「東大の顔」相次ぎ退任

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 日本経済新聞  2016/03/18(金)

yosikawaitou.jpg 現代経済学の発展に貢献し、経済財政諮問会議などでも活躍してきた東大教授の吉川洋、伊藤元重の両氏が今月末に退職する。ともに64歳で、65歳の定年を待たずに吉川氏は立正大教授、伊藤氏は学習院大教授に就任する。「東大の顔」だった両氏に代わる存在は今のところ見当たらない。

ふたりは、東大紛争の影響で入試がなくなった1969年の翌70年に東大に入学した同期生。「学内は紛争の余波もあって落ち着かず、学者を志す学生は米国の大学院を目指した」(吉川氏)という。吉川氏は米エール大大学院、伊藤氏は米ロチェスター大大学院で博士号を取得した。


 植田和男・東大教授、井堀利宏・政策研究大学院大教授、浅子和美・立正大教授らも東大の同期生。いずれも米国に留学した。


 70年代は現代経済学の転換期でもあった。マクロ経済学の中心だったケインズ経済学への批判が強まり、市場の働きを万能視する新古典派経済学(ミクロ経済学)の手法を使ってマクロ経済を分析する動きが加速した。


 吉川氏は5日の最終講義で「マクロの現象をミクロの経済主体の最適行動の結果として理解しようとするアプローチは間違いだ」と批判。統計物理学の手法を活用してマクロ現象を解明する視点を披露した。


 伊藤氏は13日の最終講義で、国際貿易理論での自らの研究成果を紹介しつつ、日本の通商政策などに、いかに関与してきたかを述懐。「政策の現場に立ち会えた」と振り返った。


 東大では統計学の国友直人教授、マルクス経済学の小幡道昭教授らも今月末に退職予定。学内には「世代交代が進むにつれ、研究分野、手法の多様性が失われつつある」と懸念する声もある。

(編集委員 前田裕之)


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