消費者金融が、チワワのくぅ~ちゃんを使ったCMを流したのは2002年。
「私を連れて行って」と言わんばかりに大きな瞳をウルウルさせて、パパをじっと見つめる姿は本当に愛らしかった。
くぅ~空前のチワワブームが起こり、娘の同級生達も次々とチワワを飼いだした。
それまであまり高くなかったチワワの値段が、どんどん高くなっていったのを記憶している。
だから、きっと今はポメラニアンの値段が上がっているのだろうと、容易に想像できた。
3月に誕生日の犬ケーキを買いに行った時、西新井のペットショップにいた白ポメには
63万5千円の値札が付いていて驚愕した。
ソフトバンクのCMにギガちゃんが登場するまでは、ポメラニアンはあまり売り場にいなかったし値段も20万円くらいだったと思う。
¥635,000 ↓
一昨日、豊洲のららぽーとに行った時もペットショップに立ち寄った。
そこにも白ポメがいて、ガラスケースの向こうからフセの姿勢でこちらを見つめる顔はCMのギガちゃんそのものであった。
「ギガだ!」
「ギガがいる!」
次の瞬間、私は仰け反って悲鳴をあげた。
お値段が90万円だったからだ。
「これ、買う人いるのかな…?」
「いるんだろうね…」
店員がニコニコしながら近寄ってきたので、私と娘はそそくさと店を出た。
その時私達は、1万円払って引き取った里子犬と、タダで拾った捨て犬を連れていた。
いくら綺麗ごとを並べても、人間の価値が平等ではないように
動物の価値も、平等ではない。
パピヨンのLが死んだ後、私はうちの2匹の犬を触るのも嫌だった。
やっとうちの犬を触れるようになってからも、外でよその犬を正視できなかった。
次第に、パピヨン以外の犬ならば見る事が出来るようになり、触れるようにもなった。
人の心は容易く壊れるけれど、時間が経てばちゃんと自己修復出来るのだと思った。
それでも、ペットショップのガラスケースの中にパピヨンの仔犬を見つけると、その場で泣き崩れてしまいそうになる。
ショップで売れ残り、出して出してと騒いでいたLを思い出してしまう。
パピヨンは今は人気が無いらしく、ペットショップにあまりいない。
先日、池袋のショップで見たパピヨンは器量が悪い牝で、だいぶ大きくなっていたのに20万円もした。
狭いケージの中、長い脚を伸ばして虚ろな目をしていた。こちらを見ようともしない。
この子は、とても売れそうにないな。
このまま売れ残ったら、どうなってしまうのだろう…
私は長年同じ問いを思い続けながら、その答えに近づこうとしなかった。
昨日、里子犬と捨て犬をトリミングに連れて行った。
前回は1月に3匹をトリミングした。それから間もなくしてLは死んでしまったので
Lはさっぱりとした足先で、あの世を駆け回っている事だろう。
今回からは2匹である。
4,500円かかっていたものが、3,000円で済む。また落ち込んでくる。
併設のペットショップでは生体販売もしていた。
パピヨンがいなければいいな…と思いながら見に行った。
1月にはそこに、やはり売れ残って大きくなったパピヨンがいたのだった。
すると、ガラスケースの中には別の小さなパピヨンがいた。
「可愛いな!」
「可愛いね。でも買わないよ」
すかさず店員が、頼んでもいないのにパピヨンを外に出した。そして私に抱かせた。
パピヨンの仔犬はふわふわで、羽のように軽かった。
甘え上手なようで、私の手を舐めたり胸にスリスリしてきた。
「この子はすごく甘えん坊さんなんですよ。可愛いでしょう?」
そう店員に言われれば、可愛いとしか言いようがない。
もう生後3か月を過ぎているのに、体重が1キロ未満なのだという。
「この子は手足が小さいし、たぶん成長しても3キロいかないんじゃないかと思います。」
それがどうしたと思いながら「そうかも知れませんね」と答えた。
本当に小さくて可愛かった。
成り行きとはいえ、パピヨンの仔犬を抱っこしている自分に驚いた。
もし、この仔犬を家に連れて帰ったら、私のぽっかりあいた心の穴は埋まるのだろうか?
とてもそうは思えなかった。気は紛れるかも知れないけれど、寂しさはきっと変わらないだろう。
仔犬を抱っこした時の、不可思議な感情を例えて言うならば…
大好きだった男と別れ、寂しいからといって好きでもない男に抱かれても、余計に寂しくなるような…?
そんな経験ないけど!
(嫉妬深かったLが、怒っているだろうな…)
そう思って仔犬をすぐに店員に返した。
とにかく、仔犬を買うわけにはいかなかった。
あの犬は、私が買わなくても誰かがきっと買うだろう。
仔犬は誕生日がLと5日違いの、1月7日生まれの牡だった。
もし仔犬の誕生日がLと同じ日だったら。
それよりもし仔犬の誕生日が、Lが死んだ1月22日だったりしたら、私は仔犬がLの生まれ変わりだとか
これは運命だとか何とか言って、あの仔犬を買ったかも知れない。
危ないところだった。
「この前までいた、大きなパピヨンはどうしたのですか?」と聞いてみると、先日やっと売れたのだと言う。
「とてもいいお家に飼われて、幸せに暮らしているみたいです。時々遊びに来てくれます。」
店員は、嬉しそうにそう話した。
良かった。
でもその幸運は、ショップにいる全ての犬や猫には訪れないだろう。
そもそも、ショップに並んだだけでも幸運だったかも知れない。
私はそんな仮説を立てながら、その証明をしようとしなかった。
もう少ししたら、元気になったら
ちゃんとやろうと思っている。