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 「ニューアカデミズム」の旗手として、1980年代に現代思想ブームを巻き起こした。それから約30年。今回の受賞を「筆舌に尽くしがたい喜び」と言う。

 南方熊楠との出会いは中学生のとき。自宅の書庫にあった伝記を読んで心を奪われ、いまでも「最高のヒーロー」のままだ。

 山梨県に生まれ、父は在野の民俗学者、叔父は歴史学者の故網野善彦氏。東大で宗教学を学び、28歳でネパールに渡ってチベット密教の修行をしたのは「熊楠がそうしてみたいと書いていたから」。

 帰国後の83年に出した著書「チベットのモーツァルト」が発行部数6万部超の、思想書としては破格の売れ行きに。自らの専門領域にとらわれない自由な思想の潮流をメディアは「ニューアカデミズム」と注目し、その中心にいた。

 逆風もあった。東大助教授になる人事で教授会が紛糾。オウム真理教に寛容さを示したとしてバッシングも浴びた。「おかげで学者として腰が強くなったけどね」

 いまの研究手法は「アースダイバー式」。縄文期の地形図を片手に都市を歩き、現代とのつながりを探る。日本社会の表層を1枚、2枚とめくり深層に向かう試みは今回、「現代人に新しい知見と感性を切り開く」と評価された。

 「日本人が知らずに抱え続ける野生を掘り起こせば、自分たちの根っこにたどり着けるんじゃないかな」

 (文・河野通高 写真・郭允)

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 なかざわしんいち(65歳)

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