4月14日夜に発生した熊本県の地震(震度7)は、今もまだ余震が続いている。寒い夜を屋外で過ごす被災者の映像を見ながら、親戚や知人の身を案じている方もいることだろう。一時的に生じた音声通話がつながりにくい状況も一段落、通信環境は落ち着きを見せ始めているようだ。
そうした中で、無料通話とチャット機能で多くの利用者を獲得し、今や通信インフラのひとつと数えてもよい「LINE」が「通信の常識」を無視した、"社会貢献"を行っている。これは、きわめて大きな問題であり、ここで指摘をしておく。
震度7にすぐ対応し無料化したLINE
今回の地震を受け、LINEの公式アカウントが次のようなアナウンスを行い、テレビや新聞社のウェブサイトで次々に報道された。
"LINEから固定電話・携帯電話にかけられる「LINE Out」機能で、日本国内の番号への発信を1通話最大10分まで無料化しました。家の電話やLINEでつながっていない方への安否確認にご活用ください。 #熊本 #地震 #拡散希望"
いずれ、LINE社から、なんらかのアナウンスがあるだろうが、上記のサービスを安否確認には使わないようにしてほしい。また、身の回りにこのサービスを称賛する声を聞いたならば、対応が誤りであることについて話題にしてほしい。
自然災害は今回が始まりでも、終わりでもない。過去に学ぶべき事例があり、今回も学ぶべき事例とする必要があるからだ。
LINEを日常的に使っていても、LINE Outは耳慣れない人も多いのではないか。LINE Outとは、LINEの音声通話機能を使って、固定電話や携帯電話などの公共音声サービスに接続するサービスで、最近までは「LINE電話」と呼ばれていた。LINEの無料音声通信サービスは、インターネットを用いたデータ通信を利用するが、それを音声通信網と相互接続している。
LINE通話はデータ通信帯域が確保されていれば、LINE社が設けているゲートウェイを通じて音声交換網へと接続される。すなわち、LINE Outを無料化して利用を促すということは、限りある資源である回線交換容量を消費することに他ならない。とりわけ、熊本県内の携帯電話回線へのLINE Outを使った発信は、輻輳(アクセスが集中することにより電話がつながりにくくなること)をさらに助長するため控えねばならない。
災害時にどのように連絡を取るべきか
LINEもこの事に気付いたようで、アナウンスから4時間ほど経過して『LINE Outは回線に負荷が集中する恐れがあるため、緊急性が高い場合のみご利用いただくようご協力をお願いします』とツイートしたが、それでも相変わらず緊急性が高い場合にはLINE Outの使用を推奨している点が問題だ。
すでに安否を気遣う連絡は一段落しており、本記事が掲載される頃には通信インフラの混乱も落ち着いていると予想されるが、今後のためにも大規模災害時の連絡方法について、あらためて確認したほうが良いだろう。
スマートフォンは急速に普及したが、それでも日本における携帯電話契約者の半分はスマートフォンを使っていない。このため音声サービスで連絡を取りたい、あるいは自分自身の生存を知らせたいと思うのは当然のことだ。
ところが回線交換の容量は限られている。しかも、ほとんどの利用者が「緊急」と思って利用するため「緊急時には○○の方法で」というノウハウは通用しない。緊急だと思っても音声通話は使わないほうが、(何度もかけ直すなどの)回線への負担を回避するセオリーでもあり、社会的にも迷惑をかけない一番の方法だ。
だが、回線への負担を気にせず使える音声サービスがある。
電話回線への負荷がかからないよう大規模災害時に開設されるのが、NTTコミュニケーションズが提供する災害用伝言ダイヤルだ。利用者は「171」へダイヤルするだけで、安否連絡を取りたい相手に伝言を残したり、相手の伝言を聞くことができる。
171の伝言サービスは、利用者の電話番号と紐付けられているため、安否を気遣う親戚や知人は、相手の携帯電話番号を入れるだけで伝言の有無と内容の確認を行える。このサービスは、震度6以上の地震が発生した場合、自動的にその地域でシステムが起動するよう設計されている。音声中心の端末を使っているならば、まずは171に連絡することが、安否連絡の最優先プロセスだ。
スマホであればweb171が便利
次にスマホでウェブサービスが比較的自由に扱える方であれば、web171が便利だ。音声の171と同様、利用者の電話番号で文字による安否確認メッセージを登録、参照できる。また、気になる相手の電話番号を登録しておけば、メールや伝言の通知を受けることもできる(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)。
こうしたサービスは、過去の自然災害事例から生まれてきたものだ。固定電話回線、携帯電話回線に限らず、輻輳による通信網の混乱は過去に何度も起きてきたことで、その反省から生まれてきたものだ。
171、web171とも是非とも知っておいて欲しいが、より手軽な通信手段もある。たとえばフェイスブック、グーグル、ヤフーなどは、東日本大震災をきっかけにさまざまな災害時連絡の機能、サービスを開発した。ウェブはテキストデータによるやりとりが中心となるため、音声サービスのような輻輳問題に直面しにくい。また掲示板やSNSは、時間が経っても文字として残る上、パッと見て内容を把握しやすい。これは音声メッセージと大きく異なる点だ。
災害時にもっとも重要な通信とは、災害対応に関連した連絡だ。安否確認を軽視するわけではないが、即時性という面では、必ずしも最優先とは言えない。
もちろん、LINEは悪意をもってLINE Outの無料化をアナウンスしたわけではないだろう。しかし、だからこそ今回の一連の出来事と、それに対するさまざまな意見を吟味し、自分たちのサービス運営に活かしてほしいものだ。携帯電話事業者の枠組みを超えて音声、チャットサービスを提供している公共性の高い企業、サービスとして、今回の事例を自分たちの成長に活かして欲しいものだ。