離反顧客を呼び戻す法
多くの企業が顧客の「解約率」に頭を抱えている。新たなサービスによってその埋め合わせを目指す企業も少なくないが、ジョージア州立大学のV・クマー教授は、離反顧客を取り戻すほうが有効だと語る。本稿では、そのための戦略が語られる。
新規顧客の開拓より
離反顧客に注目せよ
顧客への請求が何度も発生するサービス企業にとって重要なのは、どれくらいの顧客がサービスを中止するかという「解約率」である。競争が激しい多くの業界で解約率はかなりの水準に上る。たとえば携帯電話キャリアには、加入者を毎月3%失っているところもある(解約率に悩まされる業界は、ほかに保険、スポーツジム、オンラインストリーミングサービスなど)。解約率が高い企業は、一般的にマーケティングに多額の費用を投じ、離反した顧客の分を埋め合わせようとする。ところが新しい研究によれば、失った顧客を取り戻すことを目的とした、スマートな戦略を展開したほうがうまくいくかもしれない。
ジョージア州立大学のマーケティング担当教授で「顧客復活」の戦略を研究するV・クマーは、もっと離反顧客に焦点を当てたほうがよいと言う。その理由を3つ挙げている。
第1に、彼らはその会社のサービスを必要とした実績があるため、手当たり次第に営業をかけるよりもよほど見込みがある。
第2に、彼らはその会社をよく知っているので、ブランド認知を築いたりサービスの内容を教えたりする必要がない。それゆえマーケティング費用が抑えられる。
そして第3に、これが最も重要なのだが、最新のテクノロジー(特に、より高度な顧客データベース)のおかげで、彼らが最初どのようにサービスを利用したかという情報を分析して、顧客を取り戻すのに効果的なサービス条件を整え、最も収益性の高い層にアプローチすることができる。
去っていった顧客を
分析し、呼び戻す戦略
クマーと2人の同僚は、ある通信会社のサービスを7年間に解約した5万3000人以上の顧客のデータを調査。彼らとの再契約を目指す同社の継続的取り組みをサポートするため、一人ひとりが解約前にどのような行動を取ったか、なぜ解約したのか(多くの企業が顧客に解約理由を尋ねる)、再契約を促す各種の働きかけにどう反応したか、再契約した後の収益率はどうかを分析した。その中でクマーらは4つの問いに答えようとした。
●顧客が戻ってくる可能性はどれくらいか
多くの企業が離反顧客をすべて取り戻そうとするが、これではマーケティング費用がかさんでしまう。過去の行動から戻ってくる可能性が高そうな人々に焦点を絞ったほうが効率的だ。クマーらの調査によれば、離反顧客の中では、他の顧客を紹介したことがある人、苦情を述べたことがない人、あるいは苦情を述べたが満足のいく解決を得られた人が、最も有望であることがわかった。解約の理由も予測材料になる。つまり、価格が原因で解約した人はサービスの悪さが原因で解約した人よりも戻る可能性が高く、解約に際してその両方を理由に挙げた人は戻る可能性が一番低い。
クマーは世界中の通信会社を回って元顧客に対する戦略を調べ、可能性が高そうな人を狙うこのモデルを実験している企業が多いことを知った。とはいえ、最も取り戻す価値があるのはどの顧客か、について調査している企業はほとんどない。
これに対する答えを探るのが以下の問いである。
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