自由化、反発強く…自民・業界「需給調整できず」
指定団体経由せずに補助金
牛乳やバターの原料となる生乳の流通自由化を求めた政府の規制改革会議の提言に酪農家の反発が強まっている。指定団体経由で販売しなくても国の補助金が受け取れる内容となっており、夏の参院選を控える自民党は「需給調整ができなくなり、中小酪農家の経営を圧迫しかねない」と反対姿勢を鮮明にしている。
規制改革会議はバター不足の解消に向け、酪農家や乳業メーカーを調査した際、廃業の続出で生乳の生産量が減少していることを把握。その一因に需給調整や販売を担ってきた指定団体制度があると提言で指摘した。
生産の拡大意欲がある酪農家からは「生産量を抑えられ、価格も決められない」との不満が出ている。現行制度は1966年に始まったが、それ以来、酪農家の所得向上につながっていないのも事実で、規制改革会議は制度廃止で酪農家が競争力を高めれば出荷価格も上がり、酪農家の所得も増えると結論づけた。会議を主導する河野太郎規制改革担当相も「酪農を強くするという方向性は同じ」と反対派に理解を求めた。
これに対し、自民党の農林部会で14日に現行制度の廃止反対決議を取りまとめた坂本哲志衆議院議員は、記者団の前で「指定団体制度を維持しなければ、酪農界が混乱する」と話した。
反対派の主張では、生乳は短時間で乳業メーカーに引き渡す必要があるが、個別に取引すると安く買いたたかれたり、輸送コストがかさんだりする。そのため指定団体が各酪農家から生乳を集めてメーカーへ販売することで、「過疎地や離島で酪農を営むには欠かせない制度」(九州の酪農家)になっていると主張する。
また、生乳は季節による需要変動がつきものだが、指定団体に集め、普段は高く売れる飲料牛乳を優先して作り、余ったときにバターなど加工品を作ることで需給を調整している。この機能を維持するため、国は指定団体を通した生乳が加工用に使われた場合に限り、酪農家に年約300億円の補助金を出している。
しかし、自由化が進めば指定団体を通さなくても補助金が受け取れることになるだけに「生産調整に協力しない業者に、血税を使うのか」(業界団体)との批判も出ており、規制改革会議が答申をまとめる6月までせめぎ合いが続きそうだ。【寺田剛、宮川裕章】
◇生乳の指定団体制度◇
牛乳やバターなど乳製品の原料となる牛の「生乳」について、酪農家が国の指定を受けたホクレンなど全国10団体(指定団体)に販売を委託し、各指定団体が乳業メーカーと交渉して用途や価格、販売量を決める制度。価格が安い加工品向け生乳を出荷した場合、酪農家には、指定団体を通して国からの補助金が支払われる。
指定団体は交渉で、保存が難しい牛乳の出荷を優先したり、保存しやすいバターなど乳製品向けの出荷を後回しにしたりするなど流通面で調整役を担っている。しかし、一部酪農団体は同制度が自由な経営を阻害していると反発。酪農家は指定団体を通さずに乳業メーカーに出荷することもできるが、補助金は支払われない。指定団体は国内で生産される生乳の約97%を集荷している。