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岡山女児監禁から考える 夏休みの子どもを犯罪から守るには「不審者」ではなく「景色」に注目

■不審者よりも景色に注目せよ

 夏休みを目前に控えた7月中旬、岡山県倉敷市で小学5年生の少女が誘拐・監禁されるという事件が起きました。

 幸い5日後に無事保護されましたが、母親が事前に不審車両について警察に相談し、少女にGPS機能付き携帯電話を持たせていたにもかかわらず、事件を未然に防ぐことはできませんでした。

 おそろしい犯罪者の手からこどもたちを守るには、いったいどうしたらいいのでしょうか。

 犯罪学を専門とする小宮信夫立正大学教授は、著書『犯罪は予測できる』(新潮新書)で、「不審者」ではなく「景色」に注目すべきだと語っています。

 犯罪が起こりやすい場所には二つの特徴があり、それが「入りやすい場所」と「見えにくい場所」なのだとか。

「『入りやすい場所』とは、だれもが簡単に標的(被害者・被害物)に近づけて、そこから簡単に出られる場所である。そこでは、犯罪者も怪しまれずに標的に近づくことができ、すぐに逃げることもできる」

「『見えにくい場所』とは、だれの目から見ても、そこでの様子をつかむことが難しい場所である。そこでは、犯罪者は余裕綽々で犯行を準備することができ、犯行そのものも目撃されない可能性が高い」(『犯罪は予測できる』より)

 小宮教授は、こうした考えをもとに「地域防犯マップ」を考案しました。

「地域防犯マップ」とは、犯罪が起こりやすい場所を、風景写真を使って解説した地図のこと。現在、全国の学校でこのマップ作りのノウハウが採用されています。こどもたちは、町歩きを通じて「入りやすい」「見えにくい」という危険な景色を実地で学び、地図にまとめていくのです。

 ただし、教授は「地図の作成はオマケである」と語っています。最大の狙いは、このマップ作りを通してこどもたちの危険予測能力を高めること。こどもたちは、マップを作ることで、危ない地域の共通項を知ることになります。そうして「景色読解力」を身につけていくわけです。

■防犯ブザーは意外と役に立たない

 ちなみに、こどもを守る防犯用品の定番といえば、小学生のほとんどがランドセルからぶらさげている防犯ブザーです。しかし、犯罪者にだまされてついていくこどもが防犯ブザーを鳴らすことはまずありません。

 倉敷の事件では、被害者は刃物で脅され車に連れ込まれたそうですが、このようなケースでは、こどもは恐怖で身体がすくんでしまいます。そのため、大声で助けを求めることも、走って逃げることも、防犯ブザーを鳴らすこともできないと思ったほうがいいそうです。

 また、「人通りの多い道は安全」というのも誤解だと、小宮教授は言います。なぜなら、人の多い場所には犯罪者も紛れ込むし、人通りはいつか途切れるからです。

 人通りの多い道から尾行していって、人通りのない道に入った途端に犯行に及ぶというケースも多いのだそう。

■景色読解力を身につけさせよう

 いくら本人が気をつけていたとしても、その努力には限度があります。人は、絶えず注意し続けることはできないからです。

 だからこそ、安全な景色と危険な景色を見分けられる「景色読解力」を身につけさせる必要があります。この能力があれば、危険な場所で注意力を高めるようになるのです。

 犯罪被害を本人や周囲の不注意のせいにする風潮がありますが、小宮教授は「事件や事故を不注意として片付けても何にもならない」と警鐘を鳴らします。

 こどもだけで行動する機会も多い夏休み、犯罪の機会はいたるところに蔓延しています。親としては頭を抱えたくなりますが、犯罪の危険性がつねにある以上、できるだけのことをするしかありません。

 こどもを一人にしないということも、ひとつの解決策だとか。ただ、いつも親などの大人が一緒にいられるわけではありません。

「こどもを絶体絶命の場面に追い込まないためには、こどもの景色解読力を高めて、たとえ一人でいても事前に危険を回避できるようにすることが、唯一の現実的な方法なのである」と、小宮教授は強調しています。

デイリー新潮編集部

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