発行部数を「水増し」してきた朝日新聞、激震! 業界「最大のタブー」についに公取のメスが入った

2016年04月11日(月) 幸田泉

幸田泉賢者の知恵

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朝日以外も「他人事」ではない

公正取引委員会は昨秋ごろから、朝日新聞社側から事情を聴いていたが、朝日新聞社はそのタイミングで販売制度を変更している。新聞社から販売店に対して様々な名目で支払われている「補助金」を、昨年末、「押し紙1部当たり1500円」という制度に変え、販売店が「押し紙を止めろ」とか「押し紙を減らせ」と要求しづらくなるようにした。

もちろん、すべての押し紙に1500円の補助金が支給されるわけではなく、一方で販売店が注文部数を減らせば1部当たり1500円の補助金を失う仕組みだ。まさに目の前の売り上げだけを考えた小手先の制度変更である。

せっかく新聞業界の優等生だったのに押し紙に手を染め、10年間で300万部もの「生きた部数」を殺してしまったことを検証すれば、このような発想にはならないはずだ。この制度変更には「公正取引委員会の動きを受けて、販売店が注文部数を減らせないように先回りした」と販売店の間で反発が強い。

公正取引委員会の「注意」を朝日新聞社が受けたという話は、朝日新聞の販売店の間に急速に広がりつつある。「押し紙がなくなる」と胸をなで下ろす販売店主がいる一方で、「今の販売政策をどう変えていくのかが肝心で、公正取引委員会から注意されたから押し紙を切るだけでは、経営の立て直しにはならない」とみる店主もいる。

朝日新聞社は公正取引委員会の指摘を踏まえ「すべての販売所に弊社の法令順守の姿勢を周知する」(広報部)としており、販売網との信頼関係回復はこれからと言える。

実は今年2月、公正取引委員会の杉本和行委員長が日本記者クラブで記者会見した際、「新聞業界では独占禁止法違反の押し紙が横行しているのをどう考えるのか」という質問が出ていた。

杉本委員長は「そういう実態があるなら必要な措置を当然やっていかなくてはならないと思っている」と回答し、「国民の知る権利に応え、民主主義を支える公共財」を標榜する新聞社のしていることだからといって目こぼしするものではないという態度を表明していたわけだ。

朝日新聞社以外の新聞社も「他人事」と知らんぷりしている場合ではない。地方紙も含めてほとんどの新聞社が「みんなでわたればこわくない」とばかりに押し紙を行ってきた。販売店が公正取引委員会に訴え出れば、対処することが分かったわけで、いずれの新聞社も「明日は我が身」なのである。

幸田泉(こうだ・いずみ)
大学卒業後、1989年某全国紙に入社。支局勤務後、大阪本社社会部では大阪府警、大阪地検、大阪地高裁、東京本社社会部では警察庁などを担当。その後、大阪本社社会部デスク、同販売局などを経て、2014年退社。著書に、新聞業界の暗部を描いて大きな話題を呼んだ『小説 新聞社販売局』(講談社)がある。
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