アニメ/声優系のラジオも4月の改編期を迎えて、新番組が続々とスタートしていますね。最近になって、ある傾向が見えてきました。ニコニコへの進出が、かつて以上に増えているのです。
いわゆる「アニラジ」は、文化放送、ラジオ大阪、ラジオ関西といった地上波の各局が番組を提供してきました。ウェブでは、インターネットラジオステーション<音泉>、響 - HiBiKi Radio Station、animate.tvなどのポータルサイトが知られています。
動画配信サイトの大手であるニコニコでも、昔からアニラジは配信されていました。それが、ここにきて数を増やしています。それも有料会員制の「チャンネル」を開設するという形を取っているのです。
ドワンゴが今年1月に発表したプレスリリースによると、ニコニコチャンネルの有料会員数のトップは『アイドルマスターミリオンラジオ!』で、他にもアニメやゲームの番組が上位を占めています。「上位5チャンネルの平均年間売上額は1億円超」というのですから、並大抵ではありません。こうした成功例を踏まえて、ニコニコへの進出が増えているということなのでしょうか。
例えば、シーサイド・コミュニケーションズは、『洲崎西』(第2回アニラジアワードで「最優秀女性ラジオ賞」を受賞)などで知られる独立系のラジオ製作会社ですが、これまで番組のアーカイブ配信は、それぞれの番組の公式サイトで提供していたのを、4月からはニコニコの公式チャンネルにまとめていくようです。
同じく独立系の製作会社であるセカンドショットは、さらに一歩進んで、『寿美菜子・早見沙織・悠木碧のことはゆ』や『Pyxisのキラキラ大作戦!』 などの新番組をニコニコの公式チャンネル独占という形で配信しています。つまり、番組を最初に発信するプラットフォームを、文化放送からニコニコに移動させてしまったわけです。
逆に、文化放送の方でも積極的にニコニコを活用しています。この4月から、改編期の目玉である新番組『鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト』の公式チャンネルをスタートに合わせて開設しました。生放送の同時配信と放送終了後のおまけ配信に加えて、バックナンバーも視聴できるサービスを提供しています。
(文化放送が、ニコニコに本格的に進出したのは、2014年4月の「Lady Go!!ホワイトちゃんねる」からです。当時放送されていた『A&G NEXT GENERATION Lady Go!!』の公式チャンネルで、文化放送としても初の試みだったとのことです。『Lady Go!!』は、2015年10月に終了しましたが、パーソナリティを一新した後番組の『A&G NEXT BREAKS FIVE STARS』もFIVE STARSチャンネルを開設しています)
他にも、この4月から、「サウンド・ウィング チャンネル」、「ひらかわんち」、「トリセカ」など、声優の番組を配信する有料チャンネルが、続々と生まれています。
こうしたニコニコチャンネルの急増は、いったい何を意味しているのでしょうか? とりあえず言えるのは、各会社とも、ラジオ番組そのもので収益をあげようと考えているということです。
基本的に、アニメのラジオ番組は、そのアニメを宣伝するために放送されます。制作費はアニメの宣伝費でまかなわれ、よりたくさんの人に聞かれることが目的となります。また、声優個人で番組を持つ場合は、その声優が歌手として活動していて、CDメーカーがスポンサーとしてつくケースが多かったわけです。それが次第に、ラジオ番組そのもので収益をあげようとするケースも増えてきました。番組の内容を収録したCD、各種グッズ、イベント開催などで、黒字にするという方法論です。
実は、これはテレビアニメのありようの変化とも一致しています。
かつてのテレビアニメは、いわゆるゴールデンタイムに放送され、玩具メーカーやお菓子会社など、さまざまな企業がスポンサーとしてついていました。視聴者はアニメそのものは無料で見ますが、それらの企業が作る関連グッズを購入することで還元し、ビジネスが成り立つという構図です。
それが、1990年代なかばになると、CDやビデオのメーカーが放送枠を買い取って番組をオンエアし、のちにその番組をパッケージ化することで利益を上げる手法が定着しました。これが現在もつづいている深夜アニメビジネスです。
そして、今、アニメビジネスは大きな展開期を迎えつつあります。ウェブの定額配信サービスの普及です。4月からの話題作では、『甲鉄城のカバネリ』が「アマゾンプライムビデオ」で、『クロムクロ』が「Netflix」での独占配信となりました。他にも、「LINE LIVE」や「AmebaFRESH!」のように大手ネットサービスが続々と動画配信に参入しています。ここ数年は「新作アニメはニコニコで」という形態が定着していましたが、今後は大きく様変わりしていく可能性が高いでしょう。つまり、ニコニコとしても新たなコンテンツの確保は急務なはずです。声優番組が急増しているのは、ニコニコ側の事情もあるのではないでしょうか?
風呂敷を広げすぎてしまったので、話をラジオに戻しましょう。つまり、これまでのアニラジは、ラジオ局やウェブのポータルサイトで放送して、グッズなどの販売で制作費を回収するというビジネスモデルが定着していたのが、会員制による定額配信へ大きく舵を切ろうとしているように見えるということです。
はたして、こうした変化は定着するのでしょうか?
ニコニコの有料チャンネルは、月額300~500円程度のものが多いようです。決して高い金額ではありませんが、同時に何本も契約するとなると、躊躇する人はまだまだ多いように思えます。ドワンゴのプレスリリースを見ても、上位を占めるのはソーシャル・ゲームで人気の「アイドルマスター」関連の番組が並んでおり、課金に抵抗のない層を多く取り込んでいることがうかがえます。
アニメ作品のパッケージを購入することを、よく「お布施する」と言ったりしますが、自分の好きなラジオ番組やパーソナリティに直接課金することが、どこまで当たり前のことになるのか、もしかすると、アニラジ業界が大きく変わっていくのかもしれません。