弁護士などによる後見人不正 過去最悪の37件に

弁護士などによる後見人不正 過去最悪の37件に
認知症の人などの財産を管理する後見人に選ばれた、弁護士や司法書士などが横領などの不正を行った件数は、去年、過去最悪の37件に上ったことが分かりました。後見人を選定している裁判所は、「監督を強化し、不正の防止に努めたい」としています。
認知症など判断能力が十分でない人は、家族が家庭裁判所に財産の管理を申し立てると、裁判所に選ばれた親族や弁護士、司法書士などが後見人や保佐人になりますが、認知症の高齢者が増えるなか、不正も相次いでいます。
最高裁判所のまとめによりますと、去年、弁護士や司法書士などの「専門職」が横領などの不正を行った件数は、前の年から15件、率にして70%近く増え、過去最悪の37件となりました。これらの不正による被害の額は1億1000万円でした。
一方、親族なども含めた全体の不正の件数は521件、被害額は29億7000万円で、件数、額ともに6年前に最高裁が調査を始めてから、初めて前の年より減りました。
最高裁によりますと、16年前に制度が始まった当初は、後見人の多くが親族でしたが、不正が相次いだため「専門職」を選ぶようになり、現在は後見人の5割以上が「専門職」だということです。
最高裁判所は「専門職の数が増えた結果、不正も増えたのは問題だ。家庭裁判所が財産の状況をこまめに確認するなど監督を強化し、不正の防止に努めたい」としています。

不正相次ぎ対策も

後見人による不正が相次いでいることを受けて、弁護士や司法書士の団体は対策に取り組んでいます。
成年後見制度では、家庭裁判所が弁護士会や司法書士の団体から提供された名簿を基に後見人を選び、定期的に報告を求めていますが、被害が後を絶ちません。
なかには不動産投資に失敗した東京の弁護士会の元副会長が、不正が発覚しないよう、うその報告書を提出して4200万円余りを着服し、業務上横領の罪に問われたケースもありました。
不正が相次いでいることから、司法書士でつくる「成年後見センター・リーガルサポート」は去年4月から、会員に年2回の業務報告を義務付け、不正のチェックを始めました。そして、不正を見抜けず会員が財産を横領して被害を弁償できない場合に備えて、センターが見舞い金として500万円を上限に給付する制度を設けています。
また、日弁連=日本弁護士連合会も後見人となった会員が財産を横領した場合、被害者に見舞い金を送る制度の創設を検討しています。
こうした被害を補償する取り組みのほか、成年後見を受ける人が多額の預貯金を持っている場合など、不正が懸念されるケースでは、被害を未然に防止するため、裁判所が後見人の監督人として別の弁護士などを選ぶ制度も導入されています。

被害者の家族「本当に悔しい」

成年後見人の弁護士に財産を着服された被害者の家族は、「信頼して任せた専門家に裏切られた」と訴えています。
東海地方に住む71歳の女性は、認知症の97歳の母親の財産管理を東京家庭裁判所に申し立て、東京の弁護士が後見人に選ばれました。
しかし、選任の4か月後から3年間にわたって着服を繰り返され、母親の預金口座から合わせて4100万円余りを引き出されたということです。
この弁護士は、着服した金を住宅ローンの返済や遊興費などに使ったとして、業務上横領の罪に問われ、裁判で起訴された内容を認めましたが、女性には800万円余りしか弁償していないということです。
このため、女性は母親が入所していた東京都内の老人ホームの費用の支払いが難しくなり、別の施設への転居を余儀なくさせられたということです。
女性は「裁判所が選んだ後見人で、プロの弁護士に悪い人はいないという前提だったので、そういう人に裏切られ、何を信用していいか分からなくなりました。母が一生懸命働いてためたお金をあっという間に持っていかれ、本当に悔しくて、憤りしかありません。裁判所にはもっと監督を厳重にして、同じような被害者が出ないようにしてほしい」と話しています。
女性は去年、母親を原告として、預金を着服した弁護士と国に賠償を求める訴えを起こし、裁判所の責任も問いたいとしています。