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 新サッカースタジアムの建設地を巡る議論は、意見が割れたままだ。県や広島市などは広島みなと公園(南区)を「優位」とするが、サンフレッチェ広島は3月、旧市民球場跡地(中区)に建設する独自案を公表した。サンフレの久保允誉(まさたか)会長(66)に、独自案に込めた思いや今後について聞いた。

■みなと公園なら「会長降りる」

 ――なぜクラブは独自案を作ったのか

 高齢化がさらに進む中、地域に優しい公共施設は街の中心部にあるべきだ。球場跡地なら行きやすい。みんなが集う場にしたい。

 ――現在の本拠エディオンスタジアム(安佐南区)から移る必要があるのか。

 観客席の大部分が屋根に覆われておらず、トイレの数も少ない。いずれもJリーグやFIFA(国際サッカー連盟)の試合開催の基準を満たしていない。老朽化もしており、補修するにもお金がかかる。

 ――みなと公園なら「採算がとれず、使うつもりはない」と明言した

 公共交通機関で平日昼間に行ってみたら、広島駅から40分、横川駅から1時間10分かかった。試合の日はもっと時間を取られるし、エディオンスタジアムに行くのと変わらない。周辺道路は渋滞する。

 周辺の土壌にはフッ素が多く含まれているために芝が育ちにくく、除染費用がかかると、広島みなと振興会から聞いている。さらに埋め立て地で地盤も弱い。

 県や市の言うように総工費180億円でも、マツダスタジアム(南区)の建設計画を参考にすると、使用料は年間5億円以上かかる。クラブは毎年3億円近い赤字になり3年ほどで債務超過に陥る。経営者として責任をとることはできない。みなと公園に決まるなら会長を降ります。

 ――独自案は、総工費140億円を寄付やスポーツ振興くじ(toto)の助成金で賄い、県や市の補助金を使わないとする

 2月にこけら落とししたガンバ大阪の本拠、吹田スタジアムを参考にした。民間だけでどうやって造るのかと当初思ったけど、資金調達の方法はしっかりと練られていた。大阪でできて、広島でできないわけがない。メインスポンサーのエディオンが30億円、私自身も個人として寄付する。個人寄付の手法は「たる募金」も考えているし、Jリーグも全面的に協力してくれると言っている。

 ――独自案が実現したら建設後にどうするのか

 公共的な事業なので、市に寄付する。みんなが喜んでくれれば、それに勝るものはない。市の考えもあるでしょうけれど、クラブで管理運営していく気持ちもある。サンフレの開催日は年間20試合ほど。試合がある日以外は県民・市民に使ってほしい。中学、高校などアマチュアの試合もやりたい。コンコースでは日曜市やジョギングもできる。修学旅行生が観客席で弁当を食べてもいい。

 球場跡地に何ができたらいいかと、クラブで千人規模のアンケートをしたら、36%はスタジアム、32%が大きな音楽イベントができる会場だった。広島は大阪と福岡の文化の谷間になっている。海外の大物を呼ぼうとしても、会場がない。ピッチの芝の養生法も進んでいるから、新スタジアムではコンサートも開ける。

 ――観客席をくりぬき、ピッチ内から原爆ドームが見えるデザインにした

 サッカーは全世界に通じるスポーツ。今季のようにアジア・チャンピオンズリーグに出場して、テレビ放映されれば、平和都市広島を世界に大きくアピールできる。原爆投下で多くの親族を亡くした母は、明るく暮らすことも慰霊になると話していた。私は中学まで球場跡地の向かいに住んでいて、原爆ドームもよく遊んだ場所。カープファンの大きな声援を聞いて育ってきた。平和でスポーツができることも鎮魂につながっていくと思う。

 ――県や市は近く事業費の詳細を公表するとしている。話し合いは進むのか

 近々に我々の案で今持っている材料を全て発表する。スタジアム建設の実績を持つ一部上場企業のゼネコンに設計を頼み、図面もできあがってきている。土地を掘り込まなくても、高さ制限にも引っかからない。周りとの美観も考えている。年間でどのようにイベントをもってくるかの詳細も出す予定です。

 知事、市長、会頭との4者会談ありきでなくてもいい。行政が公表する内容次第で、望むなら事務レベルで検討し、その後で4者会談で結論を出せればいい。

 新スタジアム誕生をきっかけにして、周辺が文化、スポーツの地域として生まれ変わり、新たなにぎわいを創出できればいい。建てて10年後、「あそこにあって良かったのう」と言っていただけると思う。(聞き手・吉田純哉)