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 待機児童が社会問題となるなか、住民の反対で保育園の開設を断念するケースが相次いでいる。騒音や通行量の増加を不安に感じる住民の理解を得る鍵はどこにあるのだろうか。

■道幅の狭さ懸念

 千葉県市川市のJR本八幡(もとやわた)駅から約1キロの閑静な住宅街。4月に開設予定だった私立の認可保育園の計画が住民の反対で中止になった。近所の女性は「何でここなのと思った」。前の道路は幅3~4メートルで車がすれ違うのもやっと。子どもを預けに来る車や自転車で道がふさがれると思ったという。

 交通量の増加や騒音を心配した住民たちは、運営予定の社会福祉法人や市に白紙撤回を求める要望書を提出。2度の説明会でも溝は埋まらず、法人は3月に、計画を断念した。理事長は「子どもは地域と一緒に育てたい。理解が得られなかったので取り下げた」と話した。

 同様の例は各地で起きている。

 千葉県佐倉市では、4月に開園予定だった保育園が、住民の反対を理由に地権者に賃借を断られ、着工直前で建設を断念。横浜市でも昨年、鶴見区の民間保育施設が認可保育所への移行を申請したが、住民の要望で申請を撤回した。

■子の声は騒音?

 反対理由によく挙がるのが、音の問題だ。東京都練馬区や神戸市では、保育園の騒音をめぐり訴訟になったケースもある。

 東京都が2014年に実施した調査では、子どもの声を巡る苦情を受けたことがある市区町村が7割を占めた。「何人も規制基準を超える騒音を発してはならない」とした都条例がトラブルや訴訟の根拠になっていたため、都は条例を改正し、15年4月から就学前の子どもの声を騒音の規制対象から外した。「乳幼児の成長過程で『声を出せる環境』は重要」という立場からだった。

 騒音問題に詳しい八戸工業大大学院の橋本典久教授(音環境工学)は「『子どもの声は全て我慢しろ』という考え方も、『工場の騒音と同じように規制しろ』という考え方も、極端過ぎる」と話す。うるさいと思うかどうかは音の大きさだけではなく、相手との人間関係も影響するという。「遮音壁などの防音対策だけではなく、『うるさく感じない』関係づくりが大切」と指摘する。