東日本大震災5年 ふくしま
小児甲状腺がん 支え合う
●「家族の会」結成、医師・弁護士ら世話人/「医療環境の改善求めたい」
「県や医師は患者の立場をもっと理解してほしい」―東京電力福島第一原発事故後の県民健康調査で、小児甲状腺がんと診断された子どもたちの保護者らが、「311甲状腺がん家族の会」を結成した。突然のがん宣告に戸惑い、まわりの目を恐れて孤立を余儀なくされてきた家族たち。「まずは患者同士が出会い、交流して情報共有し、医療環境の改善を求めたい」と立ち上がった。
家族会を結成したのは、甲状腺がんの切除手術を受けた中通りと浜通りの5人の子どもの親や親族計7人。県内で勤務経験があり、チェルノブイリ原発事故被災地を調査した牛山元美・さがみ生協病院内科部長(神奈川県相模原市)らが世話人に、河合弘之弁護士(第二東京弁護士会)が代表世話人に就いた。
将来は国や県、東電を相手取った訴訟も視野に入れるが、現状では「一人ひとりが分断され、不安も疑問も口にできない患者同士が出会い、交流する場をめざす。患者・家族が結束して声をあげることで行政への政策提言もしやすくなる」(河合弁護士)という。交流会や相談会を開催し、他の患者家族に参加を働きかける。
●「放射線の影響」不安
県は、原発事故当時18歳以下の県民と事故後に生まれた乳幼児も加えた約38万人を対象に甲状腺検査を実施。昨年末までに166人が甲状腺がんやがんの疑いがあるとされたが、県が有識者で組織する検討委員会は、「放射線の影響は考えにくい」との見解を出している。
しかし、家族会の親たちはこうした公式見解に不安や不信をもち、記者の取材に対しても、がん告知の方法や手術の同意の取り方、予後の対応、今後の生活への影響の説明や診療費・補償などで不満が続出した。
中通りで暮らす40代の母親は、高校生の長女が、県立医大の担当医の執刀で切除手術を受けた。術前の予想よりもがんが広がっていたため、首の傷痕も大きくなり、夏場はスカーフを巻いて過ごしている。
「娘は手術後、疲れやすくなった。大好きなゲームをしていても眠ってしまうなど、以前はなかった」
母親らの証言によると、生徒は2年ほど前、甲状腺に結節が見つかったとして、2次検査を受けた。
県立医大に出向くと担当医からは「針を刺してがんとみられる細胞の確認をする。痛いのでやるかやらないかは自由。1カ月の間に決めて」と言われた。母子で話し合って細胞診を受けることを決心した。結果説明では、本人もいる前でいきなり「悪性のがんだった」と告げられてショックを受けたが、「大したことはない。甲状腺がんは半年や1年放置しても命にかかわらない」とも言われた。
しかし、昨春の手術直後、担当医から「思ったより大きかった。誰が半年も放っておいていいと言った?」と叱られた。再発の可能性も示唆されたという。
手術後、県立医大が患者同士の交流会を開いたため参加した。だが、「一方的な話ばかりで疑問に答えてもらえるような会ではなかった。全く役に立たなかった」と話す。
また、震災当時高校生だった男性の父親によれば、「手術後に何回も担当医に原発との関係を尋ねたが、『関係ない』と一蹴された」という。そのうえ、手術後は「手術したことをマスコミがかぎつけても答えないように。答える必要はないでしょ」と言われた。今は「再発や転移の不安に苦しむ日々だ」という。
●「告知の難しさ痛感」
県立医大の担当医は朝日新聞の取材に対し、広報コミュニケーション室を通じて「心のケアの専門家が早い段階から関与し、不安や疑問を口にできる環境づくりに心を砕いてきた。取り組みは術後も続いている。がんの告知は特に慎重に臨んでいる。今回、本意でない解釈を突きつけられ、伝え方の難しさを痛感している。未成年などの本人に告知するかどうかは、事前に保護者と相談し、確認している」などとするコメントを寄せた。
家族会の問い合わせは事務局(070・3132・9155)へ。(本田雅和)
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