阿蘇で橋崩落、孤立状態に 東海大の学生アパートなど倒壊
火の国のシンボルも激震に襲われた。16日午前1時25分ごろ、さらに2時間半後にも震度6強が観測された熊本県阿蘇地方。一大観光地の橋や道路は次々に切り裂かれ、家屋の倒壊が多発し、救いの手を待ちわびる住民たちが孤立した。
県などによると、阿蘇の外輪山沿いに走る国道57号、325号、九州有数のドライブスポット「やまなみハイウエー」(県道11号)は路面に亀裂が入ったり、一部が削れ落ちたりするなどして寸断された。
勇壮な火山と各地を結ぶ阿蘇大橋(同県南阿蘇村)も崩落し、南阿蘇大橋(同)も亀裂が入って通行できない状態に。孤立した集落の住民から助けを求める通報が相次ぐ中、警察や消防の現場到着は難航した。
南阿蘇村の河陽地区でも多数の家屋が倒壊した。土砂崩れも起き、複数の人が生き埋めになった。レスキュー隊の到着を待ちきれない住民たちは協力して救出活動を開始。広範囲で停電したため、複数の車を半円の陣形を組むように並べ、ヘッドライトを照明代わりに救助を急ぎ、角材とブルーシートで作った担架で救出した人を運んだ。
阿蘇大橋の近くにある2階建てアパート「グリーンハイツ」も複数の棟で1階部分が押しつぶされた。東海大阿蘇キャンパスの学生たちが生き埋めになり、12人を救出。そのうち男女2人の死亡が確認された。
助け出された東海大農学部4年の女子学生(22)は「寝ていたら突然ドーンという音がした。壁が倒れてきたので、目の前の隙間に入り込んだ。身動きがとれない間、友人たちが『もうすぐ救助がくるからね』と声を掛けてくれて心強かった」と話し、座り込んで、ぼうぜんと現場を眺めた。
近くでは大規模な山崩れも発生し、少なくとも民家3棟がのまれた。会社員女性(49)は「5人以上が埋まっているのではないか。心配だ」と話した。
観光地での孤立も続出。垂玉温泉や地獄温泉では近くで土砂崩れが起き、宿泊客らが取り残された。一方、警察車両はなかなか入れず、九州管区警察局は「自衛隊のヘリコプターでピストン輸送して応援部隊を投入する計画を立てている」として対応を急いでいる。
被害は阿蘇地方の広範囲に及んだ。JR九州によると、16日未明の震度6強の地震で、同県阿蘇市のJR豊肥線赤水駅付近を試運転中だった列車が脱線。運転士にけがはなかった。豊肥線では土砂崩れで線路が押し流される被害も出た。
阿蘇地方は、2012年の九州北部豪雨でも甚大な被害を受けた。家で過ごすのが怖く、妻や娘と車中で一夜を明かした同市の男性(65)は「電気もガスも止まった。今夜から雨と聞いている。夜が来るのが心配だ」と話した。
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◆阿蘇神社ぺしゃんこ、住民「ショックだ」
外輪山の北側にある熊本県阿蘇市一の宮町では、国重要文化財の阿蘇神社で楼門の柱が折れてつぶれ、拝殿が崩れ落ちた。
神の婚儀を祝う伝統の「火振り神事」で知られ、古くから地元に愛されてきた神社。知らせを聞いた住民が朝から大勢訪れ、心配そうに破損状況をうかがっていた。
近くの男性(65)は「阿蘇神社は阿蘇山の怒りを鎮める役割を果たしているのに、一夜で崩れた。非常にショックだ」と話した。
=2016/04/16 西日本新聞=