ロシアとの対話は粘り強く重ねていく必要がある。それとともに、国際情勢をふまえた広い視野に立ち、対ロ外交に取り組むことも忘れてはならない。

 安倍首相が5月の大型連休中にロシア南部のソチを訪問し、プーチン大統領と非公式首脳会談に臨むことになった。

 その準備のために訪日したラブロフ外相と岸田外相が先週会談した。会談では、5月の首脳会談の後、早期に外務当局による平和条約締結交渉を行うことで合意したが、北方領土問題をめぐるラブロフ氏の強硬姿勢は変わらなかった。

 北方領土問題を打開し、日ロ関係を長期的に安定させていくには対話が欠かせない。

 大国化した中国や、核・ミサイルによる挑発を重ねる北朝鮮に向き合い、北東アジアの安定をはかるためにも、日ロの首脳がたびたび会い、信頼関係を築くことは重要だ。

 一方で、日本には守るべき原則がある。ウクライナ危機でロシアが踏み込んだ「力による現状変更」は決して容認できない、ということだ。

 安倍首相は、5月下旬のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長を務める。ウクライナ危機を契機にG8サミットから排除されたプーチン大統領としては、G7サミットに向けて、米欧と日本の足並みを乱そうとの思惑もうかがえる。

 2月の日米電話首脳協議で、オバマ大統領は「時期を考えてほしい」と安倍氏の大型連休中のロシア訪問に注文をつけた。米欧がロシアの振る舞いに制裁を科し、国際秩序への復帰を迫るなか、日本がロシアに融和的な姿勢をとることに憂慮を示したものだ。

 安倍首相は、在任中の北方領土問題の解決に強い意欲を示している。日本の政治指導者として、戦後70年を超えて動いていない懸案を打開したいと考えること自体は理解できる。

 とはいえ、日本が北方領土問題でのロシアの歩み寄りを期待して、ロシアに必要以上に妥協的だと国際社会に受け取られることは得策とは言えない。

 北方領土問題は重要だが、二国間の政治的な成果を焦ってはならない。

 対ロ外交で肝要なのは、サミットを含むあらゆる場を通じて、ロシアに国際法の順守と国際秩序への復帰を促し続けること。そして、この普遍的な理念をともにする国際社会と協調していく姿勢を鮮明に示すこと。こうした努力こそ、北方領土に関する日本の主張にも説得力を持たせるはずだ。