20代は、「濃度の高いお金」が使える!

悩める20代、30代に向けてつくられた『働く君に伝えたい「お金」の教養』(出口治明著/ポプラ社)。その刊行を記念して、出口治明氏と津田大介氏のトークショーが丸善丸の内本店にて行われました。ぎっしりと付箋を付けた本書を手に、「この本は人間賛歌だ」と口火を切った津田氏。第1回は若者にとってのお金の価値とそれを使うことの意味、また親の介護問題などに迫ります。

若者による、若者のための本

津田大介(以下、津田) 今日は『働く君に伝えたい「お金」の教養~人生を変える5つの特別講義』をテーマに、この本で伝えたかったこと、そこからさらに深掘りしたことを、補習として伺っていきたいと思っています。

出口治明(以下、出口) はい、よろしくお願いします。

津田 まずはこの本、とても楽しみながら読ませていただきました。

一言で感想を言うと、お金や経済の本でもあると同時に……なんというか、人間賛歌だなって思ったんですよね。

出口 ええ。

津田 人間にはいろいろな可能性がたくさんあって、お金はあくまでそれをサポートするための道具でしかない。その優先順位を間違えず、お金に縛られずにお金を使おうよということがこの本に込められたメッセージなのかな、と。

出口 そうですね。若い頃、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』(注・1911年にアメリカで出版された、ブラックユーモアや皮肉が効いた箴言集)という本をよく読んでいたのですが、お金の項に、「使うとき以外は役に立たない代物」という意味のことが書いてあったのです。

津田 ははは、なるほど(笑)。

出口 痛切な皮肉だけれど、正しいことを言っているなと。僕も、お金は使わないと意味がないとずっと思っていましたから。

津田 そもそも、この本はどうやって生まれたのでしょうか?

出口 この本は僕の本では珍しく、編集者もライターも、20代の方です。「出口さん、僕たちはお金のことが不安なんです、いくら貯蓄があれば安心できますか?」と聞かれたので「お金なんかに縛られなくてもええで」と話していたら、その話を本にしましょうということになって。

津田 本書を読んでいて、踏み込んだ質問や失礼な質問がずばずば書かれているところもおもしろかったです。まさに、20代が聞きたいことを聞いて、出口さんがそれに答えて出来上がった本なんですね。

出口 ええ。ちょうどその頃、ライフネット生命で「チャレンジ30」と呼ばれる取り組みが始まったんですよ。仕事の能率を30%上げて、新しいことにチャレンジしようという試みです。それで、20代の編集者とライターでこんな本を作ることになったと言ったら、ライフネット生命の20代、30代の若手社員が「チャレンジ30の取り組みのひとつとして、わたしたちも本づくりに参加します。わたしたちに任せてください」と手を挙げてくれたのです。

津田 へえー、すばらしいですね。

出口 とはいえ、僕も一応、出来上がった原稿には朱を入れたんです。このように加筆したらいいかな、とか。すると、20代30代のチームに7〜8割方、カットされてしまいました。それは本題とは関係ないですとか、こんな話、若者は興味ありませんと言われてしまって…。

会場 (笑)

出口 もちろんベースは僕の録音テープですので、僕の考え方や知見から成り立っている本には違いありません。ですが、この本はリンカーンの言葉を借りれば、「若者の、若者による、若者のための本」と言えるでしょうね。

20代だからこそ、有意義にお金を使える

津田 そんな本書には、20代に……いや、20代から60代まで、いつ読んでも非常に役立つことが書かれています。そのなかのひとつが、「若いときのお金の使い方と、年をとってからのお金の使い方は違う。同じお金でも吸収量が全然違うから、若いうちに使うことが大切だ」というメッセージ。

出口 はい。

津田 これは自分の経験を振り返ってみて、本当にそうだなと納得しました。若いうちは、それだけ貴重な経験ができるってことですよね。

出口 まず、単純に体力の問題があります。たとえ話ですが、僕は、旅が大好きです。そして、ナントカと煙は高いところに上るという言葉がありますが、高いところが大好きです。たとえばフィレンツェに行ったら入場料を払って大聖堂に入り、ドームの上まで必ず上っていました。

ところが50歳を超えた頃から、「何回も上っているし、もうええわ」と上らなくなってしまった。足も痛くなるし、次に行くところがあるからと言い訳するようになった自分に気がついたのです。

津田 旅の体力を温存しようとして。

出口 ええ。同じ入場料を払っても、体力があれば軽々と上れる。一方で、年をとったらできることが限られてくる。この例だけでも、同じお金を使うなら1日でも若い方が得だということがわかります。密度が違うのです。

津田 ああー、密度。そうですね。

自分の価値を高めるために、まず自分に投資しよう

津田 「投資」の講義では、「自分への投資」と「お金への投資」にわけて書かれていました。前者は、目先のお金をチマチマ殖やすのではなく、生涯年収をふくらませるためにも自分に投資しようというお話でした。これも「若いうちにお金を使う」ということですよね。

ちなみに、実際に自分に投資をしようと思ったときに、収入の何割くらいを投資に回してもいいものなんですか?

出口 ひと言で言うと、「なくなっても困らないお金」です。なくなっても困らないお金は、全額投資しても問題ありませんから。

津田 なくなっても困らないお金というと、具体的には?

出口 手取りが20万円として、毎月いくらあったら生活できるかを考えます。だいたい15万くらいあったら生活できるとソロバンを弾いたら、5万円は「なくなっても困らないお金」。その5万円をすべて投資に回せばいいのです。

津田 なるほど。その5万円は、ただ貯蓄するくらいだったら、投資をしたほうがいいと割り切って使えばいいんですね。

出口 飲み代に使っても、人に会うために使ってもいい。英語の勉強をするために語学学校に行くのもいい。自分が「これだ」と思ったものに使えばいいと思います。なぜなら、使うのは「なくなっても困らないお金」ですよね? それに、お金は若いときに使ったほうが密度が高いのですから。

なぜ、親は放っておいたほうがいいのか?

津田 僕はお金の使い方にまったくいい加減で、あらゆる仕事の中で一番嫌いな仕事は請求書を書くことで……。

出口 ああ、わかります(笑)。

津田 請求書を書かないで取りっぱぐれたお金もあった気がするので、本を読みながらちょっとお説教されているような気分にもなったんですけど(笑)。そんな気分で読み進めながら特にびっくりしたのが、「親の介護」についてです。「親のために貯蓄するという考えは持たなくていい。親は放っておいたほうが元気で長生きする」と。

出口 はい。

津田 実はかなり尖った意見ですよね。なかなかここまでさらっと書けないな、と思いました。極論のように見えるけど、理由まで読めば納得できる。とはいえ、下手したら反発されるかもなって思うんです。

出口 極論ではあると思います。でも、根拠がいくつかないわけではありません。まず個人的な体験ですが、僕は三重県の美杉村というところで生まれました。2人兄弟で弟がいますが、両親を置いてふたりとも東京に出てきてしまった。だから友人や親戚からは、親不孝な兄弟だ、どちらかが帰ってきて親の面倒を見なさいと言われています。ですが、おふくろは認知症もなく今96歳で、元気に暮らしています。

津田 へえ! それはすごい。

出口 親父は一昨年に亡くなりましたが、96歳の大往生でした。……これは、出口家が長寿だという話ではありません。あるお医者さんが話していたのですが、たとえば、お嬢さんがご両親に「お父さんお母さん、もう心配しなくていいよ、これからは私が全部面倒をみるから」と言った途端に、認知症が進むという症例もあるらしいのです。

津田 うーん、世話を焼きすぎるとダメになってしまうと。

出口 自分で食事ができて、自分でトイレに行けて、自立した生活を送れることが「健康寿命」です。つまり、元気で楽しく暮らすためには、健康でいなければならないということです。

津田 たしかにそうですね。実は僕も最近、近しい人間が軽い脳梗塞で倒れたんです。なんとか事なきを得たんですが。

出口 ああ、それはよかったですね。

津田 それで、脳梗塞について調べるうちに、うまく言葉が出なくなったり動けなくなったりすることで、家に引きこもりがちになるというケースに当たって。そうなると、やっぱり認知症が急速に進むんだそうです。

出口 ですよね。

津田 「人が自立して生きていく」ということを考えたときに、スパルタではあるんですけど、「見守りつつあまり手は出さない」ということが大事なんだなと腹に落ちました。

出口 そうだと思います。本では北欧の老人ホームの例も挙げましたが、極力自立させるようにして、他人と自力でコミュニケーションをとってもらうのがベストでしょうね。

津田 この本のいいところって読書家、勉強家である出口さんならではのエビデンスに満ちているんですよね。「オレの経験」で終わってなくて、様々な本の叡智がさらっと埋め込まれている。第1講で書かれている統計やデータ、事例はとても参考になりますし、説得的ですよね。ロジカルに説明しているけど押しつけがましくないのも良いところだと思いました。

出口 ありがとうございます。

津田 ちなみに、出口さんって1週間に何冊くらい読まれているんですか

出口 最近は会社が忙しいので、週に3、4冊くらいですね。ライフネット生命をつくる前は比較的自分で時間をやりくりできたので、10冊前後は読んでいました。

津田 10冊!はー、それはすごい。どう時間をやりくりしたら1週間に10冊も読めるんですか?

出口 僕は、寝ることと食べることが一番好きで、その次が読書と旅です。本を読むために、好きじゃないことを断捨離しているのです。テレビもほとんど見ないし、ゴルフも1、2回やってはみたものの、かなりの時間がとられることがわかったのでやらないと決めました。

津田 その断捨離した時間を使って本を読むわけですね。以前、池上彰さんに読書する時間をどうやって確保しているのか聞いたら、出口さんと同じようにテレビは見ないとおっしゃっていました。「テレビは見るものじゃない。出るものだ」と。

会場 (笑)

津田 そんなこと、池上さんしか言えない(笑)。

出口 いつか言ってみたいですねえ(笑)。

津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

※構成/田中裕子 撮影/村上悦子

<第2回「いいとき」が自分の実力じゃない」に続きます>

「これからの日本を支える20代、30代の若者に僕がいちばん読んでほしい本」と語る、著者初のマネー本。

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コメント

zaigasuman2 やっぱり許容範囲内では積極的に使っていくのが大事なんだな 1日前 replyretweetfavorite

nut2sai うん、うん。 3日前 replyretweetfavorite

Dropofkopi 貯金してないな。笑 だって使った方がいろんな経験出来るもん。 - https://t.co/598ebjapIz 3日前 replyretweetfavorite

p_hal 読んでいただいて、本当にありがとうございます。 “@hiramotok: この記事、とても面白いしすごく前向き。/” 3日前 replyretweetfavorite