鳥のさえずりと、ヤシの葉が風に揺れてすれる音だけが聞こえる静かな午後だった。突然、「バーーン」と耳をつんざく爆発音が響き渡った。神殿の石柱のあたりで、40~50メートルほどの高さまで白煙が立ち上った。ロシア軍による地雷除去作業だった。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産である古代都市遺跡で知られるシリア中部パルミラ。朝日新聞記者は11、12両日、陸路で入った。3月27日、アサド政権軍が過激派組織「イスラム国」(IS)から同地を奪還して以来、日本メディアで現地入りしたのは初めて。
政権軍関係者によると、ISは、遺跡地区や街中心部の至る所に約3千個の対人・対戦車地雷を埋設して撤退した。記者は地雷除去作業が続く遺跡地区への立ち入りは許可されず、除去が終わった場所でのみ取材を許された。
遺跡地区の入り口に近いロータリーや主要道路では、路面のあちこちに直径約1メートル、深さ60~70センチほどの穴が開いていた。案内役のシリア情報省職員によると、地雷が爆発した跡だという。
パルミラ博物館のカリル・ハリリ館長(55)によると、ISはパルミラ遺跡を象徴するベル神殿の本殿と列柱、バール・シャミン神殿、凱旋(がいせん)門を爆破した。博物館前に展示していた「アラート神殿のライオン像」も倒され、鼻の部分が欠けるなどバラバラになった。2世紀に造られた像は硬質の石灰岩製で、高さ約3メートル、重さ約15トン。ISは像とトラックをワイヤで結び、引き倒したとみられる。
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朝日新聞記者は取材ビザを取得してシリアに入国した。取材で訪れた場所は「イスラム国」(IS)の支配地域ではなく、戦闘の最前線ではない。取材にはシリア情報省職員が同行したが、検閲は受けていない。
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■遺跡「回復し得ない損傷」
過激派組織「イスラム国」(IS)は、昨年5月から10カ月にわたってシリア中部パルミラを支配した。その間、世界遺産を破壊し、住民を恐怖で縛った。破壊された遺跡も住民の心の傷も、回復は容易ではない。
ISはベル神殿や凱旋(がいせん)門などを次々に爆破した。パルミラ博物館のカリル・ハリリ館長(55)によると、これらがあった場所は石の山となっており、「回復し得ない損傷を受けた」。ただ、他の主な遺跡は比較的良好な状態を保っているという。
博物館内にあった神像なども軒並み倒され、現在、専門家チームが損傷の程度を調べている。
ISはイスラム教の極端な解釈に基づき、イスラム教が禁じる偶像崇拝につながるとして、シリアとイラクの支配地域で歴史的建築物や石像の破壊を繰り返してきた。
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朝日新聞国際報道部
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