3/11
運命のFive minute
少し長くなりましたが、ゲートネタです。
もしも「赤い皇帝」世界と史実世界が繋がったら?という設定の下、短編を今後もいくつか執筆していきたいと思います。
昭和17年・西暦1942年 6月5日
北太平洋 ミッドウェー島
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊所属
第16任務部隊(タスクフォース16)第17任務部隊(タスクフォース17)の合同部隊
『レイモンド・スプルーアンス』少将と『フランク・J・フレッチャー』少将率いる空母「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」を中心とした機動部隊が、ミッドウェー島の占領に向かう日本海軍の南雲機動部隊を待ち伏せるために展開中
ミッドウェー島は北太平洋のハワイ諸島北西にある島(環礁)であり、北緯23度13分・西経177度22分の位置に存在して、
面積は6.2km2のアメリカ領太平洋諸島に属する島だ。
ハワイ諸島は米国にとって太平洋正面の防衛・進攻の戦略的に重要な根拠地であった。この島は位置は軍事的に重要な位置にあり、ハワイ諸島の前哨であり戦略的要所であった。
また太平洋を横断する航空機の給油地となった。1940年の初め頃より、
ハワイ防衛の拠点として軍事基地化が進んでいた。
この島を目掛けて、多くの日本海軍の艦隊が向かっているという情報を入手したアメリカ海軍太平洋艦隊司令長官『チェスター・ニミッツ』は、3ヶ月前のハワイ・オアフ島に日本軍の大型航空機(二式飛行艇)2機が爆撃を行なったのと、1942年5月頃には日本軍の暗号を断片的に解読し、日本海軍が太平洋正面で新たな大規模作戦を企図していることについても、おおまかに把握していた。
さらに日本側が陽動作戦として計画していた、空母「龍驤」と「隼鷹」を中心とする部隊をアリューシャン方面に向かわせてアッツ島、キスカ島などを占領し、
ダッチハーバーなどを空爆する作戦も陽動であることを事前に見抜いており、
ニミッツ大将はこれらの情報に基づいて邀撃作戦計画を立案した。日本軍の兵力は大きく、ニミッツ大将の指揮下にある使用可能な戦力を全て投入しても対抗するためには不足が大きかった。そのため、アリューシャン・アラスカ方面には最低限の戦力を送るにとどめ、主力をミッドウェーに集中することにした。
アメリカ軍の作戦計画は5月28日に発令を下し、
内容は、第1に敵を遠距離で発見捕捉して奇襲を防止、第22空母を撃破してミッドウェー空襲を阻止、第3に潜水艦は哨戒及び攻撃、第4にミッドウェー島守備隊は同島を死守などというものであった。
しかし残念なことに、5月28日に作戦計画を発した時点において、ニミッツ大将は2隻の空母しか使用が期待できなかった。「サラトガ」は日本海軍の潜水艦による攻撃で損傷を受けて修理を要する状態にあり、第17任務部隊(タスクフォース17)の2隻は先日の5月8日の「珊瑚海海戦」において、フレッチャー少将の第17任務部隊は、珊瑚海海戦において何とかポートモレスビー防衛を成功させたが、自身も主力空母「レキシントン」を失い、「ヨークタウン」が中破するという犠牲を払っていた。
「ヨークタウン」への命中は爆弾1発のみであったが、
排煙経路を破壊されるという重大なダメージを受けており、機関からの燃焼煙を正常に排出できないことでボイラーが出力を上げられず、
速力が24ノットに低下していたのである。
更に日本海軍の軽空母「祥鳳」中破にしか追い詰めず、率いていた重巡7隻、
軽巡2隻、駆逐艦13隻の内の、
軽巡2隻と駆逐艦6隻を沈没させるという失態を犯していたからだ。
彼の名誉の為に弁明するならば、この時は終始アメリカ側の有利であったのだ。
当初両軍は索敵に勤めており、ポートモレスビー攻略機動部隊(MO機動部隊)の接近にフレッチャー全く気付いていなかったと有利なスタートを日本は切ったのだが、第五航空戦隊「瑞鶴」と「翔鶴」から偵察機12機が発進してそのうち2機の翔鶴偵察機が米軍空母、油槽艦、重巡洋艦発見を報告し、
すぐさま両艦合計78機が発進したのだが、の報告はタンカーと空母の艦型を見間違えたことによる誤報であり、午前7時15分(09:15)前後にMO機動部隊第一次攻撃隊が到着した時、実際にいたのは空母ではなく駆逐艦と給油艦であったので、MO機動部隊は満足なエアカバーを受けれない状態のままアメリカ海軍の先制攻撃を喰らい、危うく「祥鳳」が撃沈されそうになって日本海軍初の空母撃沈となる筈だったのだが、その時とても不思議なことが起きたのだ。
何と突如アメリカ海軍の艦隊に向けて、所属不明のジェット戦闘機と思わしき戦闘機部隊が飛来してきて機銃掃射と急降下爆撃を仕掛けてきたのだ。
20mm以上の口径の機関砲の銃弾と500kg爆弾、
そしてロケット弾が次々とアメリカ海軍の艦艇を襲い、瞬く間に勝っていたはずのアメリカ海軍は逃げ惑う子羊の様に艦隊を乱してバラバラになった。そして日本海軍にもそれに便乗して攻撃するような余裕はなかった。
何故なら何処からか知らないが、日本語によるメッセージが艦艇全てに無線で通達されたのだ。
「すぐさま貴官らはこの海域を撤退して、ポートモレスビー攻略作戦の撤回を要求する。
なお、この要求に従わなければ我々はすぐさま第2派をそちらの攻撃用として派遣するつもりだ。
貴官らの賢明な判断に期待する。」
というメッセージが無線によって届けられ、現場の日本海軍も大いに混乱の渦に叩き込まれたのだ。
何せその不審な戦闘機部隊はまだ何処の国も実用化に成功していない企画段階のジェット戦闘機部隊を巧みに手馴れた様子で扱っており、
尚且つこちらの作戦を知っている素振りを見せて、止めに「日本語」で通達してくるのだ。
この謎の部隊を扱っている連中は日本人だと思うのが普通だが、そのようなジェット機を運用しているような部隊は知らないし、例え機密で秘匿されていたとしても、これだけの戦闘機を設計・製造するのには必ず軍上層部が少なくとも知っているはずだ。
しかい、ここにいる佐官以上の軍人達は皆一様に知らないと答える。あの部隊を知っていたらとっくのとうに真珠湾で活用していると、ある艦長は逆ギレ気味に答えた。
では、あの部隊は何なのだ?と現場が混乱するのは当たり前のことであった。
井上成美中将は作戦の続行を望んでいたのだが、現場の艦長らや五藤存知少将らの反対もあって断念し、その謎のメッセージに従って艦隊をすぐさま引き返したのだった。
こうして日本海軍は貴重な軽空母を中破したとはいえ失わずに済み、後のミッドウェーにも修理すれば参加させられるとして、当初の作戦目標は達成できなかったが戦略的には良い結果となった。
だが、アメリカ海軍はそのような良い結果で終わることはなかった。
謎の戦闘機部隊は音速を超える速さで艦艇に迫るので、砲塔の浅海速度が追いつかないので対空砲火が間に合わないのだ。更に当時のアメリカ海軍は「マリアナの七面鳥撃ち」で一躍有名になった、「VT信管」こと近接信管(砲弾にレーダーなどを組み込み、目標物から外れても一定の範囲内に目標物などが入れば起爆する信管)は、
まだこの年の1月に試作品がジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所で完成したばっかりで実用・配備できるものではなかったので装備しておらず、
従来の目標の高度、速度等から予測される接触未来位置までの到達時間をあらかじめセットして発射し、発射後に一定時間後に爆発する時限式の信管であったので、例え装備していたとしてもミサイルでは無いので撃墜しにくいジェット戦闘機を照準に捉える事など到底無理な話であった。
そして何よりも当時の空母艦載機のスピードが、艦上戦闘機でも最高で700km/h台で艦上攻撃機が420km/hの世界なので、約1200km/h程のスピードで飛行して、
500kg爆弾とロケット弾をばら撒き、20mmクラスの機銃で砲塔や飛行甲板などを掃射してくる。
どう抗ってもこの時点でのアメリカ海軍が敵うはずがなかったのだ。
もう後は一方的に叩かれるのを耐えるだけであった。
こうして日本海軍は軽空母中破という損害だけで撤退し、
アメリカ海軍は空母「レキシントン」を損失し、他に軽巡2隻と駆逐艦6隻を沈没させるという大損害を被ったのだ。
普通であるならば指揮官のフレッチャーは罷免されるか軍法会議行きなのだが、残存艦隊の決死の証言と日本への盗聴をしていた情報部の情報によって何とか彼は責任を取らずにすんだのだ。
その結果本来ならばミッドウェー防衛に向けて4隻の空母を運用するつもりだったのだが、こうして2隻程になってしまい作戦に支障が出るかと思われた。
だが、神はアメリカ海軍を見捨てていなかったようで、
損傷したヨークタウンはハワイに送られて72時間不眠不休の修理が施され、
戦闘艦としての機能を取り戻すことに成功。出撃時、艦には修理工が乗ったままであり、戦場へ向かって航行中も修理が続けられた。
よって今回の作戦では、何とかアメリカ海軍側は3隻の空母を運用することが可能となり、アメリカ海軍太平洋艦隊司令長官発の作戦計画に従い、「エンタープライズ」「ホーネット」を基幹とする第16任務部隊(タスクフォース16)が真珠湾を出撃し、
続いて5月30日には第17任務部隊も基幹となる「ヨークタウン」の緊急修理の完了を待つ形で真珠湾を出撃したのだ。
同時に5月27日に南雲忠一海軍中将率いる第一航空戦隊(赤城、加賀)、第二航空戦隊(飛龍、蒼龍)を中心とする第一航空艦隊(通称・南雲機動艦隊)が広島湾柱島から厳重な無線封止を実施しつつ出撃したのであった。
更に28日にはミッドウェー島占領部隊輸送船団が水上機母艦「千歳」、駆逐艦「親潮」「黒潮」と共にサイパンを出航して、両軍の決戦は刻一刻と近づいていた。
だが、両軍ともある共通の懸念があった。それは先の「珊瑚海海戦」で乱入してきて、アメリカ海軍を一方的にフルボッコにした謎の戦闘機部隊だ。あの後両軍の情報部と両国政府首脳陣は、この謎の戦闘機部隊について死に物狂いで調査した。特にアメリカ政府は多くの人員と資金を動員し、後にエセックス級空母を2隻建造できるといわれるほどの費用を使いながら調べたのだが、調査結果は全く何も得るものは両国政府ともなかった。このときの両国政府と諜報部の心は、
皮肉だがある1つの意見で統一されていた。それは何処でどのようにして、一体誰がジェット戦闘機が作られたのかということだ。
当時ジェット戦闘機のパイオニアは、イギリスとドイツの両国でありドイツのほうが優勢であった。
なので当初日米両政府と諜報部は両国に関係していると考え、それとなく両国を調査したのだが、
その結果両国の仕業では無いということが判明した。
しかし、両国の当時置かれていた状況を冷静に考えると当然の話であった。
当時のドイツは東でソ連と独ソ戦を戦い、南のアフリカ戦線ではイタリアに変わってイギリス軍と戦っていたので、
そのような各地に戦線を抱えている状況下で最先端の戦闘機を同盟国に送る余裕などはなく、更にドイツと日本の距離を考えれば当然船や直接こいつに乗って送るしかないのだが、空路は航続距離的に難しいと判断され、海路はドイツ海軍の潜水艦が良く通る大西洋と地中海ははイギリス海軍とアメリカ大西洋艦隊の目が光り、この時代では潜水艦でさえ通行は不可能だと思われていた氷に覆われた北極海はソ連海軍とアメリカ太平洋艦隊の目が光っているので、潜水艦や輸送船による運送は全くばれずにやるのは理論上不可能であった。
では、もう1つの可能性あるイギリスは如何かというと、
これもまたナンセンスだ。イギリスはアメリカの支援なくしては戦線の維持すら難しいほど疲弊しており、本土は常にヨーロッパ大陸からの空襲に警戒し、
アフリカではドイツ陸軍と一進一退の戦いを繰り広げ、
地中海や大西洋ではドイツの潜水艦部隊との護衛船団のバトルなど、これまた各地に戦線を抱えていたので送る余裕など全くなく、尚且つ同盟国であるアメリカ海軍の艦艇を攻撃するようなことをするだろうか?そして何よりこれは両国に言える事なのだが、
もし狩りの両国がこのジェット戦闘機の実用化に万が一成功していたならば、わざわざ本国やヨーロッパの戦場で運用せずに、この太平洋の地で運用してみようと思うだろうか?
いや、全く思わないだろう。
なので両国の可能性は瞬く間に消え失せたのであった。
こうして一行に何か良い目星がつかない状況に両国の政府首脳陣と諜報部は苦虫を噛んだような表情となって地団駄を踏み、特にアメリカでは諜報部(OSS:戦略事務局)に対する目が厳しくなったのだ。イエローモンキー(黄色人種のこと:ここでは日本人)の連中に思うがままにされておきながら、何か真珠湾の奇襲の様な重要な情報は一切入手できない税金泥棒の連中だと。
日本でもこの謎の戦闘機部隊について知ってしまった陛下によって、最大限何とか友好的に接触を試みろと陸海両軍に厳命が言い渡され、
諜報員育成学校の中野学校の卒業生や教官等が世界各地を飛び回る破目となったりと、日本でも大変なこととなったのだ。
更に日米両国から探りを入れられたイギリスとドイツ両国も不審がって調査してこの情報にたどり着いて、彼らもこの戦闘機部隊との接触を試みる競争に参加し、止めに英米両国と日本にシンパを潜り込ませていたからこの情報を入手したソ連までもが参加するなど、この謎の戦闘機部隊について接触を試みる競争の運動は日夜ごとに激しくなっていくと同時に、またこの部隊と接触する可能性のある日本海軍とアメリカ海軍のプレッシャーと精神的ストレスは日々高まってき、
日米両国の高官は皆何かしらの不調を抱えるようになってストレスの余り入院する者もいたぐらいだ。
こうして様々な思いを抱かれながら、
日米両国海軍は決戦の地ミッドウェーに部隊を向かわせていた。
そして6月3日に南雲機動部隊は深い霧の中で混乱し、
旗艦「赤城」は「飛龍」「蒼龍」「榛名」「霧島」の艦影を見失うなどトラブルは遭ったものの、
何とかミッドウェー付近の海域に進出が出来たのであった。
米軍でも5月30日以降はミッドウェー島基地航空隊の32機のPBYカタリナ飛行艇による哨戒が行われていた。
6月2日にフランク・J・フレッチャー少将の第17任務部隊とレイモンド・スプルーアンス少将の第16任務部隊がミッドウェー島の北東で合流。この合流した機動部隊の指揮はフレッチャー少将がとることになった。
6月3日には1機のカタリナ飛行艇が日本軍輸送船団と護衛の第二水雷戦隊を発見し、ミッドウェー島から第7陸軍航空部隊分遣隊のB-17爆撃機9機が発進して攻撃に向った。そして翌日の日本時間6月4日の午後には、船団を発見したB-17部隊は爆撃を開始したが、
残念なことに輸送船「あるぜんちな丸」「霧島丸」が至近弾を受けたのみで損害も無かった。
ミッドウェー基地からの艦隊発見の報を受け、太平洋艦隊司令部は、B-17が攻撃した艦隊は敵主力機動部隊にあらずと判断し、第16・17両任務部隊に日本軍機動部隊と間違えて攻撃に向わないよう緊急電を打った。フレッチャー司令官も同じ判断を下して行動を行わなかったので、この段階ではまだ、フレッチャーとスプルーアンスも南雲機動部隊の位置を把握していなかったのだ。
そして遂に運命の日、6月5日がやって来たのであった。
日本時間6月5日(現地ではまだ6月4日1時30分)、米空母では航空機搭乗員に朝食が出され、その後出撃待機となり命令を待っていて、1時間後に搭乗員整列が下令、
艦長や航空群司令からの指示や注意事項が通達された。
日本時間午前1時15分、ミッドウェー基地からPBY飛行艇による哨戒隊、15分後には第17任務部隊の空母ヨークタウンからSBDドーントレス爆撃機からなる偵察隊が航空偵察に出撃した。
同時刻の日本海軍側では、南雲機動部隊はミッドウェー空襲隊(友永隊指揮下)108機を発進させていた。本来ならば淵田中佐が総指揮官として出撃するはずだったが、淵田は虫垂炎による手術を行ったばかりなので出撃できなくて、
源田実航空参謀も風邪により熱を出していたからだ。
日本軍は「敵空母を基幹とする有力部隊附近海面に大挙行動と推定せず」という方針の元に、
当初の計画にはなかった人選のもとで攻撃を開始した。
理由は近藤中将の攻略部隊(第二艦隊)がミッドウェー島に上陸する日は6月7日と決定されており、南雲機動部隊はそれまでにミッドウェー基地の戦闘力を奪わなければならなかったからだ。
各4空母からの発艦機数は、零戦36・艦爆36・艦攻36の合計108機で、
各4空母に残った戦力は、零戦36・艦爆36・艦攻41の合計113機であった。
一航戦の艦攻には航空機用魚雷が装着され、各空母格納庫で待機。二航戦はセイロン沖海戦の戦訓を踏まえ陸上攻撃・艦船攻撃どちらでも対応できるようにする為未装備状態とした。
また偵察機として空母「赤城」「加賀」から九七式艦攻各1機、重巡洋艦「利根」「筑摩」から零式水上偵察機各2機、戦艦「榛名」ら九五式水上偵察機が発進した。
最後に各空母より零戦1個小隊3機が直掩のため出撃し、
そして南雲艦隊は針路を再びミッドウェー島に向け進撃を開始したのであった。
この時午前2時20分、南雲長官より「敵情に変化なければ第二次攻撃は第四編成(指揮官加賀飛行隊長)をもって本日実施予定」という信号が送られた。
これは米艦隊が出現しない事が明確になった時点で兵装を対地用に変更し、
ミッドウェーを再空襲する事を予令として通知したものである。仮に第二次攻撃隊が出撃すると、南雲機動部隊に残された航空兵力は各空母零戦3機となるはずだった。
午前2時15分頃、アディ大尉が操縦するPBYカタリナ飛行艇は日本軍零式水上偵察機 (利根4号機)を発見する事に成功。近くに日本艦隊がいると判断した大尉は付近を捜索した結果、15分後に南雲部隊を発見して「日本空母1、ミッドウェーの320度、150浬」と平文で報告した。日本側もPBYカタリナ飛行艇を発見し、警戒隊の軽巡洋艦「長良」から続けて戦艦「霧島」から敵機発見の煙幕があがった。
南雲機動部隊は直掩零戦隊を発進させはじめたが、米軍飛行艇は雲を利用して回避しつつ接触を続け、零戦隊はとうとうアディ大尉のPBYカタリナ飛行艇を最後まで撃墜できなかった。
午前2時40分頃、アディ大尉機と同じ針路を遅れて飛んでいた別の飛行艇もミッドウェー空襲隊を発見・報告した。
米軍偵察機が南雲部隊発見を通報した無電はミッドウェー基地や南雲部隊などには傍受されたが、
第16・17任務部隊には混線したため内容が把握できなかった。両部隊が内容を把握できたのはPBYカタリナ飛行艇からの続報を元にして、6時にミッドウェー基地が打電した平文の緊急電を傍受してからである。
空襲が予想されるミッドウェー基地では午前3時に迎撃の戦闘機26機(バッファロー20、ワイルドキャット6機)が出撃し、続いてTBFアベンジャー雷撃機6機、B-26マローダー爆撃機4機,SB2Uビンジゲーター急降下爆撃機12機、SBDドーントレス急降下爆撃機16機という混成攻撃隊が南雲部隊へ向けて発進した。基地には予備のSB2U5機及びSBD3機が残された。
午前4時7分、ミッドウェー基地経由で日本軍空母発見の報告を受けたフレッチャー少将は直ちに行動を開始すると「エンタープライズ」のスプルーアンスに対して攻撃を命令した。米海軍の3空母は直ちに出撃準備を開始、スプルーアンスは「エンタープライズ」と「ホーネット」の攻撃隊発進を午前4時と指定した。
「今日こそは絶対に日本海軍の船を沈めてやる!!」
空母「ヨークタウン」に乗り込んでいるフレッチャー少将は、先の「珊瑚海海戦」において後一歩のところで日本海軍の軽空母を逃し、
自分の任された艦隊を謎の部隊に壊滅されかけたことで一時期は意気消沈していたのだが、スプルーアンスや彼の前任のハルゼーの叱咤激励や励ましでこのように元の健常な精神状態に戻り、自分のプライドやその他諸々を打ち砕いた憎きあの部隊は今日はいないので残念だが、取り逃がしてしまった本来自分達に敗れるべきだった日本海軍の船を、
出来るだけ暗い海の底に沈めてやると意気揚々であった。
配下の「ヨークタウン」のパイロット達も自分達のトップに同調して、意気揚々と「ジャップの船を全て沈めてやろうぜ!敵討ちだ!!」と息巻いていた。
日本軍にとって性質の悪いことに、
「ヨークタウン」のパイロット達には実際にそれが可能なエースパイロットがいたのだ。
その名も「ジョン・サッチ」少佐。
彼は史実では対ゼロ戦空戦戦術「サッチウィーブ」の考案者として知られている。最初は空母「レキシントン」の飛行隊長だったのだが、
「珊瑚海海戦」で母艦「レキシントン」は爆沈、残存機を率いて「ヨークタウン」に乗り組んでいたのだ。
彼は1941年9月の段階で零戦には集団戦法が有効だという事に結論に達しており、おりしも1942年6月にアメリカ海軍がアリューシャン列島アクタン島でほぼ完全な状態で鹵獲した零戦を試乗して、零戦とドッグ・ファイトを絶対にやってはならない(特に低高度で)と各パイロットに通達し、ますますサッチウィーブの有効性を証明して見せた名パイロットである。
さてここで、彼の発案したサッチウィーブについて簡単に説明しようと思う。
戦闘機同士の空中戦は、第一次世界大戦では1対1の格闘戦が中心で、日本軍のパイロット達や戦闘機の戦闘方法も「巴戦」として格闘戦を重視していたのだが、第二次世界大戦が始まる頃には2機でチームを組み、
敵機を攻撃するリーダーとリーダーの後方を支援するウィングマンを配する「ロッテ戦法」が中心となっていった。
一般的に、リーダーには経験豊富なベテランを、ウイングマンには新人を配することが多かったが、実際に空中戦が始まると操縦テクニックに勝るリーダーの動きにウィングマンがついていけず、
結果的にリーダーと敵機との1対1の格闘戦になってしまい、ロッテ戦法の強味が発揮できないという弱点が指摘されていた。
サッチウィーブの特徴は、ウィングマンの後方支援を機能させるために、敵機に背後を取られた場合の回避手順を決めたことにある。その結果、日本軍機(特に零戦)とのキルレシオが改善されたため、あえて敵機に背後を取らせるというおとり戦法としても使われた。
太平洋戦争中期以降の米軍の空中戦においては、ロッテ戦法からのダイブ・アンド・ズーム(一撃離脱戦法)によって日本軍機を攻撃、
その攻撃がかわされた場合や日本軍機に背後をとられた場合にサッチウィーブの罠に陥れるという戦術がとられたが、
ダイブ・アンド・ズームが第二次大戦以降はほとんど使われなくなったのに対し、サッチウィーブはその後の朝鮮戦争やベトナム戦争、及び今日の空中戦においても使用され、いまだに空中戦の基本戦術の一つとされている。
その内容とは、
「必ず2機編隊を組む。 敵機に背後をとられた場合、背後を取られた戦闘機(罠機)は僚機の前をSの字型に飛行し、
僚機(フック機)は逆Sの字型に飛行し敵機と交差する。
敵機と交差する際には僚機が敵機に対して銃撃を浴びせる」
というものである。
サッチウィーブを効果的に実施するためには、空中戦の最中においても、無線機での会話を通じたリーダーとウィングマンの連携が不可欠であるとされている。
そのため、十分な性能の無線機を搭載していなかった日本軍機は、僚機との連携がとれずサッチウィーブを採用できなかっただけでなく、
サッチウィーブの罠に陥っていることにも気が付かない場合が多かったとされている。
そのような名パイロットと彼の指導を受けたパイロット達を擁する「ヨークタウン」は、まず間違いなくこの海戦でのアメリカ海軍の空母艦隊の中では、最も優れた技量を持っていたといえるだろう。
ここで一旦場面を変えて、日本海軍の状況を見てみよう。
元々日本海軍は、
連合艦隊司令長官であった山本五十六大将の下で、従来の守勢の邀撃作戦から積極的な攻勢作戦へと変えていた。
彼はまず国力から見て圧倒的な劣勢にある日本が守勢を採っても、時期・方面などを自主的に決めて優勢な戦力で攻撃する米国に勝ち目がなく、また短期戦に持ち込むためには、
早期に敵の弱点を叩くことで相手国の戦意を喪失させる方法しか勝機を見出しえないと判断したためと言われている。
その方針の下でハワイ攻略を見据えた作戦計画を立案され、そこでハワイ作戦の前段階として浮上したのが、ミッドウェー島の攻略であったのだ。
更に1942年4月、ウィリアム・ハルゼー中将率いる空母「ホーネット」を中心とした機動部隊が「エンタープライズ」と共に、ジミー・ドーリットル中佐率いるB-25ミッチェル双発爆撃機で編成された爆撃隊を輸送して、ある目的の為に日本本土付近の海域に近づいていた。爆撃隊は「ホーネット」から発進後、東京を筆頭に日本の主要都市を攻撃する予定であった。
しかし18日の朝に犬吠埼東方で特設監視艇に発見され、
予定より早い攻撃隊発艦となった。俗に言う「ドーリットル空襲」である。
B-25爆撃機隊は東京、名古屋、大阪を12時間かけて散発的に爆撃し、中国大陸に脱出後、不時着放棄された。
セイロン沖海戦で勝利した南雲機動部隊は台湾沖で追撃命令を受けたが距離は遠すぎ、燃料を浪費しただけだった。
空襲による被害は微小であったが、
日本本土上空に米軍機の侵入を許してしまったことは日本に大きな衝撃を与えた。また米軍が航続距離の長い双発爆撃機を用いたために対応策が考えられず、
陸海軍はより大きな衝撃を受けることとなった。山本は米海軍による空襲の危険性については以前より認識しており、
この空襲で既に内定していたミッドウェー作戦の必要性を一層痛感し、予定通りに実施するために準備を進めた。
この空襲により日本陸軍もミッドウェー作戦・アリューシャン作戦を重大視するようになり、陸軍兵力の派遣に同意。ミッドウェー作戦はまさに帝国のプライドを賭けた日本陸海軍の総攻撃に発展したのであった。
そして午前3時16分ごろ、「友永丈市」大尉指揮下の108機の攻撃部隊は、ミッドウェー基地への攻撃に向けて空を飛んでいた。
完全武装をした艦上爆撃機や艦上攻撃機のスピードは最高速度380km/hが限度なので、最高速度580km/hの零戦はそのスピードにあわせて飛行していた。
そこにミッドウェー基地上空の米軍戦闘機隊が襲来して、
カタリナ飛行艇の吊光弾投下と米軍機の奇襲で始まり、先頭の友永隊長機を始め艦攻多数が火に包まれ、直後に零戦隊が逆襲に転じて空中戦となった。約15分の空中戦は日本側の勝利に終わる。
迎撃したF2Aブリュースター・バッファロー戦闘機20機のうち13機が撃墜され、
F4Fワイルドキャット戦闘機6機のうち2機が撃墜され、帰還したバッファロー5機・ワイルドキャット2機が使用不能となった。
米軍の妨害を排除した日本軍攻撃隊は午前3時30分から午前4時10分にかけて空襲を実施した。映像撮影のため派遣されていた映画監督のジョン・フォードなどが見守る中、
重油タンクや水上機格納庫、戦闘指揮所、発電所、一部の対空砲台を破壊し基地施設に打撃を与えたが、滑走路の損傷は小さく、死傷者も20名と少なかった。
日本軍攻撃隊は今回の攻撃で艦攻5機・艦爆1機・零戦2機を失った。
残る機も相当数が被弾しており、艦攻16・艦爆4・戦闘機12修理不能2)が損傷した。
攻撃の成果が不十分と判断した友永大尉は午前4時、南雲機動部隊に対し『カワ・カワ・カワ(第二次攻撃の要あり)』と打電して第一次攻撃隊の攻撃は不十分であることを伝えた。奇妙なことに2ヶ月前のセイロン沖海戦と全く同じ展開である。ミッドウェー基地攻撃中の午前3時49分、筑摩4号機が天候不良のため引き返すと報告(受信午前3時55分)。
午前5時55分、
利根1号機から「敵15機わが艦隊に向け移動中」という報告を受けて更に零戦6機を直掩に加え、
同じく四空母に分乗している第六航空隊の零戦21機を使用できるよう準備を指示している。
日本軍空襲隊(友永隊)がミッドウェー島を攻撃していたころ、南雲機動部隊は米軍機の継続的な空襲に悩まされていた。証拠として午前4時5分、重巡洋艦「利根」は米軍重爆撃機10機を発見した。
米軍攻撃隊の正体は、ミッドウェー基地から発進したTBFアベンジャー雷撃機6機と、爆弾のかわりに魚雷を抱えたB-26マローダー双発爆撃機4機であった。シマード大佐(ミッドウェー司令官)が友永隊の迎撃に全戦闘機を投入してしまったため、彼らは戦闘機の護衛なしに進撃してきたのである。
何とか迎撃に成功したので被害は無かったが、ミッドウェー基地から発進した米軍陸上機による空襲は、同島の基地戦力が健在である証拠であった。友永隊の報告をふまえて、南雲司令官はミッドウェー島基地への再空襲を決定する。近藤信竹中将の率いるミッドウェー攻略部隊(第二艦隊)が6月7日に上陸を開始する前に、米軍基地航空戦力を何としてでも壊滅させる必要に迫られたからである。
午前4時15分、
南雲司令部は艦攻に魚雷を装備していた第一航空戦隊(赤城・加賀)に対し、『本日航空機による攻撃を実施する為第二次攻撃隊を編成せよ。兵装は爆装に転換』と通知した。搭載する九七艦攻のほとんどがミッドウェー空襲隊に加わり、九九式艦上爆撃機しか残っていない第二航空戦隊(飛龍・蒼龍)に対しては、爆装せず待機が命じられた。
燃料補給と弾薬補給を求める直掩戦闘機が着艦するため飛行甲板を開けねばならず、兵装転換作業は各空母格納庫で行われていた。このとき不運なことに、アメリカ海軍の攻撃隊が迫っていたのだ。
その頃、アメリカ海軍第17任務部隊の指揮官フレッチャー少将は、ミッドウェー基地航空隊の活躍によって南雲機動部隊の位置をほぼ特定することに成功し、攻撃するタイミングを窺っていた。
午前3時7分、フレッチャーはスプルーアンスに「南西に進み、敵空母を確認せば、それを攻撃せよ」と命じ、これを受けたスプルーアンス少将は午前4時過ぎに攻撃隊発進を命令、第16任務部隊はF4F戦闘機20機・SBD爆撃機68機・TBD雷撃機29機からなる117機の攻撃隊を発進させた。
しかし、午前4時28分に日本軍の偵察機が艦隊上空に現れたことから、まだ日本側には空母を発見されていなかった上、発艦した飛行隊を小出しにすることは戦術としては非常にまずいにもかかわらず、
敢えてスプルーアンスは発進を終えた飛行隊から攻撃に向かわせるように指示した。艦をあげての全力攻撃で、全機を飛行甲板に並べて一度に発進させることができなかったのである。結果的にこのスプルーアンスの決断が勝因の一つになる。
また、日本軍の空母4隻すべての所在を確認した第17任務部隊(フレッチャー少将)も、警戒のために出していた偵察機(当日はヨークタウンが警戒担当)の収容を終えた後の午前5時30分に、
空母「ヨークタウン」からF4F戦闘機6機・SBD爆撃機17機・TBD雷撃機12機の35機を発進させた。
そしてこれ等の攻撃隊は、兵装を換装中の空母機動部隊に向けて魔の手を伸ばしていたのだった。
午前4時28分、
利根4号機は「赤城」の南雲機動部隊司令部に対し、『敵らしきもの10隻見ゆ、ミッドウェーより方位10度、240浬 (南雲機動部隊から200浬)』と発信した。ところが、位置報告がずれており、実際の米艦隊の位置は160km北に偏移している。新規に搭載した機体であったため、
コンパスの自差修正ができず、コンパスに10度のずれがあった為とされる。
約10分後に受信した南雲部隊は、午前4時45分、魚雷から陸用爆弾への兵装転換を一時中断し、
予期せぬ米艦隊発見報告に、南雲司令部は興奮した。午前4時47分、南雲司令部は「艦種を確かめ触接せよ」と利根4号機に命令した。
利根4号機からの返信を待つ南雲機動部隊に、更に新たな米軍航空隊が接近していた。日本時間午前4時53分、
戦艦「霧島」から敵機発見を意味する煙幕が展開され、
ヘンダーソン少佐が指揮するミッドウェー基地のアメリカ海兵隊所属SBDドーントレス爆撃機16機が艦隊上空に到達した。2分後には同隊は日本軍直掩機(零戦)の迎撃を受けヘンダーソン機以下6機が撃墜され、
なおも空母「飛龍」と「蒼龍」を空襲するも命中弾を得られず、ヘンダーソン隊長機を含む合計8機を失った。なおも米軍機の攻撃は続き、
午前10分にB-17爆撃機17機による空襲が行われ、
「赤城」・「蒼龍」・「飛龍」が狙われたが損害は無かった。最後に海兵隊のSB2Uビンジゲーター急降下爆撃機11機による空襲が行われた。この隊は零戦の防御網をくぐりぬけて空母を狙うのは困難と判断し、
戦艦「榛名」を狙って攻撃したが「榛名」は無傷だった。
日本時間午前5時から5時30分にかけてミッドウェー基地を攻撃した日本軍攻撃隊(友永隊)が南雲部隊上空に戻ってきたが、ちょうど米軍ミッドウェー基地航空隊が南雲機動部隊を攻撃している最中であり、日本軍攻撃隊は母艦上空での待機を余儀なくされている。混乱した状況下、南雲は利根4号機に対し「敵艦隊の艦種知らせ」と命じた。すると午前5時20分ごろ、『敵兵力は巡洋艦5隻、駆逐艦5隻』という報告があった。
この段階での南雲司令部は、米軍空母が存在するという確証を持っていない。
しかし午前5時30分、『敵はその後方に空母らしきもの一隻を伴う。ミッドウェー島より方位8度、250浬(発午前5時20分)』との打電が入った。
この空母は「ホーネット」である。偵察機からの通信は、母艦側の受信と暗号解読により10分の差が生じている。
このような混乱した状況下で、南雲司令部は米艦隊の正確な情報を知る必要にせまられた。午前5時30分、第二航空戦隊(飛龍、蒼龍)は二次攻撃に備え250kg爆弾を揚弾する。同時刻に南雲は山口に対し、空母「蒼龍」に2機だけ配備されていた試作高速偵察機十三試艦上爆撃機(艦上爆撃機彗星の試作機)の投入を命じ、同機はただちに発進した。
十三試艦爆は当時の米軍戦闘機の追撃を受けても十分退避可能であり、正確な情報を持ち帰ることができた。
この時、謎の無線がこの十三試艦爆に入電し、直ぐ近くまで米軍機が来ている事を告げて座標を送ってきた。そしてその旨を受けた十三試艦爆は、先の珊瑚海海戦での謎のジェット戦闘機の援護の件もあるから、この情報を全て南雲司令部に通達することに決めて、すぐさま引き返した。
午前5時30分、
偵察に出発した十三試艦爆と入れ替わるように蒼龍攻撃隊が帰還した。この時第二航空戦隊(飛龍・蒼龍)を率いていた山口多聞少将はあらゆることを放棄して、
すなわち護衛戦闘機もつけられるだけ、
爆弾も陸用爆弾で、
かつ一切の人情を放棄して直ちに第二次攻撃隊を発進させることを駆逐艦「野分」を中継して『直ちに攻撃隊発進の要ありと認む』と進言した。更にその時タイミングよく十三試艦爆が帰還して、
付近の海域に敵の空母を中心とした機動部隊がすぐ傍まで迫っている事を謎の無線により知り、その敵機動部隊の座標を通達してきたので実際に調べたところ発見したと、小さく嘘を交えながら報告してきた。
この2つの進言によって南雲司令部は、当初考えていた戦闘機の護衛をつけずに攻撃隊を出す危険性や第一次攻撃隊を見捨てることへの懸念から、帰還した第一次攻撃隊の収容を優先すべきと考え、
山口の進言を却下し、米機動部隊艦隊から攻撃を受ける前に兵装転換を行い、
日本軍攻撃隊は発進可能と考えていたのを転換して、直ぐに機動部隊からの防衛体制を取るよう命令を下した。
彼の今回の判断は正しかった。
もう既に兵装転換を行なっている時間など全く無く、
すぐ傍まで実際に米軍機の大群が近づいていたからだ。
後世のマニアや歴史研究家はもし仮に、彼が当初の考えどおりに作戦の続行を決めていたら、この作戦では最低でも一航戦の2隻(赤城・加賀)を沈没させ、
最悪の場合には二航戦の2隻(飛龍・蒼龍)をも沈没させてしまい、大敗北を記していたはずだと日米両国の研究家は共通の見解を持っており、この当時では謎であった的確な無線が、南雲機動部隊を救ったという認識を抱いている。
「わざわざ固まっているなんて兵装を換装中なのか?
だったら好都合だな!
一気に今日この時を持って4隻とも沈めるぞ!!アーユーレディ!!??」
『イエス!!ボス!!!』
そんな日本海軍が待ち伏せていることなども知らずに、
ジョン・サッチ少佐は、自信の愛機であるF4F戦闘機を操縦しながら、先に攻撃に向かったホーネット雷撃隊の後のエンタープライズ雷撃隊と、ヨークタウン第3雷撃隊の援護をしながら南雲機動部隊目掛けて飛行していた。
彼の周りには頼れる部下オヘア少尉らの自機と同じF4F戦闘機や、同じヨークタウンの雷撃隊のTBD雷撃機などが飛んでおり、まるで大編隊を自分が率いて飛行しているような気分を味わえる。
自分達が到着する頃には兵装を換装中で身動きの取れない状態で、尚且つ危険な爆発物である爆弾や魚雷、それに飛行機用のオイルなどが外に出ているため、
少しでも攻撃の爆弾や魚雷が当たれば次々と誘爆に成功して、ジャップらが誇る南雲機動部隊を一網打尽できるという想像をしていた。
彼の考えを裏付けるように、ついさっきまで南雲機動部隊の攻撃部隊はミッドウェー基地を襲撃していたから、常識的に考えればこちらの接近を知って慌てて兵装を換装中であると想像するのは、
空母に関する知識を持っている軍人であるならば誰でもできることだった。
なので彼は獰猛な笑顔を浮かべながら、何時でも敵機の攻撃に対応できる体勢を油断無くとりながら向かっていた。
周りのパイロット達の顔を彼が横目で見ると、皆彼と同じような表情を浮かべており、まさに自分たちは哀れな獲物を追い詰めている狩人の様に思えた。
時間帯は腕時計を見ると6時40分。
そろそろ先に先行したホーネット雷撃隊からの報告が来る頃だ。
「キュゥイ~イー ズザザー ザザザザザザー」
「ん!?何だ?無線の調子が少しおかしいぞ。こんな砂嵐が混じるような調子は、昨夜と今朝の点検では以上は見られなかったのに・・・・・・・・・・・・」
だがしかし、ふとコクピット内に備え付けられている無線から聞こえてたのは、砂嵐の様な音と電子機器特有の変な音がであった。元々先に先行しているホーネット雷撃隊からの無線を受け取るためにスイッチを入れていたのだが、
そこから流れてくる音は味方の攻撃成功の声では無かった。
けれども、本来であるならばありえない話なのだ。作戦の前日と作戦前の今朝の点検では、全く何も異常は見当たらなかったからだ。
なのでこの様に無線が不調になることなど、ありえない話であった。
なので、彼がしばらく両手で握っていた操縦桿から利き腕の右手だけで握るようにして、そのもう片方の反対側の左手で無線機を色々とガチャガチャと弄繰り回していると、
「ガー・・・・・・・・イ、・・・・・デイ、メーデイ(フランス語で助けに来ての意味。国際救難信号の1つ)、メーデイ!聞こえるか!?エンタープライズ雷撃隊、ヨークタウン第3雷撃隊。奴らに待ち伏せされた!!これは罠だ!!!
メーデイ、メーデイ!!
奴らがいる!!
あの{灰色の亡霊}が!!
早く誰か来てくれ!!!」
「落ち着け!!
ウォルドロン少佐!一体何があった、
何が起きている!!??
そして{灰色の亡霊}とはあの謎のジェット部隊か??おい!!返事をしろ!!」
しばらくの間、先程とは変わらず砂嵐のままであったのだが、やがて何か音が入ってきて次第に元の調子に戻って何の音か分かってきたかと思うと、何と先に先行したはずの味方のホーネット雷撃隊の指揮官からのパニック状態の悲惨な声であった。パニック状態の声なので余り明瞭ではなかったが、言いたいことは痛いほど伝わってきた。どうやらあの謎のジェット戦闘機部隊が襲い掛かって来た上に、
日本軍にも待ち伏せていたようだ。
その証拠に、無線に混じってジェット機特有のうるさいジェット音や、機銃の発射される音などが聞こえてくる。
そして彼に返事を呼びかけている間に、何か物凄い爆音が聞こえたと思ったら直ぐに反応は消えた。
どうやら撃墜されたようだ。
無線はその後うんともすんとも音を流さなくなった。
(まさかここまで来てあの連中が来たのか・・・・・・・・・・・・・・・・・やはり{灰色の亡霊}はジャップと同盟を結んでいやがるのか?そうだとしたらここもかなりまずいぞ・・・・・・・・・・・・・・・・!今すぐ撤退の可能性を考慮しておかなければならないな)
サッチ少佐はもう何も反応しなくなった無線機から興味を離すと、件のジェット戦闘機部隊について思いを張り巡らせ、今すぐ部隊をつれてここから退避して母艦に戻り、作戦の中止をも進言すべきではないかと思っていた。なぜなら件の部隊は{灰色の亡霊}として非常に恐れられており、出会ったらとにかくまず逃げろという噂が流れているぐらいで、
会ったら最後、運の尽きとまで言われていた。
少なくとも音速を超えて飛んでいる相手に対して、380~550km/h程度の飛行機らが勝てる筈があるだろうか?
絶対に戦ったら負けると彼が判断するのは当然だった。
「撤退だ!!すぐに「隊長!!11時の方向から何かが猛スピードで飛来してきます!!!」何!?もう来たのか・・・・・・・!!」
彼がすぐさま周りの編隊に退却を呼びかけようとしたときであった。
見知らぬ甲高いキーンという音と飛行機雲を棚引かせて、
猛スピードで鋭いフォルムの飛行機がマッハを超える速さで飛来してきたのは。その謎の飛行機は灰色の亡霊の名に相応しく灰色を機体全てに統一して塗りこんでおり、ジェット戦闘機らしく機体の全貌は一瞬で見るのが精一杯だ。気づいたら灰色の残像が見えるだけだ。幾ら頑張っても最高速度が600にも満たないアメリカ海軍の艦上機が叶うはずなど、
始めから全くなかったのだ。
ヴァヴォオオオオオオオオオオオオ!!
その謎のジェット戦闘機の編隊はサッチ少佐もいる攻撃隊の中央に向けて機銃掃射をして、中央突破を図ってきた。
その発射の際の音と光で明らかに口径が20mm以上のクラスの代物を使用していると彼には分かり、慌てて緊急退避を周りに無線で伝えながらも自身もしようとしたその時であった。その機銃の雨が彼らをまるでスコールの様に横殴りに襲ってきたのは。たちまち彼の周りには機銃掃射を喰らった機体から大きな火の玉が発生して搭乗者をこんがりと焼き上げ、無線にはたちまち悲鳴や悪態などの声が飛び交う地獄と化した。
「誰か!?誰か助けてく・・・・・・・がはっ・・・」
「いやだ!!こんなところで死にたく「ドッカーン!!」・・・・・・」
「畜生!畜生!畜生!!振り切れない!!!」
誰も彼もアメリカ海軍の攻撃隊は皆平等に女の様な悲鳴を上げ、悪がきの様に悪態を吐きながら何とかその死の雨から逃げようと懸命の操縦桿を握り、必死になってベテランも新人も関係なく動くが、
連中は1機たりとも逃さないといわんばかりに、冷静に機械の様に機銃掃射をしながら突っ込んでくる。その有様はまるで死神だ。彼らが通った後には炎上して火達磨となって墜ちてゆく飛行機や、
機体の一部や羽がもがれてしまい、
急速に落下していく中の途中でダメージに耐え切れず空中分解するものや爆発する機体すらもある。
まさに今アメリカ海軍攻撃隊は狩人の立場から、逃げ惑う子羊の群れへと化していた。
「くそっ、くそくそくそくそくそーっ!!もう、これは戦争ではない。虐殺だ!だから絶対に逃げ延びて、ジェット戦闘機の実用化にテストパイロットとして協力して早く実用化させてそいつに乗ってまた戻ってくるかな!!それまで待っていろ!!!」
彼はこの戦いはまたもやアメリカ海軍の負けだと悟ると、
すぐさま操縦桿を握って機体を後方に回転させると母艦のに戻る事を決意した。
もうこのままでは必ず日本軍の援護で毎回こいつらが出撃してきて、制空権を握れずにアメリカ海軍が敗北しまくるのは目に見えているので、至急に奴らと同じ立ち位置に立つ必要性があると思い、
この戦闘での自分の経験を現在密かに進行中と言われているジェット戦闘機開発に役立てて、いつか実用化に成功したらその戦闘機に真っ先に乗って撃墜してやると復讐を誓ったのと、理性の面が何が何でも生き延びることを訴えてきたからだ。なので彼は逸早くヨークタウン」に戻って、連中が襲ってくる前に作戦の中止を訴えて被害が少ないうちにパイロットの収容を頼もうと思った。
皆さんもご存知かもしれないが、飛行機のパイロットというのは皆総じて優れた人間ばっかりがなるものだ。普通の人間では成るのは大変難しいのだ。
特にそのパイロットが戦闘機という高速で旋回や急降下を繰り返して、機体に備え付けられた機銃で敵機を撃墜したり敵の船に爆弾や魚雷を落としたりする。
そのような機体の運動が出来るのはごく一部のパイロットのみなのだ。今の大抵の新人パイロットがいきなり少尉の階級を持っていることから、彼らが如何にエリートクラスの人間なのかは察することが出来るだろう。
そして熟練のパイロットという存在が、やはり宝石並みの価値があるのは今も昔も替わり無い。
特にアメリカ海軍は現在進行形でエセックス級空母が「月刊空母」の異名どおりに大量に(史実では建造中止したのも併せて28隻ほど)生産されているので、今の空母が幾らは撃沈されようがまったく気にならないのだが、それを操る乗組員やボイラーや艦載機の整備などを担当する整備士、そして空母の主役である艦載機を操縦するパイロットなどは、幾らリアルチート国家アメリカとはいえそう簡単には育成と補充は出来ないのだ。
戦争の基本は高性能の兵器とそれを操る手馴れた兵士をどれだけ大量に用意できたかが大事だ。
幾ら大量の兵器を揃えたところで、
それを使う良く訓練された兵士がいなければ話にならない。
特にこの艦載機のパイロットという貴重な存在がこうも容易く殲滅されていけば、何れ熟練パイロットはアメリカ海軍から1人もいなくなるだろう。そうなればあの{灰色の亡霊}部隊に幾ら機体のレベルで互角になっても、操縦種のレベルで圧倒的な差が有るからまた負けるという事になるだろう。
そうならない為にも、彼は急いで残っている3隻の空母を中心とした機動部隊の撤退を空母に戻り次第、司令部に進言するつもりであった。
だが・・・・・・・
ヴォオオオオオオオオオ!!
「ちっ!やはり俺を狙ってきやがった!!」
彼の周りの飛行機はほぼすべてが撃墜されて海上に火の玉となって落下しており、僅かな生き残りの機体もてんでバラバラに散らばっているので、もはやこの空域にいるのは彼のみであった。
そして連中は生き残ったサッチ少佐機をエースパイロットの操る機体と思ったらしく、彼1機だけに対して実に6機ものジェット戦闘機が撃墜しようと襲い掛かってきたのだ。
その姿はまさに群狼のようであった。
サッチ少佐は必死に自分の愛機であるF4F戦闘機を巧みに操りながら、迫り来る死の雨を回避し続けるも、相手がジェットエンジンの戦闘機なのに対してこちらはレシプロエンジンの戦闘機だ。
次第に連中の機銃に行動範囲を狭まれて包囲されていき、ついには機体後方部に数発当たって命中してしまった。
だが、運命の女神様は彼だけに少しばかり微笑んでくれた。
ガチャガチャ カチッ
「やった。やったぞ!無事にハーネスを完璧に外せた!!」
彼は何と他のパイロットたちと違い機体に被弾はしたものの、無事に自分の体を固定していたハーネスを外す事に成功しており、何とか機体が炎上して爆発する前にパラシュートで脱出できそうになっていたのだ。
他のパイロット達は残念なことに、
ハーネスを外そうと努力している間に炎上中の機体の帆脳に包まれて焼死したり、爆発の衝撃で体が吹き飛んで即死したりしてしまったり、運が悪いと機銃弾が体に当たってしまって脳漿をぶちまけたりして即死したりしてしまったので、
彼の様に無事に脱出できなかったのだ。
なので彼はとても幸運だといえるだろう。
「じゃあな、クソッタレの亡霊共よ!!
俺を倒しきれなかったこと、後悔させてやるぜ!!」
彼はそんな事を言いながら全てハーネスを外して自由となり、機体の外に向かってパラシュートを背負いながらジャンプしたその時であった。
ボォン! ドカーン!!
愛機であった機体はエンジンに火が回ったらしく、大爆発と共に炎上しながら破片を周囲に撒き散らしながら落下していったのだ。
その破片の一部が猛スピードで彼の足目掛けて飛んでくるので、彼は慌てて避けようとしたが・・・
ザクッ
「ぐぅおぉッッーーー・・・・・・!!畜生め、かなり足が今ので抉られちまった・・・・・・」
避けようとしていた彼の右足のふくらはぎを2cmほどの切れ込みを刻みながら破片が飛んでいき、
彼の右足は傷口からかなりの出血をしてしまうような、
比較的軽めだが重傷を負ってしまった。間違いなくベットでしばらく過ごす破目になるだろう。
そのような不運はあったものの、
彼はその後無事に何とか海上に落下することに成功し、戦闘後に自軍の救助艇に収容されてハワイに送られた。
だが、このことで彼は「ヨークタウン」にその意見を伝えることが波間を漂っているので出来なくなり、彼の意見が届かず、第16任務部隊と第17任務部隊は大変な目に今遭っていたのだ。
もう既に、日本軍の攻撃隊と{灰色の亡霊}が機動部隊を襲っていたのだ。
ヒューン ヒューン
ドカーン! バコーン!
既に攻撃開始から1時間は経過しているだろうか、第16任務部隊と第17任務部隊の上空を我が物顔で日本軍の飛行機とジェット戦闘機が飛び交っていた。
何故こんなことになったのか、少し前の1時間前に時間軸を戻してみよう。
「ヨークタウン」
「エンタープライズ」
「ホーネット」。
この3隻を中心とした空母機動部隊は、
少し前までは日本軍を待ち伏せするためにいち早くミッドウェー海域に向かっていて、何とか先に到着し、先手を打つ形で攻撃部隊を派遣したので、日本軍の攻撃を待ち伏せる形で敵機の襲来に備えていたのだ。
既に各艦艇は防空用の陣形を整えており、高射砲や対空用機銃なども上空に向けて銃口の向きを変えていた。そんな状態なのでレーダーに日本軍の攻撃隊と思わしき機影が映った時には、彼らは掛かったなとほくそ笑んで対空砲火の射撃を開始しようとしていた。その時だった。
「レーダーに新たな敵影を確認!その数12機程度・・・・・・何だこの速さは!?とても日本軍の戦闘機とは思えない!!??」
各空母の搭載しているレーダーに表示されている敵影に新たな機体が混じりこんできて、猛スピードでこちらに向かっているとの情報が入ったからだ。特に先の海戦で攻撃を受けたヨークタウン」にとって、このスピードで飛来してくる謎の機体は、見覚えのあるものであった。
「奴等だ・・・・・・・・間違いなく奴等だ、奴等がやってきたんだ!!{灰色の亡霊}が俺達を地獄に送る為にまたやってきたんだ!!!」
ある駆逐艦の艦長はそのように言って、トラウマとなった機体を見てしまったのでパニック状態となっていた。
そう、先の海戦でアメリカ海軍を敗北に追い込んだ、あの謎のジェット戦闘機部隊が日本軍の攻撃部隊に混じって襲撃してきたのだ。
「何だあのスピードは!?アンナ速度で飛行する機体が存在するとは・・・・・・・・・・・・・」
スプルーアンス少将は自身の率いる第16任務部隊の旗艦としている「エンタープライズ」の艦橋から、実際にこの謎のジェット戦闘機の飛行してる様を双眼鏡で見て呟いた。
噂では聞いていたものの、確かに自分の両目で見てみるとその脅威が嫌と言うほど理解できた。
まず何よりも顕著なのが、スピードが全く違うことだ。
相手の機体はこちらの機体の約2倍の速さで動いているので、こちらの機体が連中の機体に追いつけないのだ。なので当然後ろに回りこむことが出来ず攻撃できないので、相手から一方的に背後を取られたりして機銃やロケット弾を撃たれるだけなのだ。
次に相手の機体の防御力がかなり高いのだ。20mmクラスの口径の機関砲を使用しているため、
機体の防弾性もかなり高いだろうなと予想していたが、
まさか12.7mm機銃弾が奇跡的に当たっても跳ね返されるほどとは思ってもいなかった。12.7mm以上の口径の火器で攻撃するも、20mmがたまに機体を掠めるだけで全く無駄にぽんぽんと無駄弾を撃つだけだ。
そうこうしているうちに敵機はこちらの防空を守るはずの艦上戦闘機を全て撃ち落すと、今度はこちらに向かって機銃掃射やロケット弾などを打ち込んできた。あちこちの40や20mmの銃座に配置して射撃していた兵士達の悲鳴や血煙などが上がり、
彼らの手足が吹き飛ぶのが司令室のここからでも見える。
そうしてこちらの対空砲座をある程度つぶすと用は済んだといわんばかりに帰還して行ったのだ。
それと同時に、
タイミングよく先程から上空で邪魔にならないように旋回していた日本の攻撃隊が攻撃してくる。
250kgから500kg、そして800kgの爆弾が急降下爆撃で落とされていき、更に魚雷なども撃ちこまれて行く。この攻撃を邪魔するような対空砲や機銃は全て破壊されているので、こちらはスピードを上げて航行することで逃げるしか他が無い。
この攻撃で両方の機動部隊の3隻の空母全てが中破状態となり、他には補充したばっかりの10隻の軽・重巡洋艦が撃沈または大破に追い込まれ、
13隻の駆逐艦が撃沈して6隻が大破していた。
「このままではわが艦隊はなぶり殺しだ・・・・・・・・」
彼がそう考えてフレッチャー少将に、
撤退も見据えた意見を述べようと無線機を取ったその時であった。
「敵機急降下!!
数はおよそ4機です!!」
艦上攻撃機と思わしき期待が4機ほど、250kg爆弾を抱えたままこちらに急降下爆撃を行なってきたのだ。
(ここまでか、自分の人生というのは・・・・・・・・・。最後にはイトウに会いたかったな・・・・・・・・)
日本海軍の駐在武官として自分と親交深めた伊藤整一の顔を思い浮かべながら、スプールアンスの意識は大きな爆発音と衝撃によって遠のいていった。
「畜生、畜生、畜生!!スプールアンスが・・・・・「エンタープライズ」が・・・・・・・」
その光景を少し離れた「ヨークタウン」の司令室から、フレッチャー少将が見ていた。
彼の乗っている「ヨークタウン」も中破状態で、何とかこの船を動かすので一杯一杯だったのだが、
「エンタープライズ」が急降下爆撃で司令室と甲板を潰された所為なのか、やがて船体がノロノロと動いていたのが停止したと思ったら次の瞬間、甲板が大きな火柱を上げながら爆発で吹き飛び、
船体の方もその衝撃で右舷に傾き始めていた。誰がどう見ても「エンタープライズ」の沈没は免れなかった。
そしてスプールアンス少将の生存は絶望的であった。
なので2つの合同機動艦隊の判断は全て彼に委ねられることとなった。フレッチャーは自分の部隊の残存と彼の残存部隊の数を調べると、
これ以上の戦いは不可能と判断して、ハワイにミッドウェー基地の残存部隊も引き連れて退却することとなった。
その意見に誰も反対する者は誰1人としていなかった。
あの後無線でミッドウェー基地にも連絡を取ったのだが、
どうやらあの基地も日本軍の攻撃後にあの部隊に攻撃され、
まともな防御陣地やトーチカなどや補給物資などをほとんど失ってしまったそうだ。これでは陣地に篭るのも不可能だということで、何とか艦艇を集めて生存者達と一緒にそれらにのってこちらで収容してくれないか?と逆にこっちが頼みたいのに頼み込んでくる有様だった。その際に無線を使って日本軍に島を明け渡すから退却するのを邪魔しないでくれと頼み込み、彼らの許可を取って安全を確保してからこちらに向かってくるそうだ。
なので彼はこちらに向かっているミッドウェー基地の残存部隊が合流してから、ハワイに合流するつもりであった。
(今日もまたあの連中の妨害によって勝てなかった・・・・・・・・・・・・・
一体全体連中は何なのだ??何の目的があってああして乱入してくるのだ!?
どうして日本軍に2回とも味方するのだ??一体アメリカに何の恨みがあるのだ!?)
彼は頭の中で止め処も無い意見や思いを渦巻かせながらも、無念極まりないという表情のまま撤退を命じて艦隊を一路ハワイへと向かわせた。彼のその指揮を取る後姿にある者は言った。
「まるでこれから自殺しに高層ビルに歩いていくサラリーマンのようだと」
こうしてミッドウェー海戦はまたもや米軍の敗北に終わり、ミッドウェー島の基地にいたアメリカ軍はフレッチャーの指揮の下無事に撤退して、日本軍は当初の予定通りにミッドウェー島の占領に成功し、ミッドウェー島に航空基地を建設して防空圏を築き上げることに成功したのだ。
「・・・・・・・・ッ、・・・・・・・下!レイモンド・スプルーアンス閣下!!」
「うーーん・・・・・・・はっ!!・・・・・・一体ここは・・・・・・・・・ベッドの上なのか??」
スプルーアンスは暗い闇の中にいたはずだが、どこか聞き覚えのある自分の声を呼ぶ男の呼びかけに意識を戻して目を開けると、気づいたらベッドの上に寝ていたので状態をゆっくりと上に上げながら周囲を見渡した。
すると自分の左隣に誰かが座りながらこちらを見ていることが分かった。そしてその顔をふと見てみて思わず凍りついた。その顔は最後に一目会いたいと思っていた、軍令部次長の伊藤整一でその人であったからだ。
「イトウ!?何で君がミッドウェーにいるんだっ・・・・・・・・・・あっ、そうか。どうやら私は日本軍に収容されたようだな。だから君がここにいるのだろう?捕虜の尋問にとてもふさわしい人物だからな。」
「あぁ、その通りだよ。スプルーアンス。君はあの海戦で海上を意識不明の状態で、部下に保護されながらボートで漂っていたところを我々帝国海軍が収容したのだよ。あぁ、安心してくれたまえ。
君と一緒に収容された部下達や、他にも海上を漂っていて収容された乗組員などは、救助された全員ジュネーブ条約にきちんと則った待遇を受けて収容されているよ。」
「そうか、それならば私にはもう何も言う事は無いんだが・・・・・・・・・」
久しぶりの再会に思わず彼は上半身を上げて何故ここにいるのか尋ねたが、すぐさま有る可能性にたどり着いてしばらく無言となった後、彼に自分が日本軍の捕虜になった事を確認してきた。
その問いに対して伊藤整一中将はその通りだと答え、スプルーアンスのほかにも彼を保護しながらボートで漂っていた部下や、あの海域で海に投げ出されていた乗組員達も救助して、ここでちゃんとジュネーブ条約に則った扱いを受けている事を告げると、安心した様子でふーッと深呼吸をしていた。
スプルーアンスはまさか自分だけが救助されたのではないかと思ったから、
その答えに安心してしまい、全身の筋肉の力が抜けてくるのを感じた。
それと同時にここは一体何処なのかという疑問が湧いた。
確か自分と部下達はミッドウェーの辺りにいたはずだ。普通に考えるならば自分達は帝国海軍の艦艇に収用されたと考えるのが普通だが、
長年海軍に勤めていて船にも長年乗ってきた彼には、自分が今居るここがなんとなくだが軍艦の中だとは思えなかった。
なので尋ねて確認しようと思い、その旨を彼に聞いてみた。
「色々と懐かしの友人と再会を祝って話したいことはあるのだが、今すぐ聞いておきたいことがある。一体ここは何処なんだ?最初は君達帝国海軍の軍艦の中かと思ったのだが、
何となく直感的に考えるとそうでは無いと感じるんだ。一体何処なんだ?」
彼が自分の直感的にここは船内では無さそうだから、一体ここは何処なのか教えてくれと尋ねると、彼はニヤリとまるでいたずら小僧の様な笑顔を浮かべた。
その笑顔は彼が駐在武官としてアメリカに滞在中、自分が何度も見てきた何か驚かせようとしているときの顔だった。
少し嫌な感じがするが、それでも尋ねずにいられなかった。
「うーん、そうだなー。じゃあヒントを上げよう。ヒントは我々帝国海軍の母港とする4つの鎮守府の置かれている場所のうちのどれかだ。場所は全て分かるよな?」
「あぁ、それは君の国の民間人でさえかなり知っているものはいるだろう。横須賀・呉・舞鶴・佐世保の4つだろう?
その中からという事は、うーーん、呉か?」
笑顔のまま伊藤は今スプルーアンスと部下達が捕虜として収容されている場所が、帝国海軍の擁する4つの本拠地の内のどれかであるという事を答えた。
その4つについては仮想敵国の海軍について色々とアメリカ海軍でも情報を知っているため、
彼はまず候補地の1つとして広島県の呉鎮守府を挙げた。
この鎮守府は「呉海軍工廠」という巨大な工廠を抱えており、あの戦艦「大和」の建造で有名な場所だ。
現在は呉海軍工廠は解体されてジャパン マリンユナイテッド呉工場として大型民間船舶の建造を行っており、艦艇建造は行っていない。
東洋一と呼ばれるほどにまで設備が充実しており、工員の総数は他の三工廠、
横須賀・佐世保・舞鶴の合計を越える程で、ドイツのクルップと比肩しうる世界の二大兵器工場であったので、日本海軍艦艇建造の中心地であった。
他にも「海軍潜水学校」という、大日本帝国海軍における潜水艦乗組員を養成する教育機関を抱えていたりと、
呉はかなり重要な場所であったので、
ここに収容されているのではないかと思ったのだ。
その意見を彼に言うと、彼は先程と変わらない笑顔のまま「No」と答えた。
どうやら違ったようだ。
では次の候補地として、スプルーアンスが考えたのは「佐世保鎮守府」であった。この鎮守府は九州を初めとする西日本地域一帯の防衛と朝鮮・中国等東アジアへの進出の根拠地として、天然の良港で「水軍」松浦党ゆかりの地であるこの地に鎮守府が築かれたのだ。
この鎮守府は先程挙げた呉に比べてミッドウェーに近く、
いざという時にはこの佐世保周辺の海域に逃げ込めば、
台湾や朝鮮半島からの航空隊の援護も可能な場所なので、中国大陸からのアメリカ陸軍航空隊の攻撃がまだ無いので安全地帯であった。
なので先程の「ドーリットル空襲」で防空網に不安と疑問を抱かれたかの地に比べればこの地のほうが安全なので、
ここの鎮守府に収容されたのではないかと推測したのだ。
しかし、その推測に対しての答えは先程と同じ「No」であった。
となると、残りは2つで1つ目は京都府にある「舞鶴鎮守府」だ。対(旧帝政)ロシア・現ソ連への戦略上、日本海軍は日本海側へ海軍の軍事拠点を設置する事が悲願となっており、湾口が狭くて防御に適しており、
また湾内は波静かで多くの艦船が停泊できるなど軍港としては格好の地形であった舞鶴湾に白羽の矢をたて鎮守府を築いたのだ。しかし、
そこはかなり今までの2つの鎮守府よりも南方海域から遠いので非現実的だ。
となると、やはり最後の可能性として残されているのは、
スプルーアンスにとってはあまりにも畏れ多い場所であるあの鎮守府だろう。
伊藤のおかけであの鎮守府の近くにある、かの伝説の日本海海戦の主役で、伝説の提督トウゴウがここで指揮を取った戦艦「三笠」が、記念館として停泊されている三笠公園の写真などを幾らか送ってもらったことがある。
世界3大記念艦
(他にはイギリスのトラファルガー海戦で有名なネルソン提督の旗艦として現存する唯一の戦列艦「ヴィクトリー」と、アメリカの米英戦争で名を馳せたコンスティチューション)の内の1つとして著名な「三笠」と、東郷平八郎元帥をニミッツほどではないが尊敬する彼にとって、出来ることなら捕虜としては訪れたくない場所であった。だが、今更とやかく言っても捕虜となった以上仕方ない。
よって彼はふーっと深く深呼吸して息を整えると覚悟を決めて、その鎮守府の名前を答えた。
「横須賀鎮守府か?」
「that's right!ここは我々帝国海軍の本拠地ともいうべき場所。天下に名高き横須賀鎮守府だよ。君はあの戦艦「三笠」の写真を送ってあげた時、かなり喜んでいたな。」
彼がその鎮守府の名前を口にすると伊藤はその通りだと英語で返答して、何か色々と言ってきたがその言葉は彼の耳に全く入っておらず、
彼は自分の予想通りの答えに思わず天を仰ぎ見て溜め息を吐いてしまって、
しばらく意気消沈した様子で顔を手で覆って塞ぎこんでしまった。
間違いなく自分と部下達は日本軍の捕虜として収容されて、利用価値のある捕虜として彼らの本拠地に連れてこられたのを悟り、勝者ではなく敗者として栄光あるこの地に送られたことに対する自分の不甲斐なさというか、これからの先の見えない未来に対しての不安な気持ちや、改めて捕虜になってしまった実感が体に湧いてくるのが彼には感じ取れた。
彼とその部下達が収容されている神奈川県横須賀市の「横須賀鎮守府」は、日本で一番歴史ある鎮守府であり、色々な海軍に関係する建物や設備の整った日本で一番整った鎮守府でもある。
海軍に関する教育の建物としては、
「海軍水雷学校」=海軍の水雷術(魚雷・機雷・爆雷)指揮官・技官を養成する教育機関。海軍将校として必要な雷撃術・水雷艇や駆逐艦の操艦術・機雷敷設および掃海術・対潜哨戒および掃討術の技能習得、魚雷・機雷・爆雷・防潜兵器・策敵兵器の開発研究などを教育する。卒業生の多くが、
軍艦水雷長や駆逐艦長・潜水艦長・掃海艇長・水雷艇長・水雷団幹部・軍艦艦長を経て、水雷戦隊司令官・潜水戦隊司令官・戦隊司令官・水雷団長・艦隊司令長官へと昇格した。
「海軍工機学校」=海軍のにおける機関術・造船術の専門家を養成する教育機関。海軍機関学校を卒業した機関科将校の教育・研究・実験を推進する普通科・高等科・専攻科・特修科と、機関兵・機関下士官の訓練・実習を推進する普通科・高等科を設置し、
技術者として必要な知識と技能の習得を図った。
「海軍航空技術廠」=日本海軍航空機に関する設計・実験、航空機及びその材料の研究・調査・審査を担当する機関であり、山本五十六が1932年に設置した。
航空兵器の設計および実験、航空兵器およびその材料の研究、調査ならびにこれに関する諸種の技術的試験などを掌るほか、航空兵器の造修および購買に当り、総務部・科学部・飛行機部・発動機部・兵器部・飛行実験部・会計部および医務部があり、各部のおもな所掌事項は航空機およびこれに関連する器材の性能の研究または調査などで、職員は廠長・部長・検査官・部員などで、廠長は横須賀鎮守府司令長官に隷し、廠務を総理し、
技術的なことは海軍航空本部長、または海軍艦政本部長の区処を受ける。
ちなみに当時、
勤務していた技術者達は何れも俊英揃いで後に公職追放等で国鉄また民間企業に散らばった後も各方面で活躍して日本の産業界の復興、
発展に尽力した。
新幹線の開発、
自動車産業の発展、
電子産業の発展には彼等の功績が大きい。
これらのような海軍に必要な教育学校が、まるでアメリカのアナポリスと称される海軍兵学校のように全てここに揃っており、近くには三笠記念公園があるなど、帝国海軍にとってとても重要な場所なのだ。
そのような大事な場所に収容されていると思うだけで、
とても不安な気持ちで心が一杯になってくるのがスプルーアンスには分かった。
友人であった彼の事だから嘘はついていないと思うのだが、それでも彼しか知らない敵国の地に部下と共に捕虜として収容されるのは心細かった。
これから一体自分はどんな目に遭うのだろうか?
何時祖国に帰還することが出来るようになるのだろうか?
アメリカと日本の戦争は今どんな戦況となっているのだろうか?
祖国の残した家族や同僚は今頃どうしているのだろうか?
そのような思いが取りどめなく溢れてきて、何か胸にじわりと込み上げてくる何か熱いものがあった。
「あー・・・・・・・まぁ、その、私も被災振りの再開がこうなるとは思ってもみなかったよ。運命とは皮肉だよな。」
そんな彼を気遣うように伊藤はそう言い、何とか彼がこれ以上暗くならないようにしようとする。
そんな彼の気遣いで少し落ち着いたスプルーアンスは、
ここで彼なら知っているかもしれないと、とある質問を彼に尋ねた。その質問はあの戦闘に参加していたアメリカ海軍なら、誰もが知りたがるだろう質問であった。
「あの謎のジェット戦闘機部隊は、君達日本軍のものなのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・それについては本来ならばノーコメントと答えるべきなのだが、君だけに特別答えよう。」
その質問に彼は当初無言でいたが、
やがて観念したように君だから話すと強く念を押してから、それに対する答えを口にした。
「あれは私達にも良く分からないのだ。ただ1人しか彼らの事を良く知らない。だが、少なくとも彼らは我々の味方であって、{枢軸の味方}ではない。この意味は分かるよな?」
「あぁ、もちろんだとも。それで、その1人とは一体誰なのか?山本五十六か?
(少なくとも連中は日本軍だけに味方するつもりなのか。
ならばイタリアやドイツに味方することは無いということだな。でなければ「枢軸の味方」ではないと強調した意味が無いからな)」
伊藤はスプルーアンスにそのように彼らのことは帝国海軍でも1人を除いて知らないと答えると同時に、彼らは日本の味方であって枢軸陣営の味方をするつもりは無いという事をわざわざ強調してきた。そしてそのことは理解できるよなと聞いてきた。
なので彼は無論それが理解できると答えると同時に、その1人とは一体誰なのか気になった。
何故なら軍隊として是非知っておかなければならない情報を、彼ほどの高級将校である身分でさえ知らないとなると、
一体どれぐらいそれ(灰色の亡霊)について秘匿が厳重になされているのか、
大変興味を抱いたからだ。
彼はあくまで元帥クラスの人間かと想定していたのだが、
その予想を大きく上回る人物が出てくるとはこの時思ってもいなかった。
「裕仁様だ。」
「w what?(何?)」
「今の天皇陛下の名前だ。栄えある大日本帝国の首長であり、国家元首でも在らせられる天皇陛下しか彼らについてよく存知ておられないのだ。そして陛下のみが知っているので、迂闊に我々が尋ねるわけにはいかないのだ。そんな事をしたら、{カミソリ東條}が怒り狂うのは目に見えているからな。」
伊藤はあの昭和天皇として有名な裕仁殿下の名前を出し、
彼の人のみが知っていると答えた。
そしてそれ以上聞くことは、かの人の御心を乱そうとしているとして今の実質的に日本を動かしている内閣総理大臣で元陸軍大将の「東條英機」が動く事を告げた。
ちなみに、彼が如何して「カミソリ東條」と呼ばれているのかと言うと、民心把握に人一倍気を遣ったてゴミ箱を漁ったりして、民衆のモラルの程度や生活レベルがどれぐらいか自分の目で調べたり、
愛用の手帳に多く付箋を貼っているようなメモ魔で神経質な性格。細かいところ所まで把握し、
更に『カミソリ東條』と呼ばれる程、
頭が切れ、また憲兵隊に太いパイプがあったからだ。
実際、彼が率いる憲兵隊は諜報組織の捜索・検挙には一定度の成果を出していたからだ。
更に彼は狂信的な天皇崇拝者なので、
真珠湾攻撃が行なわれたあの日には皇居に向かって、戦争を避けたがっていた陛下のご命令に背くことになって申し訳ないと号泣したりと、天皇陛下に対する厚い忠義を証明するようなエピソードは欠かせなく、陛下からも信頼が戦後になっても厚い程なので、そんな彼が敬愛する天皇陛下に犬猿の仲である海軍の軍人が近づけば、
一体何事かと容赦なく噛み付くのは目に見えていた。
そして思わぬ超大物の名前が出てきたことで、スプルーアンスの脳は一瞬、
余りの衝撃に思考停止してしまった。
何せその人の名前は、スプルーアンスのような白人世界で言う、全キリスト教徒のトップに立ち、
ローマ・カトリックのトップであるローマ法王並みに権威ある人物の名前であったからだ。
まさかそのような大変権威ある人物の名前が出てくるとは思わなく、彼の脳は思わずビックリして固まってしまった。
(まさかそのような大物の名前が出てくるとは思ってもいなかったな。しかし、確かにかの人のみが知っているとなれば、伊藤らはうかつに尋ねるわけにはいかなくなるな。日本が帝国である以上は、
そういった陛下に関わることはむやみやたらに尋ねるのは、暗黙の了解とやらでタブー視されているからな。)
そのような事を脳裏で思いながら、彼は伊藤にそのままそれ以上たずねるのはやめて、替わりに久しぶりに再会した事を祝して色々な話をすることにした。
彼にこれ以上その事について尋ねても、そのような事情から知らないので答えられないだろうと思ったからだ。
そんな友人である敵国の軍人の心遣いに大変ありがたく思うと、伊藤は彼の切り替えにのって色々な話を昔の様に始めたのであった。
そんな彼らを窓の外から、太陽だけが見ていた。
同時刻 とある大型空母の甲板上において
「しかし、本当に奇妙なものですなぁ。」
「あぁ、まったくだ。まさか並行世界とやらの自分を助ける任務が廻って来るとは、流石に色々人生で経験してきた積もりだが予想外だよ。」
「全くもって忌々しい!ここでもあの米国との戦争となるとはな。今度はそれにイギリスとフランス、そしてあのソ連までもがアメリカの同盟国とはな。この世界の大本営は地獄に一直線に突撃して玉砕するようなものだというのに、何故それが分からないのだ?東條閣下や山本閣下もそれを理解できるだろうに、どうして引き止めなかったのだ!?」
「ヤポンスキー(日本人)の皆さんの気持ちは分かりますが、その気持ちは我々も引けは取りませんよ。偉大なる同志スターリンがあのような粗暴で残虐な人物であるはずが・・・・・・・・・」
「まぁ、この世界でもボヘミアの伍長閣下は伍長閣下であったがな。」
「何時の時代もポーランドは分断されるのが当たり前なのか!?カチンの森については絶対に我々は許さない!!」
太平洋のど真ん中に、とある一隻の巨大な空母が海の上に君臨している。そしてその周りを固めるように、巡洋艦と駆逐艦らしき艦艇が陣形を組んでいる。
この空母の名前は「キエフ」。キエフ級大型空母の1番艦で、地球連合海軍の所有する大型空母である「スターリン」級空母の補助役として建造された空母である。艦載機を96機ほど搭載できる補助役の空母とは思えない大型空母で、この世界では匹敵する大きさの空母は存在しなかった。
(実際に補助役の空母として軽空母や護衛空母などがあるが、それも搭載機数はレシプロ機で36ぐらいなので、
ジェット機を96機も搭載可能なこの空母が補助役というのは、世界中の海軍関係者や政府官僚の常識をぶち壊し、
彼らが余りの衝撃とストレスで病院送りとなるのに十分であった。)
そしてそのような空母と対空ミサイルで武装した艦艇を擁するこの艦隊は、
地球連合政府創立に大きな貢献を果たした旧ソ連のトップであり、元地球連合政府初代大統領である男の頼みで太平洋ハワイ諸島沖に突如出現した謎のゲートを通り、この世界のこの海域に艦隊ごとやって来たのだ。
そして彼らが目にしたのは、自分達の知っている第2次世界大戦とは違う経緯を辿っている第二次世界大戦であった。
そして艦隊の乗組員達が自分達の知っている歴史とは違う人たち、違う歴史に呆然としているところに、再び通信である男がとあるお願いをしてきたのだ。
曰く、
「現在この世界の日本海軍がミッドウェー攻略作戦を実行しようとしている。
この海戦は日本帝国海軍の命運を決めるとても重要な海戦となるだろう。下手をすれば日本帝国海軍の虎の子である空母を一気に4隻同時に失うことになるだろう。そうなればこの戦闘以降、日本帝国海軍は敗北の道へと転落し続けることになるだろう。
なので君達には日本帝国海軍の支援を、秘密裏に実行してもらいたい。
なお、この事は{向こうの日本}にも秘密である。知っているのはかの国の天皇陛下だけである。
なのでとにかく隠密に実行してもらいたい。我々は本来いるはずの無い存在なのだから。」
と通達してきて、
艦隊のそのような無茶振りをお願いの形で命じてきたのだ。艦隊はそのような彼からの無茶振りに思わず頭を抱えたのだが、あの偉大なる男の命令とあっては断ることも出来ず、彼らはその命令どおりに秘密裡に日本帝国海軍の援護を今までしてきたのだ。
そして今、彼らは日本帝国海軍のミッドウェー攻略作戦の援護に成功して、
元の世界に一旦返るための準備と作戦の疲労を癒すために休憩を取っていたのだ。その「キエフ」の甲板上で、空母艦載機のパイロット達が集まってこうして自分達の世界とは違う時間を辿っているこの世界について、
色々と溜め込んできた感想や不満をぶちまけているのだ。
そのパイロット達は色々と軍事オタクと呼ばれる者たちが見れば、思わず噴出すのは間違いない各国のエースパイロット達ばっかりであった。
日本人のパイロットならば「赤松貞明」「岩井勉」「笹井醇一」「坂井三郎」「武藤金義」
西ヨーロッパ系のパイロットならば「ヴァルター・クルピンスキー」「ピエール・クロステルマン」「ギュンター・ラル」
東ヨーロッパ系のパイロットならば「スタニスワフ・スカルスキ」「ボリス・サフォーノフ」「アレクサンドル・シェルバネスク」
といった有名な者からあまり認知が低い者まで、古今東西のエースパイロットと称される者達がこの空母に集められていたのだ。彼らは皆全て旧ソ連が作った傑作ジェット機「MiG-5戦闘機」をモデルに海軍向けに設計された「MiG-6戦闘機」(*スターリンの憂鬱3を参照)を使用し、この強力な航空機による制空権支配と航空支援によって日本帝国海軍を密かに援護していたのだ。
彼らは既に合計で500機をこえるアメリカ軍機を撃ち落しており、アメリカ海軍の軍艦も50隻は輸送船も含めてたが撃沈していた。
「まぁ、スターリン様はこれからもこういう形で密かに日本に肩入れしながら、この世界に地球連合軍を進出させて戦争を終わらせるつもりらしい。その考えは個人的に賛成だ。こんな戦争は何も生まないからな。ただ憎しみと無駄な損失を生むだけだ。」
「あぁ、その通りだ。既にポーランドがあのような悲惨な状態になっているのだ。早く何とか惨劇をこれ以上生まぬよう我々の介入で食い止めなければ!」
彼らはこのように介入する必要性について語り合った後、後続の艦隊と交代する形でゲートをくぐって元の世界の戻り、世界中にこの世界に介入する必要を訴えていっていき、民衆に積極的介入を訴える勢力の構築に多大な貢献を果たした。
そして彼らをゲートを通じてこの地に派遣した男、「ヨシフ・スターリン」は何をこの時していたかというと、
隠居したスターリングラードのダーチャ(別荘)で、ある人と電話をしていた。
「どうでしたか?
私の派遣した艦隊の実力は。何?予想以上の働きをしてくれたと。それは当然のことです。彼らは実戦経験は少ないとはいえ、
彼らの操る機体はそちらの10年先は行っているのですから。負けるはずがありません!えぇ、分かっていますとも。
貴方のお望みである戦争の早期終結について、我々は何か一切の利益や賠償を求めませんとも。
ただそちらの世界の平和の為に尽くすおつもりですよ。・・・・・・・・・・・はい、それは承知しております。
誰よりもそれは承知しております。幾ら悪人とはいえ、並行世界の自分を殺す覚悟は出来ています。
なのでご安心を。
ではまた後ほどそちらの作戦が決まりましたら我々にもご連絡ください、裕仁陛下。必ずや多大な支援を約束いたします。
今我々もそちらに対する支援の一環として、戦艦4隻と空母8隻を中心とした艦隊を2つほど派遣するつもりですから。えぇ、えぇ。それではまた。殿下」
ガチャン
「ふーっ、やはり世界線が違うとはいえ、史実の昭和天皇のカリスマはこちらとは変わりは無いな・・・・・・・・・」
昭和天皇こと裕仁さまとの電話を切って、スターリンこと田中広樹は緊張から開放された様子で、窓辺に立って外を見ながらしばらく呆然としていた。
彼は昭和天皇の国を思う姿と生粋の高貴な血筋に備わっている生まれつきの気迫に圧倒されており、電話を終えた後にもまだその余韻が残っていたので呆然としているのだ。
ちょうど2週間前に太平洋ハワイ諸島に出現した謎の大きなゲートを調査して、そのゲートの先をくぐった自分の手駒(元MVDやKGBの職員ら)による調査団からの報告でどうやら史実の1941年の世界と繋がった事を理解した彼は、すぐさま史実の世界の歴史をも改変すべく、密かに昭和天皇の元に日本人の部下を派遣して協力を持ちかけ、協力得ることに成功した後には天皇陛下から色々と日本陸海軍の作戦スケジュールを教えてもらい、彼の許可を得てから色々と密かに作戦に介入していた。
2人の共通の目的は、この世界大戦を日本になるべく有利な状況で終えること。そしてドイツとソ連をぶっ潰すことであった。昭和天皇は密かに接触してきた彼の部下が自分に渡してきた受話器から、こちらのスターリンが自分にはもう1つの人生があり、その人生は昭和天皇の後の時代の平成という時代を生きていた日本人の魂があること。そしてこの第二次世界大戦について色々と話を知っているというカミングアウトを聞いた。突然のカミングアウトだったので天皇陛下は驚いていたが、彼が真剣にいろいろと話をしてくれて、さらにこの時代の日本人ならば宮内省(今の宮内庁の前身)所属以外の人間には余り知られていないような天皇家の事情についても詳しく細かく話したので、彼が嘘をついていないと信じてくれたのだ。
そして陛下は彼の話を聞いてもアメリカに対してはそれほど恨みを持ってはいなかったが、共産主義の思想の下で人民を大量に虐殺するこちら史実のスターリンや、ユダヤ民族を収容してホロコースト(大量殺戮)を行なったヒトラーの2人に関しては、1人の国家指導者として怒りを隠せず、こちらのスターリンに2人の始末を密かに許可を彼から求められた時、少し考えた後に許可したのだ。「朕が許す」と。
こうして陛下からも正式に認められたスターリンは、今こうしてまず最初にこちらの世界のスターリンとその周辺をどう殺そうかと考えながら、「珊瑚沖海戦」の勝利と「ミッドウェー攻略作戦」が成功したのか朗報をさっきまで待っていたのだ。そして今成功したという報告を陛下から受け取ると、
彼はしばらく陛下の気迫に畏怖して呆然としていたのだが、
時間が経つとそれも薄れてきたので、
彼は2つの作戦の勝利の実感が次第に湧いてきて、思わず大きな声で万歳と日本語で叫びながらも喜びながら浮かれた様子で、別荘内を駆け巡るなど興奮状態に陥っていた。
「よっしゃー!!!
これで角川のあの○○これくしょんのMI作戦とAL作戦の内容と、一航戦と二航戦のボイスの内容もかなり変わるな!!
けど、そうなると深海の姫たちもかなり変わるよな。MI作戦とAL作戦に出てきた新しい姫たちは、
赤城と加賀をベースに色々と加えたという説が唱えられていたぐらいだしな。
というかイベントもかなり変わるだろうな。ボスとの戦闘中に謎のジェット機部隊が航空支援を行ってくれるとかな。
多分この世界でも○○これは必ず作られるだろうが、その際にうちのソユーズなども実用化されるだろうな。ドイツ艦につづく期待の2番目としてな。」
彼はそのように自分がこの世界に来るまでにかなり流行っていたプラウザゲームについて独り言を言い、この2つの作戦でイベントがどのように変化するのかなど推測していた。
元々この世界に介入する切っ掛けとなったのも、やはり元日本人として戦後から平成に至るまでこの戦争の後遺症に苦しめられてきているので、何とかこの戦争の運命を日本だけでも変えないとと思ったのと、そのゲームの影響で史実で無念にも撃沈していった艦娘たちの運命を変えたいと1人の提督として思ったから、彼はこの世界への介入をなるべく秘密裡にだが強く進めたのだ。
こうして並行世界の地球世界を支配する1人の独裁者の個人的な思いによって、謎のゲートという現象を伝って世界最強の軍隊が大軍となってこちらに向かってくることになるのは近い未来の話だ。
少なくともこの世界の人間にとって、
介入してきた原因がとあるゲームの所為であるという事を知らないのは、とても幸運なことだろう(特に米軍は)。
はたしてスターリンの野望は史実の世界をどう滅茶苦茶にするのか?
それは神のみぞ知る
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。