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世界を変える「チェンジメーカー」に必要な勇気と楽観

Forbes JAPAN 4月17日(日)16時1分配信

世界を変えるチェンジメーカーに必要なこととはーー。インパクト投資を行うNPO「Acumen」でリーダー育成プログラムに携わる松川倫子にリーダーの条件を聞いた。

資本主義の仕組みを使い、貧困解決のために途上国の社会的企業に投資する。いわゆる「インパクト投資」を行うNPO「Acumen」のNY本部でオンラインのリーダー育成プログラムの設計をしています。

寄付金をプールして、インドやパキスタン、西・東アフリカとラテンアメリカといった地域にいる社会起業家に投資をする。そんな、ベンチャーキャピタル式の働きをしている組織であり、このような取り組みの最終的なゴールは、世界の貧困への取り組み方を変えていくことです。

この最終的な目標は2001年の創業当時から何一つ変わっていないのですが、もう一つの柱として、06年から「リーダー育成」に力を入れています。

資本を投入するだけでは、貧困解決に行き着くまでにどうしても長い時間が必要になる。スピードを加速するためには、どうすればいいのか。辿り着いた答えが、もっと「個人」を育てる必要がある、ということでした。つまり、Acumenの思想や手法に共感し、積極的に世界の様々な貧困解決に取り組んでいく人々を育てていく必要がある、と考えたのです。

06年からはフェローシップという名のもと対面式のトレーニングを行い、12年末に無料のオンラインコースの提供が始まりました。現在22のコースがあり、世界176カ国、約25万人が受講しています。

私たちが考える、世界を変えていくリーダーが持つべき資質は、大きく分けて2つあります。1つはマインドセット面のもの。もう1つは、スキルベースのものです。

1つ目のマインドセット面のものについては、私たちは「モラルイマジネーション」と呼んでいます。日本語にすると、「道徳的な想像力」でしょうか。現実を直視する勇気、直視しようとする謙虚さ。それと同時に、「こんな世界になるべき」と、想像する大胆さ。

具体的なコースとしては、例えば「アイデンティティ」に関するものがあります。そもそも自分のアイデンティティとは何か。それが自分の行動や、世界で起きている事のとらえ方にどう影響しているのか。アイデンティティという切り口から、世界で起きている事象について自らのあるべき姿に矢を向けていく。

2つ目の資質であるスキルベースのものは、もう少し実践的です。例えば、「こんな世界にしていきたい」という想いを抱いている人々、または考え始めている人々が誰でも活用できるような「ストーリーテリング」「デザインシンキング」「リーンスタートアップ」や「社会的インパクト測定」といったコースを提供しています。

リーダーシップは訓練できる

社会に対してより良いビジョンを持ったビジネスを立ち上げたい、と考えることはできても、持続することが難しい。続けるためには「モデル」が必要になる。いまの世界では、ビジネス的な考え方をしている人々と、社会的に良いことをしようとしている人々が重なるところがまだまだ少ない。でも、プライベートセクターで機能したやり方を途上国のためには使わない、という理由は一つもない。挑戦しようとしている人々が必要なマインドセットやスキルの育成のきっかけを提供しているのが、Acumenのプログラムです。

Acumenでは「リーダーになる」というよりは、「リーダーシップを発揮する」「リーダーシップを実践する」という言い方をしています。なぜなら、「権限」と「リーダーシップ」は必ずしも一致しないから。権限がある人間でなくても、リーダーシップは発揮できる。リーダーシップとは「訓練」できるものなのです。

そのうえで、世界を変えるチェンジメーカーに必要なことは何か、といえば、私個人は「モラルカレッジ」(道徳的な勇気)であると考えています。

「世の中は不公平だ」と言葉にするにも、勇気が必要。心では何とかしたい、と思っても、頭の中でやらない理由を探してしまうことがある。

頭と心が乖離しそうになった時に「勇気」を取れるかどうか。口に出しさえすれば、同じ思いを持っている人がきっと集まる。勇気や楽観主義的な考え方というのは、人に感染していくもの。そんな風に考えています。

まつかわ・ともこ◎「Acumen」NY本部にてリーダー育成プログラムのデザイナーを務める。ゴールドマン・サックスを経てグロービスへ。資本主義の仕組みを貧困問題の解決に使うという考えに興味を持ち、グロービス在籍中の2010年末よりAcumen東京チャプターにてボランティアを始める。米国に渡り、14年3月から現職。

Forbes JAPAN 編集部

最終更新:4月17日(日)16時1分

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