犬井ヒロシ
『エンタの神様』というお笑い番組があります.残念ながら今は不定期放送ですが,2003年〜2010年までは毎週土曜の22:00から放送してました.上の子と良く録画を見てました.
番組のラストバッターは音楽系ピン芸人の起用が多かったです.資料によると,復活特番も含めるとはなわ,波田陽区,渡辺直美などが登場.
え?誰か忘れてるって?
そう,この人がいました.とりわけ大好きだった犬井ヒロシ.
このネタだと
ティッシュ配り イズ フリーダム♪ と高らかに歌っています.
これが何の話につながるかと言うと,次の話です.
新聞記事における取材対象と記事内容,および記事内容と見出しの関係がかなりフリーダムなことについて,です.
新聞5紙における京都大学式辞の記事について
産経新聞が,2016年京都大学学部生入学式式辞のテーマが「自由」であるにも関わらず,『自由,多すぎませんか?京大総長,入学式の式辞で「自由」をなんと34回も』なる見出しで記事を書きました.
自由、多すぎませんか? 京大総長、入学式の式辞で「自由」をなんと34回も - 産経WEST
産経新聞の記事に対して思うことが山ほどあったので,前回,こんなエントリを書きました.
5,000字超の長文にもかかわらず思いの外読んでいただき,おかげさまでSmartNewsにも掲載されました.頂いたコメントにもネガティブなものがほとんどなく,ありがたいものばかりでした.感謝いたします.
この記事を書いた時点では産経しか頭になかったのですが,その後,他の主要3紙(朝日,読売,毎日)および京都新聞での京大式辞の記事を読んでみました.
すると,式辞のテーマである「自由」を,少なくとも記事中に用いたのは2紙のみでした(産経を含めると3紙).
山極寿一総長は式辞で、自由の学風を伝統とする京大での学びについて「自分で考えるだけでなく、多くの人々と対話をするなかで自分の考えを磨き、 創造性に満ちた新しい発想を世に出すことが求められる」と語り、「京大で対話を駆使しながら多くの学友たちとつながり、未知の世界に遊び、楽しまれることを願っています」と述べた。
京大総長「揺るぎなき未来を」 入学式で選挙参加呼びかけ : 京都新聞
山極総長は式辞で、過酷な歴史を経て培われたフランス自由主義の流れをくむ京大の学風を強調した上で、霊長類学を切り開いた今西錦司や伊谷純一郎の思想を紹介。「自由は勝ち取るものではなく、他者との共存を希求する中で相互の了解によって作られる」と、平等や博愛の精神の大切さを語りかけた。さらに、太平洋戦争で学生が駆り出された歴史を振り返り、新入生が政治に意思を反映させる意義を訴えた。
大切なのは「自由は勝ち取るものではなく、他者との共存を希求する中で相互の了解によって作られる」じゃないことは拙エントリで述べたので繰り返しませんが,朝日,京都,産経が「自由」と書いたことは評価します.
特に朝日新聞は「自由の学風」についてはっきり言及しています.朝日がもっとも総長のメッセージの意義を汲んだ記事を書いていたのはちょっと意外でした.
しかしながら,残り2紙には「自由」がまったく登場しませんでした.
「確かな1票を」…京大入学式で学長が式辞 : ニュース : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
山極寿一学長は式辞で、6月施行の改正公職選挙法で選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることに触れ、「日本の政治の方向性について大きな責任が生じることを忘れず、揺るぎなき未来を築くために確かな一票を投じてほしい」と呼びかけた。
入学式:京都大 学長「皆さんの意志で揺るぎなき未来を」 - 毎日新聞
式では山極寿一学長が、京大出身の洋画家・須田国太郎が描いた「学徒出陣図」を紹介。今年、選挙権年齢が18歳以上へ引き下げられることに触れ、「多くの 学生が戦争に駆り出されたことをしっかり心にとどめてほしい。(選挙権を得れば)日本の政治の方向性について大きな責任が生じる。皆さんの意志によって、 揺るぎなき未来を築くため、確かな1票を投じてください」と語りかけた。
まだお読みでない方はぜひ目を通していただきたいのですが,山極京大総長の学部への入学式式辞のテーマは「自由」です.ただし,いみじくも産経新聞と京都新聞が引用した「自由は勝ち取るものではなく、他者との共存を希求する中で相互の了解によって作られる」という部分は京大の特徴である「自由な学風」を説明するための前段階にすぎないことは拙エントリにて書きました.
平成28年度学部入学式 式辞 (2016年4月7日) — 京都大学
新聞記事のマズイ点3選
朝日以外の4紙の記事を見る限り,次のことが指摘できます.
新聞記事のマズイ点3選です.
1.式辞のもっとも重要なメッセージを読み誤る
ただ,紙面にはどうしても字数制限があるので,「自由」についての歴史的経緯と「自由な学風」両方について書くのは難しかったのかもしれません.この点,「自由」についての歴史的経緯をコンパクトに紹介した京都新聞の記事には好意が持てます.
2.不適当な見出しを付ける
産経新聞が顕著でした.「自由,多すぎませんか?」と見出しに書いておきながら,記事中では「約20分間のあいさつで、山極総長は京大の学風である「自由」の言葉を34回用い、「自由は他者との共存を希求するなかで、相互の了解によって作られるもの」と紹介した。」としか扱っていません.見出しには悪意すら感じられます.メッセージを読み誤っているのはともかく,なぜ34回が多すぎるのかについて一言も触れていないのでは煽りタイトルと同じです.
3.式辞のもっとも重要なメッセージに目もくれず,都合のいい部分だけを抜き取る
読売,毎日の2紙がそうです.この2紙が何を重視している新聞かが良く分かります.
読売新聞における東京大学式辞の記事について
京大の入学式式辞だけではなく,実は東京大学の入学式式辞についても一部メディアによって書かれた記事に問題がありました.
五神(ごのかみ)東大総長による学部入学式式辞のテーマは「知」でした.
しかしながら,読売新聞はこういう記事を書きました.
東大生よ、新聞を読もう…入学式で五神学長 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
五神 真学長は式辞で「うわべの知識をうのみにせず、情報の洪水にのみ込まれない『知のプロフェッショナル』になってほしい」と指摘。その上で、「皆さんは毎日、新聞を読みますか。新聞よりも インターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身につけるべきです」と述べた。
こう記事に書いてありますが,式辞のテーマは「知」です.
式辞で,新聞を含むメディアについて述べている箇所の一部を引用します.読売新聞記事の見出しと本文の浅はかさが一目瞭然です(強調部分は筆者).
ところで、皆さんは毎日、新聞を読みますか? 新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべきです。東京大学ではオンラインで新聞記事や学術情報を検索し閲覧できるサービスを学生の皆さんに提供 しています。ぜひ活用してください。その上で、皆さんにさらにおすすめしたいことがあります。それは、海外メディアの報道にも目を通すことです。日本のメディアの報道との違いに注目してみてください。また、世界の中で日本がどのように見られているかということも意識してみてください。私は総長になって以 来、世界の多様な人々と話す機会が増えました。その中で世界のとらえ方や、外から見た日本の姿が、私のそれまでの常識とずいぶん違うと思うことが度々あり ました。手近な日本の新聞やテレビによる情報だけでは足りないのです。皆さんには、ぜひ、今からそのような国際的な視野を日常的に持つ習慣を身に着けてほしいのです。
「新聞よりもインターネットやテレビで」,
「ヘッドラインだけでなく,記事の本文も」とのべ,
さらには
「手近な日本の新聞やテレビによる情報だけでは足りない」
「ぜひ、今からそのような国際的な視野を日常的に持つ習慣を身に着けてほしい」
と結び,日本のメディアを痛烈に批判しています.
それにもかかわらず,読売新聞の見出しは
「東大生よ,新聞を読もう」です.
これは,産経の「自由,多くないですか」をはるかに上回る実に味わい深い記事です.
「知のスペシャリスト」と書いてはいるもののメッセージの内容を汲んでいません.
「ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身につけるべきです」と書いていますが,五神総長は「それでは足りない」と斬っています.読売は都合良い部分だけを抜き出しています.
しかも「新聞を読もう」などという不適当極まりない見出しを付けるという暴挙.
新聞記事のマズイ点3選すべての複合案件となっています.
付ける薬はありません.
この件に関しては,すでにホッテントリ入りなさっているこちらのエントリにものすごく丁寧に書かれています.パクリ参考にさせていただきました.
新聞記事のブルース
さて,新聞も含めメディアは憲法21条の「表現の自由」が適用されるとのことなので,何をどう書こうと本来自由・・・なのでしょうか?
せっかくなので,犬井ヒロシのネタをパクってこのエントリを締めようと思います.
新聞記事のブルース
新聞記事のブルース聞いてくれ
新聞に京大や東大の式辞の記事のってて
「総長,何だか良さそうなこと言ってるやん」と思って式辞の本文読んでみたら
京大のはオレみたいに自由っていっぱい言ってるし,東大のは日本の新聞やテレビばっかじゃなくて海外メディアも見なさいって言ってるのに
いろんな新聞読んでみたら
自由なんてどこにも書いてない新聞や,「新聞を読もう」なんてそんなことぜんぜん言ってないヘッドライン書いてもうてる新聞もあったときの話やけど
新聞が
いちばん大事なメッセージ伝えてなかったり,新聞に都合いいことしか書かなかったり,ヘンテコな見出し付けたりするのか
それとも中身も見出しもきっちりしてる,ごっつええ記事を書くのかは
自由だああああああ!!
新聞の見出し イス フリーダーム♪
新聞の内容 イズ フリーダーム♪
自由って書くかどうか イズ フリーダーム♪
自由を34回数えること イズ フリーダーム♪
(ギター間奏)
でも
国境なき記者団による報道自由度ランキングだと
日本は2010年の11位から2015年は61位と,えらく落ちてしもうたさかい
日本の新聞フリーダムちゃうみたいやで!
センキュー!
ギターコードはこちらです(犬井ヒロシ(犬井ひろし)のブルースコード).
「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか? | 日本大学大学院新聞学研究科
なお,「犬井ヒロシ=サバンナの高橋」という事実をつい最近知りました.
ではまた!
新聞各社にはネガコメが殺到しない記事を書いていただきたいものです.