富士通を退職した話が盛況だ。退職、転職エントリが好物な僕としては食いつかざるを得ない。
増田は新卒で富士通に入社したものの、関連会社に飛ばされ希望とは違う職種に地方の勤務地、業務内容に打ちひしがれ、最後は幸せな転職をして終了、という運びだ。非効率な業務の紹介、ブラック業務エピソード、転職前の一悶着…文章から富士通への怒りがヒシヒシと伝わってくる、いい転職エントリだ。ただ最後に「無駄にした時間は何をどうやっても返ってこない。」というフレーズが頭に引っかかった。貴重な若い時間は無駄だったのか。
本人は無駄だと思っているかもしれないけれど、中に入って何らか得るものはあったのではないかと僕は思っている。それは20万人月プロジェクトがどう回されているのかとか、大企業がどんな非効率な仕事の仕方をしているのかとか、職種マッチングが全然機能していないとか、そういう知識経験的なものではない。増田は、彼が本当にやりたかったことの具体化を富士通でなせたのではないか。
増田が富士通を選んだ理由としては「院で研究した分野と同じ研究をしていた」とのこと。この流れなら当然、その研究を行っている部署への配属を希望するものだと思われるが、増田が選んだのは開発職だ。応募理由と希望職種があっていない。となると、具体的にどのような業務に携わりたくて入社したかという根幹が欠けていたのではないかと思われる。付け加えると、元請けのSIerである富士通を開発志望で突撃するのも疑問が残る。とりあえず大企業だし、自分の研究と同じようなことやってて志望理由書きやすいしで会社を決めたんじゃないかという印象を受ける。
関連会社に飛ばされ山奥の工場に云々、という記載がある。富士通は元請けSIerなので実際の開発は下請けに出しているだろうし、飛ばされた関連会社というのがその下請けなのだろう。開発職でやっていきたい、という熱意が伝わってしまったための悲劇だ。また、富士通の強みはハードとソフトを両方自分で開発しており、客先に合わせてどちらもカスタマイズしたサービスを提供できるところだ。ハードの製造現場に近いところでの業務になってしまうのは仕方がない。これまた開発職を選んだ弊害だと見える。どちらの項目も職種マッチングで開発職という希望を汲み取られた結果じゃないのかな。これらは畑違いの僕からしても思いつく発想で、自分のやりたいことが明確になっていてきちんと調査していれば回避できた事態なのではないかと思う。それが出来なかったのは、やっぱり自分のやりたいことが明確になっていなかったんじゃないかな。(無論、彼の業務内容や扱いに関しては大いに同情すべきだけど)
転職先に言及していないところを見ると、恐らく今の職場には満足しているんだろう。満足の理由が「自分のスキルを生かせる職場」なのか「開発らしい開発ができる職場」なのかは、はたまた全く別の要因なのかは分からない。ただ自分のやりたいこと、大切にしたい価値観がきちんと見えたからこそ、そこに到達できたのではないかと思う。そしてそこに至るまでには、やはり不服な経験をして自己の不満の源を見つけなければならなかったのではないか。彼が無駄だと言ったその時間は、必要経費だったと僕は感じる。
正解までの過程を「無駄」と言いきってしまう風潮があると感じる。紆余曲折や手戻りなどはビジネス上は確かに悪なんだけど、その過程により得られるものは教訓なり経験なりあるはずだ。結果だけではなく過程を振り返ること、それは決して無駄ではない。過程を無駄として切り捨ててしまうこと、それこそが本当の無駄だ。