自ら事業を立ち上げる起業には、何かと悩みもつきものだ。起業家たちからの代表的な質問を、ベンチャー界の“兄貴”U-NEXT社長の宇野康秀さん(52)にぶつけてみた。
■質問1 経営者人生で最大の危機は?
2008年のリーマン・ショック以降の約2年でしょうね。当時、2社を経営していまして、一つは父親が創業した「USEN(旧・大阪有線放送社)」。もう一つが自分で立ち上げた「インテリジェンス」でした。どちらも上場企業。2社は経営統合をして、インテリジェンスをUSENの子会社化した直後に、リーマン・ショックがやってきた。あれだけの金融危機があると、インテリジェンスは人材サービスの会社ですから、業績は急速に悪化します。株価も大幅下落。USENは子会社株式の減損という形で、その年に500億円の損失が、翌年にも同じくらいの損失が出ました。1千億円を超える特別損失でした。
会社の営業資金は回ってはいたものの、「今後、経営をどう修正するのか」をめぐってメインバンクから厳しく詰められるようになり、意見が対立することも多かった。最終的には彼らに従わざるを得ない面もあって、子会社を整理し、新規事業を取りやめた。起業したインテリジェンスも、売却することになりました。一度は自分から「一緒にやろう」と集まってもらった仲間たちです。切り離す作業は精神的につらかった。結果的に裏切る形になってしまったわけですから。
■質問2 危機はどう乗り越えた?
銀行からお金を借りていたので、「返せ」という話になります。これが厳しかった。毎朝6時に携帯電話にかかってくるんです。お前の会社なんか、いつでもつぶしてやるぞと言わんばかりに、連日、言われました。
多くの精神的な困難は、時間が解決してくれると思っています。ただ、この時ばかりはそれをはるかに上回る困難でした。ならば、肉体的にさらに過酷で、つらいことを課せば、精神的に楽になるんじゃないかと考えました。
トライアスロンと山登りを始めたのはこの頃です。経験はゼロでしたから、初めは2キロ走るのがやっと。練習時間ですか? 毎朝6時に銀行から電話がかかってくるので、それが終わってから。土日に会社で働くのもやめ、トレーニングにあてました。トライアスロンの大会には、いまも出ています。
スポーツを始めて「ものごとの因果関係」を意識するようになりました。リーマン・ショック後はまるで世界中の不幸を一身に浴びているようでしたが、そうなったのも、ベンチャー企業を始めたから、そして経営者の道を選んだから。そもそも、会社経営なんて別に選ばなくてもいいんです。スポーツも同じですよね。でも、やりたいから選んだ。自分の選択が生んだ結果で、仮にそれが苦しいことだとします。越えれば、強くなれるんじゃないか。次の挑戦の糧になる。そう考えられるようになりました。(アエラ編集部)
※AERA 2016年4月11日号より抜粋
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