皮膚科学基礎研究
幹細胞研究
資生堂は、真皮幹細胞に着目して研究を進め、新たな4つの発見をしました。シワ、弾力の低下、たるみは、主に真皮の老化が進むことによって生じます。真皮の成分を生み出す線維芽細胞は真皮幹細胞から分化することから、肌を自己再生していく司令塔としての役目を真皮幹細胞が担っています。真皮幹細胞が安定に存在することは、真皮の老化を予防・改善する上で重要です。(Soma T, et al: Methods Mol. Biol. 989; 265-274. 2013)
- 真皮の線維芽細胞を生み出している真皮幹細胞は血管のまわりで安定に存在できます
- 真皮幹細胞が血管のまわりで安定に存在するためには、PDGF‐BB(血小板由来成長因子)が必要です
- 真皮幹細胞とPDGF‐BBは加齢で減少します
- PDGF‐BBの発現を高める成分として「イノシトール」を見出しました
数理モデルを用いた皮膚研究
皮膚科学において、バリア機能低下を伴う「アトピー性皮膚炎・老人性乾皮症などの痒み」「敏感肌」「表皮の老化」などの発症メカニズムや、「バリア機能の回復過程」のメカニズムは未だに不明な点が多く、そのため根本的な治療法も確立されていません。
資生堂は、この大きな問題解決に向けて、国家レベルで進める戦略的創造研究推進事業「独立行政法人 科学技術振興機構(JST)のプロジェクトCREST研究」に参画し、皮膚科学領域でこれまで試みられていない、皮膚科学と数理モデル・コンピューターシミュレーションを融合させた先進の皮膚研究を2010年10月より進め、メカニズムの解明と根本治療法の確立を目指しています。
痒み対策研究
痒みの原因については皮膚内神経構造の変化が原因ではないかと考えられ、資生堂は二光子レーザー顕微鏡によりヒト皮膚内の神経線維の3次元立体構造を世界で初めて可視化することに成功しました。今後、痒みを訴える患者さんの皮膚内部の神経構造を皮膚科医との共同研究で進め、同時に神経線維伸展の数理モデルを作成し、コンピューターシミュレーションによるアプローチからも痒みのメカニズム解明する予定です。
関連文献
Tsutsumi M, et al: Exp. Dermatol. 20: 464-467, 2011
Tsutsumi M, et al: Exp. Dermatol. 21: 886-888, 2012
皮膚老化対策研究
表皮の老化の原因については、表皮内のカルシウム分布の変化が原因と考えられます。その原因遺伝子の特定するため、既に構築した「新生児皮膚モデル」を元に探索を進め、表皮老化の原因を明らかにし、その防止の提案を目指します。
関連文献
長山: 数学セミナー 49; 14-18, 2010
Tsutsumi M, et al: Skin Res.Technology 16: 146-150, 2010
Kumamoto J, et al: Exp. Dermatol. 22: 421-413, 2013
血管・リンパ管研究
血管は肌に栄養や酸素を供給し、リンパ管は肌の老廃物を回収するとても大事な器官です。
その変化が、肌の老化に密接にかかわっていることがわかりました。
リンパ管:紫外線によりリンパ管の機能が低下する
血管:40代で毛細血管は過剰にもれやすくなる
毛細血管は、血管内皮細胞(緑)の周りに壁細胞(赤)がある二重構造をしています(30代の血管)。
ところが、40代になると壁細胞(赤)がなくなって、毛細血管が過剰にもれやすくなり、
肌の隅々まで栄養が十分に届かなくなり衰えていくことがわかりました。