TPPで強い経済を実現
最終更新日:2015年12月1日
政府は、TPPの大筋合意を受け、農林水産物と食品の輸出額を1兆円にする目標を平成32年から前倒しして達成することを目指すことや、農家の保護策などを盛り込んだ政策大綱を決定しました。
政策大綱ではこのほか、「新輸出大国」を目指し、中堅・中小企業などが海外で事業を成功する割合を60%以上とすることや、高速鉄道などのインフラ輸出を平成32年に30兆円に拡大すること、日本を「貿易・投資の国際中核拠点」にすることを目指し、平成30年度までに少なくとも470件の外国企業の誘致を達成することなどの数値目標を掲げています。
安倍総理大臣は「国民の理解と支持を得てTPPのメリットを最大限生かし強い経済を実現するという結果を出していきたい」と述べました。
農林水産業への対策
政策大綱のうち農林水産業への対策は、生産者の競争力強化とコメや麦など重要5項目の経営安定化が柱となっています。
【生産者の競争力強化】
次世代の担い手の育成に向けて、農業機械や施設の設備投資への支援を強化するほか、耕作されなくなった農地を意欲のある生産者に貸し出して大規模化を図る「農地中間管理機構」、いわゆる「農地バンク」の取り組みを拡充します。
【国際競争力の強化】
「産地パワーアップ事業」と呼ぶ支援策を新たにつくり、収益性の高い作物への切り替えを行う生産者の支援や、新たな国産ブランドの品種の開発を強化することを支援していくとしています。
【畜産・酪農の収益力強化】
農家が新しい設備を導入する際に費用の一部を補助する「畜産クラスター事業」を拡充するほか、地域の食肉処理施設や中小の乳業メーカーの再編を進めるとしています。
【重要5項目の経営安定化】
コメの対策では、アメリカとオーストラリアから合わせて年間7万8400トンの輸入枠を新たに設けることから、輸入が増える分に相当する国産のコメを政府が備蓄用として買い入れることで主食用のコメの価格が下落するのを防ぎます。
現在、国は原則として年間20万トン程度買い入れて5年間保管し、全体で100万トン程度を備蓄しています。これを保管の期間を3年に短縮することで、1年に買い入れるコメを33万トン余りまで増やします。市場からより多くの国産米を買い入れることで市場に余裕をつくり、そこに輸入米を受け入れる余地をつくるというものです。
ただ、この支援策は、毎年、国が買い入れるコメの量が増えることになり、国費として負担する額は今の300億円規模からさらに100億円規模で増えることになります。
大麦と小麦は、国が一括して輸入する国家貿易を行っています。国内業者に販売する際にマークアップと呼ばれる事実上の関税を上乗せしていますが、事実上の関税を段階的に45%削減します。今の制度では、この上乗せ分で得られた資金を元手に国内の農家への所得安定対策を行っていますが、削減によって資金が減ることから、不足分を国の予算で賄うことで今の制度を維持することにしています。
牛肉と豚肉の生産者への支援では、生産者の平均的な収入が生産コストを下回り、全体で赤字経営になった場合にその赤字分の8割を国と生産者でつくる積立金から補填している今の制度を拡充します。毎年度、予算編成にあわせて決められるこの仕組みを法制化して恒久的な措置にするとともに、補填の割合も9割に引き上げます。
乳製品の対策では、飲用向けに比べて単価が安いバターやチーズ向けの生乳に補助金が支給されている今の制度を拡充し、菓子やパンなどに使われる生クリーム向けの生乳などについても需要が高まっていることから、補助金の支給対象に加えることにします。
【農産物の輸出促進】
農産物の輸出を促進するため、生産から加工、販売までを一体的に手がける「6次産業化」を進めるとともに、和食文化や日本食の海外展開を促進します。さらに、「HACCP」と呼ばれる食品の安全や衛生管理の国際基準を満たすため、必要となる設備投資の資金を助成する今の制度を拡充します。
中小企業への対策
政策大綱では「『新輸出大国』を目指す」として、中小企業が海外展開する際の支援策も盛り込んでいます。
国や地方自治体、JETRO=日本貿易振興機構などによる新たな組織をつくり、国内のほかの産業との連携を通じた新商品の開発や、進出した国での現地企業の紹介などの支援を行います。また、この組織では専属のアドバイザーを置いて中小企業からの相談に応じる体制をつくります。
さらに、外国企業の研究開発部門などを日本に誘致し、国内の中小企業などと連携しながら日本の技術開発力を高めることを目指します。