2016年4月14日16時04分
■小野善康・大阪大特任教授
長期の経済停滞による税収不足で政府財政は赤字続きである。日本の累積赤字は1千兆円を超え、国内総生産(GDP)の2倍以上で世界最悪、政府資産分を差し引いた純負債額の対GDP比率もギリシャに次いで世界2位である。これで日本経済は大丈夫か。この問題を考えてみよう。
国債残高が巨額になると、人々は国債の元利を受け取ることができるか不安になろう。実際、民間銀行も家計も国債保有高を減らしており、買い続けているのは日銀だけだ。財政の赤字体質が変わらずに不安がどんどん膨張すれば、いつかは大量の国債が売られて国債価格が暴落する。
現在、民間銀行は300兆円の国債を保有し、生保なども含めれば500兆円になる。さらに膨らんだ段階で暴落すれば、資産価値が激減し、銀行が破綻(はたん)するから、日本経済は大変だと言われている。
しかし、以下に述べるように、銀行は破綻しない。それでも家計や生産部門は大打撃を受ける。これこそが問題なのである。
国債への不安が広がっても、日銀が国債を買い支えれば、国債価格は持ちこたえられる。そのため銀行は破綻しない。
しかし、不安が大きいほど日銀は大量の国債を買い支えなければならず、交換に大量の円が市中に流れ込む。そのとき円は信用喪失の危機を迎える。
円が信用を失っても、円の貸し借りだけなら、民間銀行は破綻しない。円は日銀から十分に供給され、預金者が引き出そうとしても対応できるから、取りつけも起こらない。
さらに日本の銀行のほとんどは、外貨建て資産をもっている。日本は世界一の対外純資産保有国であり(367兆円)、そのうち70兆円近くを銀行がもっている。このとき円が信用を失い、為替レートが1ドル=何万円、何十万円にもなると、銀行の持つ外貨建て資産の円価値が跳ね上がり、総資産は円換算で増えるから、銀行は破綻しない。
反対に、もし銀行が外国から外貨建てで資金を借りていれば、負債額は円換算で巨額になる。そうなると、返済不能に陥り、金融危機が起こるだろう。これが1997年のアジア金融危機時のタイや韓国、最近のギリシャの姿である。
それでは、実際の経済活動への影響はどうか。銀行が破綻しなくても、企業や家計は大打撃を受ける。円が信用をなくしたら、大きな額を渡さなければ、物と交換してもらえず、物価の高騰が起こる。資産も金額上は維持されても、物価の高騰で実質的な価値を失う。取引が滞り、経済活動は大混乱に陥る。
これを避けるには、すぐに財政健全化のために増税が必要である。しかし、景気悪化を理由になかなか実行されず、国債が積み上がっている。実は以下に示すように、増税が景気を悪化させる可能性は、今の日本にはほとんどない。
日本の家計総資産は現在1700兆円以上あり、負債を差し引いた純額でも過去最高の1346兆円である。これだけの資産を持ち、年間240兆円の消費を行い、消費税18兆円を払っている。
この消費額は96年の規模と変わらず、そのときの純資産は916兆円しかなかった。つまり純資産が430兆円も増えても、消費を変えない。こういう国民は5兆や10兆円の消費税の負担が増えても消費を減らすはずがない。
景気に影響がない以上、増税から逃げずに、財政再建を目指し、赤字国債の拡大を止めるべきだ。
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