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有機農業について調べたことをまとめました ( 3 ) 有機農業の問題点, まとめ

有機農業について調べる機会がありましたので, ブログでもまとめます. 調べてみた結論としては, 有機農業に対する関心が薄まりました. 残念です.

全 3 回を予定しています. 前回まではコチラ.

また今回は, 日本の有機農業だけを取り上げています.

有機農業の問題点

前回までで, 日本における有機農業の歴史的経緯や理念, そして特徴をまとめました. また, 調べているうちに,有機農業の問題点もみえてきました. 明治大学科学コミュニケーション研究所が開設している web サイト,「疑似科学とされているものの科学性評定サイト」の有機農業の項目でも指摘されている通り, やはり科学的根拠の弱さです ( この web サイトでは, 有機農業は「発展途上の科学」と評されています ). たとえば, 定量的に評価すべきことについて定性的な表現で評価していたり, 農家からの「聞き取り調査」だけで対照実験になどについての報告がないにも関わらず実証されたかのように記述されていたりします.

最も深刻なのは, 疑似科学の疑いがかけられている, EM ( 有用微生物群 ) の利用を推進する記述が少なからず見つかるということです ( 例えば, 中島・金子・西村 2010 ). それだけでなく, EM 商品の販売促進 web サイト で, 日本有機農業学会の理事である中島紀一のインタビュー記事が掲載されていたりします ( 笑・インタビュー記事は 2008 年3月に掲載されたもの. EM に対する批判はすでに 1996 年から始まっている ( 1996年公開シンポジウム 微生物を利用した農業資材の現状と将来 ( pdf ) ). 

www.ecopure.info

もちろん, 疑似科学の疑いがかけられている商品の販売促進 web サイトにインタビュー が載っていることと, 中島の有機農業にたいする考え方の妥当性は, 区別する必要があります. また, 仮に中島が EM の促進に組していたとしても, 有機農業に取り組む者が否定される根拠にはなりません. しかし, 有機農業に疑似科学の疑いがかけられている現状, 有機農業学会の会長のインタビューが EM 商品の販売促進 web サイトに載っているのはマズいんじゃあないんでしょうか.

有機農業の出自が近代的な農業への批難 ( これは場合によっては科学的・分析的な思考への批難でもあります ) であっても, けっきょく, こういった問題を解決するためには, 1 つ 1 つ科学的な手順に従って有機農業を評価していくしかありません.

おわりに

以上, 有機農業について, 主に日本の事例を中心に調べたことを紹介しました. また, 事例から, 生物的防除や循環的自給による低投入型 の農業, 短いフードチェーンによる食の安全といった有機農業の特徴がわかりました. しかし同時に問題となったのは, 科学的根拠の薄弱さでした. もちろん, 世の中のすべての事象を科学的に根拠付けられるわけではありません. しかしだからと言って, 科学的根拠を示すべき場合と, そうでない場合の混同はさけなければならりません. そして何より, 疑似科学を推奨するようなことはあってはなりません. こうした問題を解消していかない限り, 有機農業に対する消極的な評価は改善されないでしょう ( 科学とは何か, といったような科学哲学的な視点は, 今回は主題ではないので立ち入りません ).

最後に, 有機農業側の反論を予想してみましょう. 2 つほど挙げられるのではないでしょうか. つまり,  

( 1 ) 有機農業は, 科学/非科学といった対立とは別の立場をとっている

( 2 ) 無肥料・無農薬で収量を得, 結果的に自然資源への負荷が低減 し, 持続可能な農業を実現できるなら, 科学的根拠はあまり重要ではない

1 つ目について. 有機農業のなかには, 科学的実証のための手順に従って いる報告もあります. また, 科学的実証のための手順に従っていない報告の場合でも, 科学的に 実証されるべき術語 ( 生物多様性, 炭素率など ) を使用していることがあります. つまり, 有機農業が積極的に評価される場合のみ科学的術語を使用していると言えてしまいかねません. このことは科学/非科学といった対立とは別の立場をとっていることと同等ではありません.

2  つ目について. 結果的に自然資源への負荷が低減する農業を実現できるのであれば科学的根拠はあまり重要ではない, という考え方は, もし有機農業が ( 日本有機農業や IFOAM が掲げている ) 理念を実現したいのであれば, 有機農業側から否定されなければなりません. というのも, このような考え方は, 有機農業が対立項として打ち立てている近代農業と同じ思考法だからです. どういうことか. 環境問題が 顕在化する以前の慣行農業は, 結果的に食料を確保できるのであれば, 自然資源への負荷は あまり重要ではありませんでした. 単純化すれば, もし有機農業が科学的根拠を重要視しないのであれば, 有機農業も近代農業も目的達成のために重要ではないことを軽視するという点で, 思考法が共通してしまっていることになります. 有機農業が, その理念をかかげ, 理念にこだわるの であれば, もし「結果的に自然資源への負荷を低減でききる」といったような考え方を もっているのであれば, それは否定しなければなりません.

ざっくばらんに言うと, 今回調べた範囲では, だいたいなんかこう怪しい団体とか怪しい商品を売ってるようなのしか出てこなかった, そうでない有機農家もいるだろう, と信じたいところですが, これ以上調べるほど関心をもてなくなりましたので, ここまで, ってことで.

※ その他 参考文献

  • 日本有機農業学会 編『有機農業』: 21 世紀の課題と可能性 有機農業研究年報 1』( コモンズ, 2001 )

  • 中島紀一『有機農業の技術とは何か―土に学び、実践者とともに (シリーズ地域の再生』( 農文協, 2013 )

  • 中島紀一・金子美登・西村和雄『有機農業の技術と考え方』( コモンズ, 2010 )

  • 熊澤 喜久雄・生井 兵治・杉山 信男 他『基礎講座 有機農業の技術―土づくり・施肥・育種・病害虫対策』( 日本有機農業研究会 2007 )

  • 明峯 哲夫『有機農業・自然農法の技術: 農業生物学者からの提言』( コモンズ, 2015 )

  • 山下一穂『超 かんたん 無農薬有機農業』( 農村報知新聞社, 2004 )