情熱大陸
(株)ジッピープロダクション
「情熱大陸」の企画はどのように決まっていくのですか?
まずは常にテレビや新聞、雑誌、ネットなど全ての物に興味を向けることですね。
もちろん私自身が好きなことや、会ってみたいという方も含まれます。その中でディレクターと相談しながら、取材者を捜していきます。
そして、会社として興味を持った方が見つかれば、ご本人にアポを取り、今後のスケジュールなどを確認してから、
ディレクターと二人で放送局にプレゼンに行きます。
「情熱大陸」はオールプレゼン方式なので、放送局からもらう企画は、うちの会社に関しては一切ありません。
番組をつくって行く中でのプロデューサーの仕事ってどんなことですか?
予算の管理や、スタッフの管理など全体を見渡すことがプロデューサーの役割としてはありますが、
チームとして動いているので、プロデューサーだからという枠はあまり意識していないんです。
例えば「情熱大陸」に関して言うと、エンドロールの最初に演出の名前が表示される様に、
ディレクターの作品だという意識があるので、いかにディレクターのバックアップをするかが重要だと思っています。
取材者との信頼関係を大事にするためにも最低限の人数でつくっているので、もしADがいない状況であれば、
チームを回すために、今でも三脚だって担ぎます(笑)
チームが上手く回っていれば、それが画に現れるので、あらゆる事象の潤滑油的な存在として
チームをまとめることが大事なんです。
チームをまとめるために心がけていることはどんなことですか?
これは今のご時世なのかなとも思うんですが、入社後すぐに辞めてしまう新人がけっこういるんです。極端な場合一日で辞めてしまう。
三ヶ月働いて辛いから辞めますと言われたら、分かったと言えるかもしれませんが、一日なんて仕事のことも何も分からない状況ですよね。
辞める理由を尋ねると、「誰も自分のことを見ていてくれないから」と、言われたんです。「えっ!?」と思いましたね。
この仕事に限らず、働く以上皆忙しくて、なかなかかまってなんかいられません。分からないことがあれば聞きに来てくれればいいのに、それもなかったですから。
理由を聞いてからは、頻繁に声をかけるようにしました。そしたら辞めないんですよ。
その子が担当番組を変わった後でも、私を頼って相談してくれて、これが正しいというか、これも私の役割の一つかなと思い、気を遣うようにしています。
プロデューサーは人と話すことが多い仕事だが、「実は人見知りで普段はぽ~っとしてます(笑)」と、意外な一面も教えてくれた。
「情熱大陸」が好きだという大学生は大勢います。見ている方に伝えたいことはどんなことですか?
出演している方は皆さん一流で“熱”がある方々です。
番組を通じて紹介することで「あ、こういう人生があるんだ」とか、「あ、こういう職種があるんだ」と、感じてもらえたらいいなと思っています。
たった24分の中に、取材者のこれまでの歩みを伝えなければいけないので、つくり手としての責任は感じますね。
ただ、「あなたのPR番組にはしたくない。変に裏側を暴こうとは思いませんが、生き方を表現するにあたって、仕事じゃない部分を撮らせてもらえないならやりません」と、
取材者には必ず伝えるようにしています。そこだけは譲りたくないことで大事にしています。
だからもう、闘いですよね(笑)。取材期間が500日の場合があれば、3ヶ月の時もある。取材交渉だけで7、8ヶ月かかったこともありました。
たとえ時間があっても、カメラを向けるとなかなか本音を話してくれない方もいますので、時にはカメラを持たずに一緒に食事をすることもあります。
ディレクターとも、その人を通して伝えたい事や表現したいことを何度も話し合います。取材者との打ち合わせの後、ロケに行く前やロケに行った後、
プレビューに向けてなどあらゆる局面で意見を交わして作品をつくり上げていきます。
その過程は、いろんな番組に携わって来た中で一番楽しくもあり、一番しんどいことでもあります。
そういった様々な葛藤が見ている方にも伝わるので、楽しんでもらえるのかもしれませんね。
ご自身の経験から言える“テレビのチカラ”とはどんなことだと思われますか?
視聴率が1%でも、一千万人の方が見ていると言われます。
しかも無料で見れてしまうという影響力の大きさがテレビの良いところでもあり、怖いところでもありますよね。
例えば、出演者の方が言った言葉は事実でも、前後を切ってしまうことで間逆の意味に伝わってしまい、
見た人はそれが全てだと思ってしまうことがあります。
何を見せるかというジャッジには責任があり、常に気を付けています。
“ジャッジ”とは、具体的にはどんなことですか?
取材中に取材者の方が泣き出したことがありました。客観的に見ていて撮りたいと思いました。
でも、人として考えた時、私だったらこんな時に近くに来て欲しくないと思ってしまった。そしたら凄く迷ってしまったんです。迷った結果、撮りませんでした。
なので、その瞬間を伝えることは出来ませんでした。テレビ人としてか、人としてか。
こういう時はどっちが正しかったのかなと凄く悩み、ディレクターとも話し合いました。
人として当たり前のこと、触れられたくないこと、そこだけは―ってことがあると思うんです。
時折スタッフを見ていると、テレビだからと傲慢になってしまいがちな時があるので、人として普通の感覚を持ち続けることを大事にして欲しいと思っています。
そのためには、どんなに忙しくても、たとえ自分が好きじゃないことでもアンテナを張り続ける必要があると思っています。
ファッションや美容に関することが好きだという本橋さん。「良い出会いがあればびっくりするぐらい買っちゃいます」と笑っていた。
最後に仕事の楽しさを教えてください。
仕事の楽しさは入社後すぐに感じましたね。
経験のない自分が、日常では会えないような大企業の社長さんと会えてしまったり、ツアコン以上に深いリサーチをして海外ロケに出かけたり。
同年代と比べて物を知る経験値が増える喜びがありました。
今でも仕事が好きで、ホントはあまり“仕事”という感覚がないんです。
“やらされている”というのがなくて、忙しい方が燃えるというか、追い込まれるのが好きで、逆に自由な時間があると困るんです(笑)。
取材・文 町田弘行
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