Hatena::ブログ(Diary)

1年で365本ひたすら映画を観まくる日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

※最新の日記はこちらで更新中です → 『ひたすら映画を観まくる日記アルティメット・エディション』

※作品別の感想はこちらからどうぞ → 「洋画」「邦画」「アニメ」「その他」

※オススメ人気記事はこちら ↓

もう辞めさせてくれッ!『かぐや姫の物語』はこんなに凄まじい現場で作られていた

「映画化不可能」と言われている小説は本当に不可能なのか?

『となりのトトロ』には恐ろしい秘密が隠されていた?都市伝説の謎に迫る!

『ターミネーター2』をもっと楽しく観るための制作裏話

ネタバレ解説!『アナと雪の女王』に関する7つの疑問を検証してみた

『ルパン三世 カリオストロの城』デジタルリマスター版について


その他、名言や名セリフ、ラストシーンの解説など、様々な映画をレビュー・評価しています。

2016-04-12 日本映画のレベルが低くなったのはテレビ局のせい? このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

f:id:type-r:20160412232136j:image

最近とある外国人日本映画のレベルは本当に低い!」という発言話題になっているらしい。英国の映画製作・配給会社の代表を務めているアダム・トレルさんによると、「以前はアジア映画の中で日本の評価が一番高かったけど、今では韓国、中国、台湾やタイなどにお株を奪われて、日本映画はレベルがどんどん下がっている。ちょっとやばいよ」とのこと。

さらに、昨年公開された実写版進撃の巨人』を取り上げ、「日本映画の大作、例えば『進撃の巨人』はアメリカのテレビドラマっぽくて凄くレベルが低い。何でみんな恥ずかしくないの?」などと屈辱的な発言を連発し、日本映画を徹底的に批判したのである。


「レベルが本当に低い!」 英国配給会社代表、日本映画に苦言


この意見に対し、日本の映画関係者から反論があった。ツイッター投稿されたコメントを読むと「”今の日本映画はつまらない”とか言う人間は、予算の無い現場スタッフがどれほど頑張っているか、その苦労を知ってんのか!?」などと、かなり激怒しているらしい。

ところが、この反論を見たネットユーザーから、「現場の苦労と作品の良し悪しは関係ない」「感想や批判から逃げてるだけだろ」などの意見が相次ぎ、「日本映画側を擁護」どころか、逆に炎上する騒ぎとなってしまった。


邦画関係者「邦画をクソというな!頑張ってるんだぞ!」という意見がまさかの大炎上


世間の動向を見てみると、アダム・トレルさんの「今の日本映画はレベルが低い」という発言に対して、「そんなことはない!」との意見がある一方、「悔しいけどそれが現実」「認めざるを得ない」と考えている人も少なくないようで、かなりの議論が交わされているようだ。

僕個人の意見としては、実写映画版『進撃の巨人』を目の前に突き付けられて「恥ずかしくないの?」と問われれば、「とても恥ずかしいです…」としか言いようがないんだけど(笑)、まあそれはそれとして「昔の映画に比べてレベルが下がってる」という説には異論が無くはない。

ただ、日本映画のレベルが下がった理由として、アダムさんは「予算不足」、「製作委員会方式の弊害」、「映画評論家が作品をきちんと批判していない」などの問題点を指摘していて、「なるほど、それは確かにもっともだな」と思える部分も多い。さらに、僕はそれらの理由に加えテレビ局責任もあるんじゃないかなあと感じたので、以下に詳しく書いてみる。


●映画とテレビ局の関係

まず、日本国内の歴代興行収入ランキングで「アニメを除いた実写邦画作品」を見てみると、1位は174億円を稼いだ『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』、2位は110億円の『南極物語』、3位は101億円の『踊る大捜査線 THE MOVIE』となっており、トップ3が全てフジテレビの製作となっている。

さらに、4位以下は『子猫物語』(フジテレビ)、『ROOKIES 卒業』(TBS)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS)、『HERO』(フジテレビ)、『THE LAST MESSAGE 海猿』(TBS)、『花より男子ファイナル』(TBS)という具合に、実写日本映画の歴代上位はほぼテレビ局の映画で占められていることがわかる(興行の順位では宮崎アニメ圧勝だけど)。


●映画製作のきっかけはフジテレビ

では、テレビ局が映画を作るようになったのはいつからだろう?と思って調べてみたら、1969年に公開された『御用金』という時代劇最初らしい。監督五社英雄、出演は仲代達矢丹波哲郎司葉子浅丘ルリ子田中邦衛夏八木勲西村晃東野英治郎など、豪華なスタッフが集結し、国内外で大評判になったという。

この映画を作ったフジテレビは、テレビ局として史上初となる劇場用映画製作への進出を果たし、以降の日本映画界を牽引していくことになる。その大きな転換点が、1983年に公開された『南極物語』だ。

南極物語 Blu-ray
ポニーキャニオン (2013-07-26)

南極大陸に取り残された兄弟犬タロとジロが、1年後に越冬隊員と再会する」という実話をベース創作されたこの映画は、国内で1200万人の観客を動員し、当時の日本映画の歴代映画興行成績(配給収入)1位を記録するなど、史上空前の大ヒットを叩き出した。

この大ヒットの要因は、フジテレビがメディア底力をフル活用した「大規模な宣伝効果」のおかげである。フジサンケイグループの総力を結集した大々的なキャンペーンが連日のように繰り広げられ、『笑っていいとも!』を始めとしたあらゆるテレビ番組にもタロとジロが出演しまくり、視聴者から「電波私物化だ!」とクレームが来るほどだったという。


●テレビ局の快進撃

『南極物語』の大ヒットによって「映画ビジネス」のコツを掴んだフジテレビは、『ビルマの竪琴』や『私をスキーに連れてって』など、次々とヒット作を連発する。そして、第二の転換点が1998年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE』だ。

この映画は劇場オリジナル作品ではなく、テレビで放映されていたドラマシリーズ映画化したもので、「テレビ番組の映画化なんて当たるはずがない」という当時の常識を覆し、とてつもない大ヒットを記録した。これに驚いたのが他局のテレビ関係者である。「うちもやらねば!」と続々と映画に乗り出し、以降、テレビ局各社による新たな映画製作の動きが加速していったのである。

さらに、2003年には『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が公開され、174億円という凄まじい興行成績を樹立!この大記録はいまだに破られておらず、現在もなお邦画実写作品の歴代1位に君臨し続けている。

これをきっかけとして、「テレビ局が映画界をリードする流れ」が本格的に始まった。日本テレビは『ALWAYS 三丁目の夕日』、『デスノート』、『20世紀少年』など、TBSは『世界の中心で、愛をさけぶ』、『いま、会いに行きます』、『日本沈没』など、テレビ朝日は『トリック劇場版』、『相棒 劇場版』、『男たちの大和/YAMATO』など。

各テレビ局が映画を作り、それを自社のメディアで宣伝し、多くの観客を呼び込んで大ヒット、という図式が定着していったのである。それは、これまでの「洋画が邦画よりも強い」という力関係が逆転し、完全に「邦高洋低」の時代へ突入したことを意味していた。


●テレビ局が作る映画の問題点

これだけを見てみると、「別に悪いことじゃないじゃん」って感じかもしれない。確かに、自国コンテンツがヒットするのはいいことだし、業界全体が活気づくのも歓迎すべきことではある。しかし、実はいくつかの問題が潜んでいるのだ。

そのうちの一つが、冒頭で取り上げた「外国人の目から見るとレベルが下がっているように見える問題」だろう。こういう風に見える原因は、日本のテレビ局が作っている映画の多くが、日本人にしか分からない、あるいは日本人だけが楽しめる内容に特化しているからだと思われる。

では、なぜそんな内容になってしまうのか?テレビ局が製作する映画にヒット作が多いのは、宣伝の力も当然あるが、それだけではない。テレビ局のスタッフは、常に高い視聴率を取ることをビジネスモデル的に背負わされている。

そのため、どんな映像がウケてどんなストーリーがヒットするか、今の日本人に最適なコンテンツを日々リサーチし続けている。つまり、ヒット作を生み出すノウハウを知り尽くしているわけで、そのテレビ局的なノウハウが今の日本映画に投入されているのだ。

しかし、こういう手法で作られた映画は当然ながら海外の観客にはウケないし、面白いと思ってもらえない。日本人の琴線に触れる要素のみで構成されているため、日本の観客に対して強くアピールできる反面、海外の観客は興味を示さないし、それどころか「バイヤーに作品を買ってもらえない」という状況にすら陥っているのだ。

このような現象は、黒澤明小津安二郎の時代にはあり得なかったことである。それ故に最近の邦画を観た外国人は「今の日本映画は…」みたいな感想になってしまうのだろう。


●映画とテレビの違いとは?

また、日本のテレビ番組は「主婦家事をしながら見ていても内容が理解できるぐらい、分かりやすくなければならない」という不文律があり、映画を作る際にも「出来るだけ分かりやすく」という方法論に則っているらしい。

それ自体は悪いことじゃないんだけど、日本の映画を観ていると、登場人物自分の心情や起きている状況を「全てセリフで説明する」という、不自然描写が堂々と出て来てウンザリすることが多々あるのだ。正直、これは非常にツラい。

私見だが、映画とは「観客に何かを考えさせるメディア」だと思う。例え意味の分かりにくいシーンがあったとしても、観賞後に皆で色々なことを話し合ったり、一生懸命考えることによって、いつまでも心に残るものだし、心に残っている限り、その映画は観た人にとって”価値がある”ということなのだ。

一方、テレビは不特定多数の視聴者に等しく情報提供するメディア」であるが故に、どうしても「分かりやすさ優先」になってしまう。そしてテレビ局が作った映画にもその手法が適用され、誰が観ても良く分かる内容になりやすい。でも、そういう映画って「楽しいけどすぐに忘れてしまう」パターンが多いような気がするんだよねえ。

もちろん、作品によって傾向が異なるので、「どちらが面白いか」なんてことは一概には言えない。テレビ局が作った映画にも、面白い作品はたくさんあるだろう。ただ、映画とテレビの大きな違いは、まさにそういう部分だと僕は思う。そして、だからこそ映画は面白いのだと思う。