地震保険について千日さん(id:sennich)が素晴らしい記事を投稿してくださいました。
これを見て地震保険について加入するか否かを悩む人はいなくなるのでしょう。
一番強烈なのは「社会インフラ」としての保険だということですね。
つまり税金を投入して予算を取って、この地震という不慮の事態に生活を安定させようと働きかけているということです。
もはや損得勘定の「保険商品」とは一線を画します。
これを確率論の世界から分析してみます。
確率の世界の投資
私がやっているオプション投資は確率の世界です。
確率論に基づいてプレミアム(保険料のことです)を取引して利益を上げる投資になります。ですのでこういった確率論は分析しやすいです。
この場合、保険の買い手と売り手がいて、この両者の期待収益がイコールとなる価格にプレミアムが設定されます。
極端な事例を挙げると、事故が起きる確率が1/1000だとして、もらえる保険金が2,500万円だとします。
この場合の保険料はいくらになるでしょうか。
期待値という考え方
計算にあたっては期待値を算出します。
掛け金に対して戻ってくる「見込み」の金額をあらわしたものである。ただし、期待値ぴったりに掛け金が戻ることを意味するのではなく、各試行で期待値に等しい掛け金が戻るわけではない。
とありますが、ざっくり期待値は得られる金額×起きる確率で計算してみましょう。
この場合期待収益は、2500万円×1/1000=2.5万円となります。
つまり2.5万円の支払いを1000回繰り返すとそのうち1回は2500万円の支払いが起きると考えれるということです。
もしこの計算で成り立つ投資がある場合は、保険料は2.5万円が妥当だと考えられます。
売り手はいくらで売るのか?
一方の保険の売り手は、この商品をいくら出るのでしょうか?
2.5万円で売る?そんなわけ無いですよね。
商品設計にまつわる諸経費、例えば還付の事務手続きや商品の管理人件費など、様々なコストがありますので、1人にから2.5万円もらったところで、1発事故が起きたら終了です。
しかも保険は1人に売るものではなく大勢に売るので、3,4人事故で保険金請求してきた際にはどう考えても赤字です。
そうすると、倍の5万円でも採算がとれるかどうか怪しいところです。
となると、例えば6万円に設定したとします。
事情原理が働くのであれば、買い手は2.5万円、売り手は6万円と両者に乖離が生じています。
買い手と売り手の心理
買い手は2.5万円なら、期間中にもし事故が起きても十分元が取れると考えています。
しかし2.5万円では売ってもらえない。
そうなると、次にいくらなら払えるか?という駆け引きとなります。
買い手
3万円なら買っても良い。全損になって被害を被るなら安いものだ。
4万?まあちょっときついがまあ被害と比べたらまあいいか。
5万?ちょっとそれは・・・
売り手
6万円なら採算がとれる。しかし6万では誰も買ってくれない。
コストを圧縮して5万円にするか。
しかしこれでも誰も買ってくれない。
事故が起きる確率は1/1000よりも低いとすれば、還付請求が起きにくいからもう少し圧縮して4万円くらいに下げたら良いか・・・
このようにして、買い手は安く、売り手は高く設定したいところのせめぎあいで、両者が納得(妥協?)した価格が市場の価格となります。
この場合は4万円となりますね。
およそ全ての投資商品は、この市場価格の原理が働いていると言われています。
効率化市場仮説と呼ばれて、すべての事象は価格に織り込まれているということです。
地震保険はインフラ
ここで地震保険について考えてみましょう。
政府が予算を計上しています。すでに還付する金額が決まっています。
そして保険会社は利益がなく政府の保険を窓口で販売しているだけ。
ここに市場原理が働いていません。
政府が決める予算は、使いきってなんぼの世界です。
使いきらないと翌年の予算が削られてしまう業界です。
国民の豊かさの尺度はこの予算の消化率と考えられているような気もしています。
(※私は政府関係者じゃないので単なる予測です)
そう考えると、言っての予算は使い切ることが重要事項となります。
ここに売り手の心理は働きません。
事実、保険料というのは政府の売上になるのではなく、保険会社の必要経費の充当と言うという形で消化されています。
つまり売り手は利潤目的ではないのです。大義名分が国民の幸せのためなのです。
地震保険は割のいい投資
市場原理が働いていない業界は、不当に割安に放置されることが多く、こう考えると、地震保険というのは不当に安いものと考えられます。
売り手がプレミアム(保険料収入)を欲していないので、高くする必要が無いのです。
保険会社の事務手数料分だけで、保険金を引っ張ってくれるのです。
事実、私の地元は仙台市ですが、東日本大震災の時には地震の全壊、半壊の判定はかなりゆるいものだったと聞いています。
私は仙台から離れているので親に聞いた話ですが、壁にヒビが入った程度でも、意外と判定は甘かったと聞いています。
一方で、再保険金の上限に達しそうだからもうもらえなくなるかもしれない、という話も当時はありました。
つまり甘めの判定で保険金還付を認めていたた&東日本大震災の規模の多さに、予算が底をつきそうになったということです。
これは政府発行の地震保険が、社会インフラとして困った人のために存在していることを考えれば、納得できますよね。
調査委員が厳し目の判定をして、被災者が生活に困窮することがあったら、何のための保険なのかと非難を浴びることは目に見えています。
民間の保険会社にはできません
これは、民間の保険会社であれば破綻の危機にも発展する、多いな経営判断の失敗です。
千日さんが書かれたように、民間では手が出せない保険商品です。
ところが、政府の場合は予算がなくなると補正予算など他の財源から引っ張ってこれます。
このあたりが民間ではできない芸当ですね。
このように考えると、地震保険は安い。不当に安い。
損得勘定を考えて期待値を計算しても、お釣りが来るくらいの金額で保険料を支払える。
このような価値に見合っていない価格を見つけた場合は、全力で買いに行くべきです。
市場原理が働いている商品ではそのような歪みは見られませんが、地震保険は歪みがあるということです。
しかも地震は日本ではいつどこで起きてもおかしくないんです。
九州で震度7が来るなんて予測できませんでしたし。
知っているか知らないか
ただし気をつけなければいけないことがあります。
誰もが損をしない保険であれば、全員加入すべきです。
しかしそれを知っている人は、何人いるのでしょうか。
もしこれが買い手の利益になるなら、火災保険にセットで必ず地震保険を付けておけば良いのではないでしょうか。
そう考えてもおかしくないのですが、そうやって皆保険にしてしまうと、とたんに予算をオーバーしてしまいます。
国家予算も有限です。それは私達の税金からも支払われています。
私が思うのは、こういうインフラと言っても、「知っている人」には有効活用してもらうけど、何も知らずに勉強もしていない人、情報収集していない人にはメリットを享受させないことで、予算の範囲内で請求が収まるようにバランスをとっているのではないかと考えています。
つまり知っているか、知らないか。
これだけが違いです。
まとめ
税金を投入する商品は、消費者にとって得する商品であることが多い。
しかも日本の地震の割合から考えれば、かなり有利。
しかし税金は我々の財布から出ているので、損得勘定ではなく社会インフラとして困った時に役に立つ仕組みと考えよう。