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 日本陸上競技連盟は、長距離選手の貧血対策として広まっている鉄剤注射が選手の体をむしばんでいるとして、本格的な対策に取り組むことを決めた。今春からまず、高校、大学、実業団など陸上競技の協力団体や傘下の都道府県協会を通じて、鉄剤注射の危険性を警告する文書を送付。実態を把握するための調査も始める予定だ。日本陸連はこの問題が長距離・マラソンが女子を中心に低迷する大きな要因ととらえている。

 従来も選手に悪影響があることは分かっていたが、鉄剤注射が正当な医療行為になる場合もあるため、現場任せだった。しかし、「正面から鉄剤の問題に取り組まないと、女子マラソンの立て直しはできない」(尾県貢専務理事)という危機感から、強い姿勢で臨むことにした。

 背景には、駅伝人気の過熱がある。中学、高校の指導者の中には、特に女子に対して「やせれば記録が伸びる」という認識で、食事を減らし過度な練習をさせる。その結果、体内に酸素を運ぶヘモグロビン生成に必要な鉄分が減少して貧血になり、即効性のある治療法として、鉄の錠剤の内服ではなく静脈注射を安易に使う場合が多いという。

 注射は、錠剤を口から取れない場合に限り使用するのが正しい用法だ。静脈から大量に入ると逆に「鉄過剰」となり、肝臓や心臓など内臓に沈着して機能障害を起こす恐れがある。日本陸連は10日に開いた貧血に関する指導者やトレーナー向けセミナーで「体調不良とか成績が思い通りでないというだけで鉄はうってはいけない」と呼びかけた。

 第一生命女子陸上部の山下佐知子監督は「すぐに強化したいのに、練習できない体になって入ってくる」と嘆く。日本陸連は必要に応じて医事委員が各地に出向き、有害さを説明することも考えているほか、将来的には高校の大会での血液検査導入も検討する。(酒瀬川亮介)

 

 ◆キーワード

 <人体中の鉄> 鉄はいったん体内に入ると出血や大量の発汗などを除き、ほとんど排出されない。通常の生活なら1日約1ミリグラムとれば十分だ。鉄は腸からの吸収率が約10%なので10ミリグラム前後を食事でとればいい。静脈注射の1回分は40~50ミリグラム。100%血管から入るため、頻繁に使うと鉄過剰になる可能性が高い。

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