韓国総選挙で、朴槿恵(パククネ)政権を支える与党セヌリ党が惨敗し、野党勢力が過半数をとった。

 選挙戦では、経済の伸び悩みや、若年層の失業率が突出する雇用問題など、多くの論戦が交わされた。だが最大の争点は、朴大統領の強引な政治手法に対する評価だったのではないか。多くの有権者がそれに「ノー」を突きつけたかたちだ。

 大統領就任から3年。朴政権は批判勢力を徹底して排除してきた。大統領を糾弾した少数政党を国家権力によって解散に追い込んだほか、批判的な記事を書いたメディアを告訴するなど、民主的とは言いがたい措置をとってきた。

 選挙候補の公認決定でも、朴氏に距離をとる与党候補らを認めず、内紛を招いた。結果的に与党候補の落選が相次ぐなか、公認漏れしてやむなく無所属で出馬した候補が各地で勝利したのは何とも皮肉な話だ。

 今後、大統領の求心力の急激な低下は避けられまい。だが、大統領には権力が集中しており2年弱の任期が残る。

 今回の選挙では、与野党それぞれの厚い地盤を対立候補が打ち破るなど、新たな政治の芽吹きも感じさせた。有権者の投票動向は確実に変化している。

 朴大統領は独善型の政治に終止符を打ち、謙虚に対話に臨む姿勢へと転換すべきだ。

 韓国では来年末、大統領選が控える。躍進した野党勢力は、朴政権の内政、外交政策を批判し、政権奪還を目指すだろう。

 懸念されるのは昨年末、政治的な決着をみた慰安婦問題の行方である。野党側は合意の無効や再協議を訴えるが、あの合意は日韓両国が、国際社会に向けて表明した約束でもある。

 日韓両政府はすでに、合意の履行に向けた動きのみならず、他の歴史問題に関する協議など共同作業に取り組んでいる。

 野党側も日韓関係の改善自体には異論はないだろう。その第一歩が慰安婦合意の着実な履行である。ナショナリズムを国内の政治対立に利用する愚をおかすようでは、健全な日韓関係への展望はひらけない。

 もちろん合意の履行には日本側も、不用意な言動で韓国側を刺激しないことが求められる。

 一方、核・ミサイル開発を進める北朝鮮は、硬軟織り交ぜて韓国側への接近を図る可能性がある。南北融和を重視する野党勢力の勝利を背景に、韓国国内の葛藤を高めるねらいだろう。

 南北対話の再開そのものは望ましいことだが、日米韓の足並みが乱れないよう3カ国それぞれが心してあたる必要がある。