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バター不足の「本当の理由」を知っていますか

東洋経済オンライン 4月16日(土)15時0分配信

バター不足が続いている理由として農林水産省が行った説明は「うわべの事情」にすぎない。『バターが買えない不都合な真実』を書いたキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁・研究主幹は、こう指摘する。 

 ――実は脱脂粉乳の需要に左右されているのですか。

 使い道が少なくなった脱脂粉乳がバターの生産量、そして生乳の価格、酪農経営をも左右しているのだ。生乳は遠心分離するとバター(クリーム)と脱脂粉乳(脱脂乳)になる。つまり、バターを造る過程で同時に脱脂粉乳が生成される。それぞれ一定量出てくるが、需要はまちまちだから、普通に生産すれば必ずどちらかが足りなくなる。2001年以前はバターが余っていた。需要の少ないバターの需給均衡に合わせて生産するから、どうしても脱脂粉乳が足りなくなる。そこでかなりの量の脱脂粉乳を輸入していた。

■ つららの落下が日本の乳製品需給を変えた

 ──01年から変わり始めた? 

 脱脂粉乳が余り始め、それに合わせて生産を調整しだした。この結果、バターが足りなくなり02年から輸入し始める。00年の「雪印低脂肪乳」による集団食中毒事件を契機に脱脂粉乳の需要が傾向的に減って、それに合わせてバターを生産するようになったからだ。雪印の事件が起きてから両者の過不足関係が逆転した。怖いことに、工場の電気室につららが落ちて停電し毒素が発生した事件が、日本の乳製品需給を変えたのだ。

 ──バターは国家による独占貿易品目。輸入で調整すればいいのでは。

 確かに乳製品はコメ、麦と並ぶ国家貿易品目であり、バターの輸入は巨額の関税を払わないかぎり民間が独自にはできない。農水省の指示で農畜産業振興機構(alic)が低関税で一手に輸入する。生乳の流通も価格も一元的に管理するためだ。

 酪農の世界は飲用乳価の維持で動く。脱脂粉乳、バターが余ってくると、これらから加工乳を造れる。そのため、飲用をダブつかせかねない。どちらかを余らすと問題が起きるので加工原料乳向けの生乳生産を抑える。脱脂粉乳、バターのどちらかが足りない、ないし需給が共にタイトなら乳価を上げやすい。

 ──かつて11年度にバター輸入を増やしました。

 生産の事実関係に政治的な動きが加わる。当時農水省は民主党政権下で、かなり輸入を増やした。自民党には酪政会という、日本酪農政治連盟とつながる議員の会合があって、酪農家の団体と歴史的にタイアップしている。民主党にはそんな組織はない。自民党政権なら輸入し余って乳価に影響したらと神経を使い、輸入もほどほどに抑制しただろう。農水省は裁量で輸入しても民主党政権には怒られないと踏んだのかもしれない。

 ──今回も政治が絡んでいる? 

 複雑そうだが、もともと仕組みはシンプル。バターと脱脂粉乳が乳製品として重要なのは、飲用牛乳の需給、価格に影響を与えるからだ。牛乳はバターと脱脂粉乳からできていて、混ぜるとまた牛乳に戻る。可逆性があるからバターと脱脂粉乳が重要なのだ。乳製品でもチーズは自由化しても影響はない。だから、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉でも関税をゼロにした。バターと脱脂粉乳は絶対に下げない。枠の拡大だけで米国と合意した。

■ 品薄にすれば農産物の価格は上がる

 ──今後もバター不足は起こりうるのですね。

 今でもバター不足はそんなに回復していない。スーパーなどに行くと売り場がマーガリンに比べ小さくなった気がする。

 ──足りない状態が続くと。

 輸入するとしても小出しだ。バーンと輸入すると、余ったらどうするのかと詰問される。農水省は怖くて輸入できない。自民党政権では問題が起こればたくさん輸入したからだとして、飲用乳価も下げさせられるのではないかと疑心暗鬼。いつも小出しで、今度も6月あたりにあらためて判断するという。むしろバーンと入れて国内の生産で調整すればいいのだが、予期せぬことが起こるのを恐れ、そういうこともやらない。

 農水省はどの農産物も若干少なめにしたほうがいいと考えている。品薄にすれば需給がタイトになり農産物の価格は上がるからだ。農家にとってはいいかもしれないが、消費者にはとんでもないことが起こる。

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最終更新:4月16日(土)15時0分

東洋経済オンライン

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