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2016年4月13日
ディレクターとしてPlayStation®2のゲームタイトル「ICO」や「ワンダと巨象」、PlayStation®4「人喰いの大鷲トリコ」といった常に新しい世界観を表現されてきた上田文人氏にお話しをうかがいました。
大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業後、Amigaを使い独学でCGを学ぶ。1995年に株式会社ワープに入社し、「Dの食卓」のディレクターズカット版や「エネミー・ゼロ」の制作に携わる。
1997年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に入社し、「ICO」や「ワンダと巨像」といった作品にてディレクター、ゲームデザイナー、アートディレクターとして活躍される。
2016年3月現在、ディレクターとして2016年発売予定の「人喰いの大鷲トリコ」を制作中。
FUMITO UEDA: | http://www.fumi.to/ |
gen DESIGN: | http://www.gendesign.co.jp/ |
人喰いの大鷲トリコ: | http://www.jp.playstation.com/scej/title/trico/ |
上田氏:
1995年に「Dの食卓」などを作った株式会社ワープに入社しました。ワープで最初に手掛けたゲームは「Dの食卓」のディレクターズカット版で、その後「エネミー・ゼロ」に携わりました。
その後、1997年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に入社しました。当初はゲームを作るためではなく、SCEが探していたPowerAnimator(パワーアニメーター)の使い手として、ちょっとしたバイト感覚だったんです。
その後、SCEで初めに「ICO」を制作し、2作目として「ワンダと巨象」を制作しました。2011年くらいにSCEを退社して、現在は「人喰いの大鷲トリコ」の制作に携わっています。
DS: 「ICO」と「ワンダと巨象」はPlayStation®3に移植されていますが、プログラム的にも作り直しなどされているのでしょうか。
上田氏: 移植の作業自体は海外の会社が行っていたため、あまり詳しいことは分からないんですよ(笑)。ただ、アセットやモデルデータ、アニメーションデータなどはそのまま流用していたようです。
上田氏: 最初は個人で、Amiga 1200を使ってLightWaveではなく、LightRaveっていうソフト使っていました(笑)
DS: 当時海外で売られていた LightWaveのエミュレーターですね(笑)
上田氏: そうなんですか(笑)
DS: その頃から、Amigaでいろいろなソフトを使っていのですか?
上田氏:
そうですね。もともと家ではAmigaのImagine(イマジン)というソフトも使っていました。当時のAmiga使いにとって、ビデオトースター上でのLightWaveは憧れのソフトだったので、どうしても使ってみたくなり大阪のCG会社でアルバイトを始めました。その時に触ったAmiga版のLightWave 4.0が、初めて触ったバージョンになります。
言っていいのか微妙なのですが、この会社でバイトしているときに、会社の仕事をしつつ裏でこっそり自分の作品も作っていたんです(笑)。ある程度作品がたまってきたので、映像作品をワープに送った結果、採用されたので、上京してきました。
DS: 上京されたのはいつ頃ですか?
上田氏: 1995年の9月ごろかと思います。
上田氏:
正確に言うと、ゲームのディレクターなので、アート関係だけをやっている訳ではなく、ゲーム全体の制作に関わっております。タイトル毎によってLightWaveの役割は異なるのですが、「ICO」や「ワンダと巨象」については、モデリングからアニメーションまで、かなりの部分をLightWaveでやっていましたね。現在のゲーム制作ワークフローは別のツール環境のため、キャラクターのコンセプトデザインなどをモデリングする時だけ、自分が長年使っていて慣れ親しんでいるツールであるLightWaveを使用しています。
また、現在所属しているスタジオ(genDESIGN)の会社のロゴや、ウェブサイトに載っている骨の絵は、僕がLightWaveで個人的に作った作品です。
Illustratorは使えなくはないのですが、LightWaveのほうが使い慣れているので2D、3D問わずLightWaveを使用しています。モデラーのスケールだったり、頂点変形など、あの辺りのツールが使い易く、形を成形しやすいので活用していますね。
DS: ロゴなどといった平面のデザインをされる際、2DツールではなくLightWaveを使用される理由は、角度を変えれば別のアングルとしていろんなデザインを検討できるということでしょうか?
上田氏:
そうではないです。板状のモデルなので、ローポリで作ってサブパッチで丸めるみたいな感じで作っています。
指示書などに使う矢印などの簡単なモデルもExcelやPhotoshop、Illustratorなどを使わずにLightWaveで作ってしまいますね。私的にはLightWaveのほうが使い易いんですよね。
LightWaveだと頭の中で考えている内容を高精度で作れるのですが、他のツールだとそこまで使い慣れていないというか、精度が出せないような気がするので。
DS: LightWaveにもそんな使い方があるのですね(笑)その他に、コンセプトアートを作成するためにもLightWaveを使用されるのですか?
上田氏:
コンセプトアートにはあまり使わないですね。
ラフスケッチは鉛筆等アナログツールで描いています。「ICO」とか「ワンダと巨象」の時代はエフェクトの表現テストにLightWaveを使用していました。あの時代、LightWave独特のテクニックってあったと思うんですね。
例えば、球体にフラクタルを貼って、端の部分を透明にして煙っぽく見せるとか、あと、板を置いてビルボードにして、カメラにペアレントして、煙のテクスチャを貼って回転してみたりとか、ちょうどあの当時のビデオゲームの最先端のグラフィックス表現と一致していたと思うんです。
DS: なるほど。いかにメモリを消費せずにリアルな表現をするかといったことですね。
上田氏: そうです。あの当時、LightWaveを使っていた皆さんって、結構試行錯誤して、色んな表現にチャレンジしていたと思うんですけど、そういった表現ってゲームに落としこみやすかったと思うんです。今でもこのような表現はゲームで使っていたりしますからね。
DS: そういったテクニック集というかチップスのようなものが、当時のアメリカではいっぱいありましたからね。
上田氏: 確かにそうでしたよね。現在も僕がLightWaveでベースモデルを作って、このベースモデルをMAYAにもっていくということはあるのですが、フィニッシュまでLighWaveというのは、現在のゲームのワークフロー上なかなか難しいですね。
上田氏: LightWaveも使っていますよ。トレーラームービーをみて頂くと、大鷲(架空の巨大生物)と少年がいますが、これらのベース作りはLightWaveを使っています。先ほども言ったのですが、フィニッシュまでLightWaveということはないのですが。
DS: この作品の人間の動きが凄いですが、モーションはどのような3Dソフトを使用されているのでしょうか?
上田氏: モーション付にはMAYAを使用していますが、MAYAでなければいけないと言う訳ではなく、IK、キーフレームがあって、これが補間できればいいので、ソフトが凄いというよりも、どちらかというとモーションを付ける人のセンスに頼る部分が大きいです。同じことはモデリングにも言えますけどね。
DS: モーションはゲームエンジン上で動いているのですか?
上田氏: トレーラームービーはゲーム画面ですね。ゲームである限り、最後はゲームのハードでレンダリングされます。
DS: 背景などにもLightWaveは使われたりしているのでしょうか?
上田氏: そうですね。先程も言いましたように、ゲーム制作は制作環境に依存するため、現在、LightWaveの使用比率は減ってきているのは事実です。「ICO」」のときはモデリングをLightWaveでやって、モーションはSoftimageでやっていたのですが、Softimageは使用していてストレスが結構あったので、「ワンダと巨象」ではモデリングもモーションもLightWaveを使っていました。
上田氏: ワークフローには組み込まれていないのですが、私個人のクリエイティブな部分といいますか、最初に形にするための制作ツールとして使用しています。
上田氏: LightWave 2015にアップデートしたのはどの機能が使用したいとか、以前のバージョンで機能が不足していたからと言う訳ではなく、最新のLightWaveはどういった所が変わったのか見てみたくてアップグレードしたんです。
DS: 以前のバージョンと比べて違和感なく使用できますか?
上田氏: 以前はUnity との親和性の高いLightWave 11.xを使っていたのですが、LightWave 2015へのバージョンアップ後も違和感なく使えていますね。
上田氏:
まさに先ほど言ったウェブサイトの絵です。
線画の絵はノード編集でしたっけ?カメラからの角度を調整してエッジが見えるように工夫して作りました。
この骨の絵はいろいろなライティングでレンダリングしたのですが、1枚だけをウェブに使用するのはもったいないと思い、サイトをスライドショーにして切り替わるようにしたんです(笑)。あと、VPRの機能がありますが、この機能は凄く便利で絵も綺麗でしたので、VPRのレンダリング画像をそのまま使用した、画像も含まれています。
上田氏: サブパッチですかね。あと、3rd Powersさんのプラグインと、VPRですね。
上田氏: 今はゲーム制作に直接使っていないので、一昔前の話になるのですが、ポリゴン法線が調整できない等ありましたが、今でもそうなんですか?
DS: 今もできないですね。
上田氏: そうですよね。そこが結構ネックだったかなと思いますね。LightWave 5.6ぐらいのときにサードパーティ製のUVを操作するプラグインがありましたが、あれは「ICO」で使っていましたね。
DS: お聞きしたいのですが、もし、LightWaveのモデラーとかで頂点法線を操作できるようになったら、またLightWaveをゲーム制作に導入されるようになると思われますか?
上田氏:
厳しいことをいうと、使い慣れているツールを使い続けていく人がほとんどではないかと思うんですよ。なので、この機能があるからこのツールに移行する、という人は中々いないと思うんですよね。それに、ある3Dソフトだけしか実装していない新機能があったとして、それが便利であってもすぐに他の3Dソフトにも実装されると思うんですね。
それが見えているので、ワークフローとして他の3Dソフトに移行するということはなかなかないと思うんです。ただ、僕の場合は、使い慣れているLightWaveで作って、それをMAYAにもっていくといった使い方になるかもしれないですね。
上田氏: MAYAですかね。現在の環境はアニメーション部分は全てMAYAで作成しています。とはいえ、僕がMAYAで使える所はアニメーションの部分だけですね。僕自身、モデリングツールとしてMAYAを使おうとは思っていないので、あまり覚えようとしていないのですが(笑)
DS: モデルデータをMAYAにもっていき、MAYAでリグを組むような作業を行っているのでしょうか?
上田氏: その辺りは専門の担当者がいるので、モデリングした物を渡して、動かせるようになって返ってきたものにモーション付けを行うといったフローになっています。
上田氏: 他のソフトとの連携(コンバータ)ですね。例えば、自社で作ったコンバーターがあって、このコンバーターはMAYAのマテリアルをそのままLightWaveに持ってくるツールになるのですが、こういった機能が標準で実装されるとうれしいですね。
DS: LightWaveとMAYAは行ったり来たりするのでしょうか?
上田氏: そこまで頻繁にはないですが、それが理想ですよね。LWOの中にピボット位置が入っていると思うのですが、これを取り出してMAYAに渡す事が出来るのではないかということで、コンバータ作ってテストをしているところです。
DS: MAYAからのモーションデータはゲーム機用のコンバーターを通して実機に出力されているのですか?
上田氏:
専用フォーマットがあるのですが、そのフォーマットにモーションをすべてベイクしているようなイメージです。IKをFKのデータに変換している感じですね。
上田氏:
僕はどっちかと言うとアナログツールではあまり才能が開花せず、デジタルツールに出会うことで、自分で表現したいものが表現できるようになったというタイプだと思うんです。
アナログツールだと一筆入魂ではないですが、1つの作品を作っていく過程で、失敗したらまた1からの作り直しが必要になることもあって、その場合、手先の器用さだったり、集中力であったり、勘所がよくないと、自分が望んでいる物に近づけていく作業は大変な労力を必要としますよね。
ですが、デジタルツールであればアンドゥやセーブがあるので、失敗してもどんどんやり直して、何度でもチャレンジできます。結局、制作する手が速ければ速いほど、表現する作品のクオリティを高めていける世界だと思うんです。なので、できるだけ恐れずにチャレンジして、失敗したら戻ってもう一回やり直す、みたいなスタンスで作りつづけるのがいいと思いますね。これは、3Dに限らずデジタルツールを使う上では共通のことではないかと思います。