■京城は韓国人にとって一番近いルーツ
「母には、高等学校を卒業してもまた東京に渡って勉強をしてきた自分の息子に仕事がないことが到底信じられなかった」(「小説家仇甫氏の一日」より)
京城の仇甫氏の母親は、高等教育を受けても仕事がなく、結婚をしない息子のことが心配だ。小説家の朴泰遠(パク・テウォン)=1910-86年=が書いた京城の風景は現代にも通じる。急速に変化する社会の中でも世代間の衝突は昔と変わらないし、若者たちが不安を抱えながらおしゃれをして恋に胸を焦がすのも同じだ。京城は現代の韓国人の姿に最も近いルーツだ。観客はそれだけ時代や登場人物に感情移入しやすい。
京城は近代化が始まった都市だが、抑圧と抵抗の都市でもある。京城を舞台にした映画で悪役といえば自ずと日本の官僚、日本軍、親日派となる。この部分に関する説明は特に必要ないだろう。『暗殺』の主人公は親日派の父を持つ独立運動家だったため、ストーリーの悲劇性やスリルがいっそう強まった。今年後半に公開予定の『密偵』は京城に爆弾を仕掛けようという義烈団と、これを追う日本の警察との間で繰り広げられる暗闘と懐柔、かく乱作戦を描く映画だ。
1920年代の京城を社会的・文学的側面から紹介した「京城モダンタイムズ」の著者パク・ユンソク氏は「韓国人の現在のライフスタイル、すなわち衣食住や思考のルーツは京城にある。京城で流行したコーヒーを今も熱心に飲んでいるのがその例だ。韓国人の欲望に関係する事物や現象はこの時代に生まれた」と語った。