陸昊は胡錦濤元主席や李克強首相ら最高指導者を輩出した共産主義青年団のトップを経験し、2013年4月に中国で最年少の省長に就任。習近平の次の次の最高指導者に擬されている有力幹部だ。それだけに、ネット上で、この発言が流れると、労働者や家族らの怒りが爆発した。
「陸昊よ、ぬけぬけとでたらめを言うな」「共産党は我々の金を返せ」「我々は飯を食って、生きていかなければならない」などと書かれた手製の横断幕をかざし、炭鉱労働者ら数万人が3月11日から連日、市内中心部をデモした。彼らは市政府庁舎や同社の本社前に集結し、気勢を上げ、出動した数千人の警官隊と衝突し、多数のけが人や逮捕者を出した。
事態を重く見た中央政府は同市の鉄道やバスの駅などを閉鎖し、同市に通じる幹線道路を封鎖。大量の警官隊や武装警察部隊を動員し、市中心部を取り囲んだ。
これと同時に、当局はデモや集会などに関する情報をネット上から削除した後、会社側と労働者を仲介し、会社側が一時的に2か月分の給料を支給することで折り合いをつけたという。「この労働者デモは全人代開幕中に発生し、海外メディアも大きく報道しただけに、当局も武力鎮圧はできなかったのだろう」と北京の外交筋は語る。
【プロフィール】そうままさる:1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。
※SAPIO2016年5月号