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 ■心とは何か、ヒューマノイドが問う

 囲碁のトップ棋士が人工知能(AI)に負けたり、車の自動運転が現実味を帯びてきたりする今、まさに時宜を得たテーマに迫る作品だ。

 外見上は人間と変わらず感情もあるヒューマノイドが国民の1割を占めるようになった近未来。人間の夫婦がヒューマノイドを養子にしたり、その逆も珍しくない。そんな社会でAIの“病気”を治療する医者を主人公に、人間とヒューマノイドの心と体をめぐるドラマが展開される。

 前座の落語家が蕎麦(そば)をうまそうに食べる感覚をつかめず悩む。記録の伸びない陸上選手が弱音を吐く。よくある場面のようだが、それがヒューマノイドの悩みとなると話は別だ。努力しても〈“仕様”が決まってるんだからさ〉と嘆く陸上少年の姿は、五輪記録を超える義足アスリートが技術ドーピングではないかと議論を呼ぶ現実を考えれば、どこか倒錯的でもある。

 1話完結の良質なエピソードに主人公の男の過去を絡めていく。助手がヒューマノイド女子で彼に好意を抱いている点も含め〈近未来版ブラック・ジャック〉という帯の惹句(じゃっく)には納得。技術の進化に人間の倫理と感情が追いつけるのか。人格とは心とは何か。考えずにはいられない。

 南信長(マンガ解説者)

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 『AI(アイ)の遺電子』(1) 山田胡瓜〈著〉 秋田書店 463円

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