NIPPON
マンガ人気は広く、深く! フランス人が夢中になる『ワンパンマン』と『ヒカルの碁』
『ワンパンマン』の主人公サイタマのコスプレをするフランス女性 PHOTO: RENEE SOUZA
フランスで『ワンパンマン』が2016年1月14日に発売され、驚異的な売上を記録した。
「フィガロ」誌によると、発売から3日で初版の6万5000部が売り切れ、1ヵ月で8万部の売り上げとなった。一般書も含めた書籍売上ランキングの上位10位に同作が1ヵ月近くランクインし続けたという。
もともと『ワンパンマン』は2009年からウェブサイト上に掲載されていたが、2012年より『となりのヤングジャンプ』(集英社刊)でリメイク版の連載が開始した。
主人公は、就職活動に行き詰まった青年サイタマ。
そんな彼が3年間の訓練を積んで、無敵のパワーを手に入れる。強くなりすぎたサイタマは、どんなに手強い敵もワンパンチで倒せるようになる──というアクション・コメディ漫画だ。
「日本マンガの売上としては最高水準だ」と、フランス語版『ワンパンマン』の版元「クロカワ」のマンガ部門責任者グレゴワール・エローは話す。
近年、フランスでは10年ほど前に飛ぶように売れていた『ナルト』や『ワンピース』の人気が落ち込んでおり、『ワンパンマン』の売れ行きは当時を思い起こさせるという。
2006~07年以降、パロディやラブコメなどのマンガをフランスで売ろうとしても、なかなかうまくいっていなかったと、「ル・モンド」紙も報じている。
売上が1万部を超えたのは『美鳥の日々』と『聖☆おにいさん』くらいだったそうだ。
だが、『ワンパンマン』のヒットがきっかけで、ユーモアに富んだマンガがフランスで読まれるようになるかもしれない。
興味深いのは、このヒット作の出版元は『ナルト』を出した「カナ」や、『ワンピース』を出した「ピカ」といった業界最大手ではなく、4番手の「クロカワ」だったことだ。
しかし、フランスのマンガ市場に詳しい専門家は「ここ数年、業界4番手の「クロカワ」と5番手の「キューン」が出すマンガが売れていることに集英社は目をつけたのでしょう」と分析する。
もちろん、『ドラゴンボール』や『ナルト』を出している業界大手を追い抜いて、すぐに2社がフランス市場を制するということはないだろう。
だが、前出のエローは「2018年までには、クロカワの業界での順位を上げていきたい」と意気込んできる。
『ヒカルの碁』がフランス囲碁ブームの火付け役に
注目を浴びているのは『ワンパンマン』だけではない。日本でも「年寄りの遊び」とされてきた囲碁のイメージを変えた『ヒカルの碁』が、フランスで囲碁ブームに火をつけていた。
「ル・モンド」誌によると、2002年に900人ほどしかいなかったフランス囲碁連盟のメンバーは、2006年には1800人と2倍になった。現役の若手フランス人棋士の大半が『ヒカルの碁』に触発されてこの世界に入ったという。
20歳のバンジャマン・シェティウイは、同作に影響を受けた棋士の一人だ。
「初めて『ヒカルの碁』を読んだ2008年当時はまだ中学生でしたが、読んだその日のうちに碁を打ち始めました」
インターネットのおかげで、すぐに囲碁経験者と10番ほど打つことができたと言う。
「その後、フランス中を回り、欧州のトーナメントにも参加しましたが、みんな『ヒカルの碁』を読んでいましたよ」
女流棋士のフランス囲碁連盟会長も『ヒカルの碁』の影響力を認めている。
フランスで囲碁の「プロ」が認められるようになったのは3年前。現在、欧州には4人のプロ棋士がいる。
現在のフランス国内チャンピオンは23歳、2位が22歳だが、問題は彼らよりも若い世代が育っていないことだ。連盟のメンバー数も残念ながら横ばいか、やや減少気味だという。
プロの棋士は囲碁だけで食べていくことができないという現実が、壁になっているようだ。