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2011年3月20日、隠蔽された3号機格納容器内爆発

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諸々の研究機関による各種分析により、15日と21日では、その主成分が異なることが判明しています。15日は、キセノン133など人体に軽微な影響しかない希ガスが主ですが、21日のフォールアウトでは、セシウムやヨウソ・テルルなどが主体であることが判明しています。15日に希ガスが多かったのは、原因が2号機のサプレッションチェンバーの破損であるため、放射性物質が一度水を通してから放出されたためであると考えられます。すなわち、事実上、ウェットベントをしたのと同じ効果があったのではないでしょうか。

さて、21日のフォールアウトは想像を絶するものだったことが、直後から判明しています。文部科学省は、毎日の全国各地のヨウソ131とセシウム137のフォールアウトを「環境放射能水準調査結果(定時降下物)」として発表していますが(http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1305495.htm)、その3月20-21日、21-22日のデータは以下の通りです。

imageimage

図4(PDF)  図5(PDF)
定時降下物20日9時-21日9時 定時降下物20日9時-21日9時

上記のデータから3月19日9時から3月26日9時までの積算フォールアウトの表を作成してみました。

I-131(MBq/km^2)

Cs-137(MBq/km^2)
山形県(山形市) 68532 7860
茨城県(ひたちなか市) 208130 25790
栃木県(宇都宮市) 55710 992
群馬県(前橋市) 21306 1173
埼玉県(さいたま市) 67517 2973
千葉県(市原市) 45294 3593
東京都(新宿区) 84333 6409
神奈川県(茅ヶ崎市) 5556 440


特筆すべきは、ひたちなか市と新宿の値です。MBq/km2 はBq/m2 に換算可能なので、ひたちなか市では1平方メートルあたり20万ベクレル以上のヨウソ131が、25000ベクレル以上のセシウム137が地表に降り積もったと考えられます。新宿では同じく、ヨウソ131が約85000ベクレル、セシウム137が6400ベクレルです。そして、これら大部分が、20日から23日までの3日間に降りそそいでいるのです。

これは、どの程度の値なのでしょうか。

また、一瀬昌嗣・神戸高専准教授(サイエンスメディアセンター 核実験フォールアウトとの比較)によれば、「1963年6月に、日本に降った最大のフォールアウトのセシウム137の放射能は、550Bq/m2」であり、「Cs-137で比べると最も多かった1963年の1年間に東京で1935 Bq/m2、1957年4月〜2009年3月の合計では7095 Bq/m2」です。大気圏核実験が頻繁に行われていた(チェルノブイリ事故の影響も含む)過去50年間と、ほとんど同量のCsセシウム137が、たかだか3/21-3/23の2日間で降り積もったことになります。なお、広島原爆の黒い雨のCs-137の土壌沈着量は、最大で493 Bq/m2であったと論じられています。

マーチン・トンデル氏のスウェーデンにおけるチェルノブイリ事故調査によると、1平方メートルあたりのセシウム137の汚染が10万ベクレルで、ガン発生率が11%あがるとの結果が提出されています。http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/tondel.pdf これに照らし合わせると、くだんのフォールアウトによるひたちなか市での発がんリスク増加は、3%弱であると考えることができるでしょう。

ただし、重要なことは、発がんリスクは放射性障害のごく一部にしかすぎず、心疾患、脳溢血、消化器疾患、呼吸器疾患など様々なリスクが確認されており、またもっとも典型的な兆候は、「原爆ぶらぶら病」や「湾岸戦争症候群」に見られるような不定愁訴であることです。発がんリスクはあくまで健康被害の一つの指標にしか過ぎず、内部被曝によって表れる様々な症状を、発がんリスクへと還元するかのような統計は、住民たちの実際の健康障害を著しく低く見せる効果があることに、私たちは留意する必要があります。

3月20-21日の放射性プルームの動き



3月21日前後に関東を襲った甚大なフォールアウトが福島第一原発由来のものだとして、それは何号機からいつ発生したものでしょうか?

東大の早野龍五先生などは、主な放射性物質の放出は3月15日までに発生しており、21日の降雨とともに上空の放射性物質が降下してきた、という説を以前提唱しました(ガジェット通信「3月15日に福島原発より大量放出。以降、大気への大量放出は起きていない」)。

そして、同様の説が、現在もまたメディアや一般人の大部分が信じており、それゆえ、21日前後のフォールアウトについて「いまだ発表されていない大事故が起こったのではないか」という点の追求は不十分であったと言わざるをえません。それは、Twitter上で最大権威となった早野先生の影響もあるでしょうし、またテレビ映像で爆発として目に見えた(結論を先取りすれば、それゆえ東電が隠蔽することが不可能であった)事故が15日までに集中していたこと、がもう一つの原因でしょう。

ところが、早野先生の説は、看過できない欠陥を何個も抱えており、議論としては維持不可能である、と私はこれまでずっと考えてきました。(以下の考察は、主にkenkenさんのブログ「3/21 柏市を汚染した放射能プルームについて」を参考にさせていただいており、また、図10と図12を拝借いたしました。この場を借りて感謝申し上げます。)
※重要な追記 早野先生にTwitterで確認したところ、この説はすでに撤回したとのことです。非常に真摯な回答に感謝いたします。ただ、現在の早野先生の考えとは別に、この説はそれ自体として検証されるべきであるということ、また、3/15以前に放出されたという説は一般に流布してしまっていること、その点から未だに、以下の批判的記述は意味があると私は考えるため、そのまま置いておきます。
実際に、早野先生とどのようにやりとりをしたかは、本記事の末尾に記しておきます。

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