年に増税を実施してしまい、その後も財政は引き締めてきている。またしても紹介してしまうが、この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案では、いかに安倍自民が、景気状況をうまく利用して、国民の心を取り込みつつあるか、解説している。予測として書かれたうち、すでに実現したものもある。みんなもっと危機感を持つべきだと思う。
困ったことに、民進党の大勢も財政緊縮志向である。自民党の主流も民進党の主流も、保守主義で、財政緊縮的で、小さい政府をめざしている。
日本にも、真に社民的で、国家債務を誇大視せず冷静に判断して、「お金を人民のために使おう」とするような運動が、政党が早くできないものだろうか。そうでなければ安倍自民党による日本の右傾化を止められないのではないだろうか。
米国の債務13.9兆ドル(約1500兆円)を、米国民一人頭で割るとその金額になるという。
この記事に、何人もの社会民主主義的な考え方をする人々が顔をしかめている。
やはりアメリカのオンラインメディア「Slate」で、ジョーダン・ワイズマンという人が反論記事を書いている。いま、アメリカ国債の利子率は20年間で最低で、いっこうに上がる気配が見られないというのに、国の支出を絞ったら、長期的経済成長が止まってしまうことを心配している。必要なインフラ投資や、機能的な医療制度を持続可能にするための投資などは、国の長期的成長をもたらす。経済成長が早まれば、経済に占める債務の割合も小さくなっていくのに、いま無理をして経済を委縮させたら、返せる債務も返せなくなってしまう。
「債務を返済する」とは、世に出回っているお金を消滅させることでもあるのだが、何の苦もなく何十年も借り続けていられるものを、なぜ、急いで返して(その分のお金を世の中から消滅させて)、国民の暮らしを貧しくしなければいけないのかがちっともわからないわけである。
タイム誌の記事の著者はジェームズ・グラントといって、ワイズマンによれば「蝶ネクタイをするような連中」で、Wikipediaによれば、元共和党の政治家ロン・ポールが前FRB議長バーナンキの後任としてこの男を推していたそうである。
もちろん、ある日突然、大多数の投資家が、「この国はおしまいだ」と本気で考えて、全部の国債投資を引き揚げようとしたら、国家債務は問題となる。もちろん、ギリシャのような自国通貨をコントロールできない国にとっては重大な問題である。ところが、米国は自国通貨を発行することができる。ドルが不足することは決してないのだ。唯一心配なのは、ドルを刷り過ぎて過度のインフレを引き起こすことだろう。国の債務は無価値になり、国債市場が機能しなくなってしまう。
グラントはそれを心配しているようだ。彼も14兆ドルの債務を一度に返さなければいけないと言っているわけではないようだが、なぜか「いつかわからないが」財政が破たんするという。
またグラントは、税の定率化と、巨大な支出削減を主張しているとのことである。彼の債務恐怖は一種の口実じゃないのかと、ワイズマンは疑っている。頑迷なアメリカの保守主義者が政府に対して持つ嗜好―小さな政府、減税と支出削減―を推進するための、口実にしているだけではないのか。
さて、日本を振り返ってみれば、安倍自民党は「伝統」回帰(江戸しぐさ的伝統だが)を強めており、右傾化、保守化を進めようとしている。その一方、労組の腰が引けてている賃上げについて、もっと賃金を上げるよう口を出したり、財政出動をアピールして、あたかもアメリカ的社会民主主義風のポーズを取っている。
実際には安倍政権は、財政緊縮的であることに注意してほしい。社民的な政策は金融緩和以外は口ばかり。2014年に増税を実施してしまい、その後も財政は引き締めてきている。またしても紹介してしまうが、この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案では、いかに安倍自民が、景気状況をうまく利用して、国民の心を取り込みつつあるか、解説している。予測として書かれたうち、すでに実現したものもある。みんなもっと危機感を持つべきだと思う。
困ったことに、民進党の大勢も財政緊縮志向である。自民党の主流も民進党の主流も、保守主義で、財政緊縮的で、小さい政府をめざしている。
日本にも、真に社民的で、国家債務を誇大視せず冷静に判断して、「お金を人民のために使おう」とするような運動が、政党が早くできないものだろうか。そうでなければ安倍自民党による日本の右傾化を止められないのではないだろうか。
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