16/188
第16話 新スキル開発
風呂でさっぱりした後、打ち上げの料理を皆で手分けして作る。
メインディッシュは言うまでもなく【ミニクラーケンの身】だ。
生のまま食べても頬が落ちるほど上手かったのだ。調理をしたら多少変わるとは思っていたが、実際には予想を遥かに超えていた。
刺身に、サラダ、炒めもの。素人の僕の考えられる調理法は全て試したが何れも絶品。
厨房には酒があったが、アリスと僕が未成年であることから各種ジュースで代用した。
しかし3人分の食料ともなると減るのが思いのほか早い。2か月分買いためておいた食料が1か月もつか怪しくなってきた。
確かに楠家の家督の売却、父さんの生命保険を合わせて1億円は貯金としてあるがそれは僕と沙耶の学費と生活費も含まれている。特に沙耶は医者になるのが将来の夢なのだ。
金は本来1円たりとも使いたくはない。
とすれば僕が取れる選択肢は次の2つしかない。
地球で金を稼ぐこと。HP回復薬は一般マーケットへの自由販売が許可されている。このHP回復薬は魔術師の間でさえも不足気味なのだ。売れば初級でも1瓶最低5~6万円で売れる。
特に上級ランクともなれば傷の修復どころか手足を根元から再生させたり、交通事故で内臓が破裂している者を全開することさえもできる。オークションにだせば1瓶、数百万、下手をすれば1000万円に届く事さえあるかもしれない。
だがこの方法を今は取れない。
僕は商売については素人だ。仮に売却すれば僕のことが魔術審議会にばれる。彼らが捜査に乗り出せば、この屋敷の遺跡の存在などいとも簡単に発見されることだろう。
遺跡等を発見した場合その所有権は土地の所有者にある。つまり僕に権利があるのは間違いない。だが同時に遺跡の報告義務は怠っているのだ。
ここで魔術審議会は魔術師の秘密主義を思い図って魔術界の根幹を揺るがすような発見をした場合にのみその報告を義務付けている。
この遺跡に使われている技術は異空間形成、時間停止、帰来転移など今の現代魔術では再現不可能とされてきた技術。さらに今まで確認されていなかった第六の異世界の存在とその往来の方法だ。
どう考えても僕はこの報告義務を怠っている。この報告義務を怠った場合それなりのペナルティーがある。最悪この遺跡を没収されるかもしれない。
とどのつまり僕はこの異世界の存在を当面知られるわけにはいかないのだ。
だが絶対に売れないと決まったわけではない。次のような工夫をすれば可能ではある。
まず、会社を立ち上げそれなりの業績を上げて信用を得る。その上で《半月草》の栽培の方法を編み出したなどと言えば、魔術審議会も特許の関係上おいそれと介入はしてこないはず。
当然、それなりの実演の必要があるが《錬金工術》で不完全な栽培装置を造り出せば、それなりの信用は得られるだろう。
もっとも、この方法には経営のノウハウを持つ人間と信頼できる多数の社員が必要だ。ステラとアリスしか仲間がいない僕にはこの方法を今は取れないのだ。
信頼できる仲間の存在の重要性はステラとアリスがギルドメンバーに入って心底痛感した。日常が潤う等の精神的な面はもちろんだが、一人仲間がいるだけで僕のやることが半減する。
異世界だけでなく地球においても信頼すべき仲間を見つける必要ある。
この際、ステラ達に話して意見を求めるべきかもしれない。
兎も角、当面は次の方法を取らざるを得ない。
地球では調味料等の必要最低限のもののみを買い込み、ステラの世界――アリウスの食材を利用する。
元々、アリウスの料理が不味いのは調理施設と調味料の有無による。決して食材が悪いわけではないのだ。この事実はこの度の【ミニクラーケン】の食材により証明されたと言ってよい。
またアリウスならば金は比較的多く手に入れやすい。土地を買い地球で買い付けた植物の苗や種を栽培するのもいいかもしれない。
これはステラと要相談だ。
食卓を囲み第4の試練のお疲れ会を行う。と言っても単に食事が豪勢になったに過ぎず、変わり映えなどないはずなのに、二人は殊の外嬉しそうだった。
食後に僕特製のケーキを造り二人にふるまう。一口食べたアリスはキャッキャと嬉しがり飛び跳ねる。いつもは注意するステラも今日は無礼講とみなしたのか微笑を浮かべるだけで咎めはしなかった。
「お父さん、お母さん、それにリーにも食べさせてあげたい」
リーとはステラの幼馴染で友達以上恋人未満のエルフの男の子らしい。ステラと会った初日このリーについてののろけ話になりそうになり、僕が強制的に話を切った記憶がある。
何度もリーからはアプローチされ気持ちが徐々に傾いて来た矢先に帝国軍に攻め込まれ、今に至るらしい。
「君らは帝国からお父さんやお母さん、幼馴染達を助けるんだろ?
助けたら君の手で作ってあげればいいさ」
「はい!」
涙声で元気良く頷くステラ。
そんなステラにアリスが無言で抱き付き、その豊満な胸に顔を埋めた。アリスも遠い故郷の生活を回顧しているのかもしれない。
僕は若干湿っぽくなった場を精一杯盛り上げてその日の打ち上げをお開きにする。
後片付けをして食器を洗い、席に着き明日の簡単なミーティングを行う。
明日は午前9時にグラムの冒険者組合で紅石の換金と《半月草》の採取の依頼をする。僕はこの世界の金銭感覚に疎い。冒険者組合との交渉は全てステラに任せることにした。
アリウスの食材の利用の件はステラが乗り気で明日の換金代金いかんによっては食材の確保も考えることになった。
ただ地球の種や苗をアリウスで栽培することについては時期尚早で意見の一致を見た。この計画には栽培を行う人材の確保や盗み等の防犯対策が必至の事項ではあるが、それは迷宮攻略により資金と名声を獲得してからの方がより効率的であるからだ。
また通常ギルドは固有のギルドハウスを持つのが通常だ。いつまでもギルドハウスを宿屋の一室とするのは体裁が悪い。それにグラムの土地に《妖精の森》のギルドハウスが存在した方が僕らも活動はしやすい。
僕の提案にステラとアリスも乗っかり、明日グラムの街に出る際に探すことになった。
最後に意を決し僕らが今いる世界がステラ達の住む世界アリウスとは異なる世界だと説明した。
まだ数日関わったにすぎないがステラ達は信用に値する。それに僕がしようとしていることにはステラ達の協力が不可欠なのだ。
ステラとアリスの両者とも驚くほどすんなりその事実を受け入れた。アリスなど何をいまさらという顔をしていたくらいだ。【究極の指輪】の翻訳能力でテレビの内容が理解できるようになったからだろう。
問題はステラ達が日本で適法に生活するための資格の獲得。
この地球にはステラ達の情報はどこにもない。そんな幽霊のような存在は魔道科学が発展した現代地球ではまずあり得ない。ステラ達の存在から魔術審議会が異世界の存在に辿りつく可能性も零ではない。
今のままではステラ達は外に出ることが出来ない。対策を考える必要があろう。
最後に今日最大の成果。即ち、第四の試練で獲得した宝物――【黒魔術奥義書】の使用。
ステラが【黒魔術奥義書】に右手の掌を触れ《発動》と唱えると本は煙のように小さな粒子状まで分解する。黒魔術の才能を獲得したようだ。
その後二人から髪の毛を1本ずつもらいミーティングを終了する。
二人の髪の毛を摂取した後、自室へ戻りLV6のスキルの把握、抽出、新たなスキルの開発を行う。
時間があれば魔術の修練所とステラ達が日本で適法に生活するための資格獲得方法についても考えることにする。
確かめたいこともある。一度自身を解析しよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ステータス
【楠恭弥】
★レベル:35
★能力値:HP2400/2400 MP2600/2600 筋力801 耐久力802 俊敏性806 器用804 魔力810 魔力耐性807
★スキル:《進化LV6(――)》、《眷属軍化LV4(42134/50000)》、《爆炎剣術LV6(――)》、《爆炎糸LV6(――)》、《奈落蜘蛛召喚LV6(――)》、《皮膚鋼鉄LV6(――)》、《《墨幕LV1《0/50》、《加護LV6(――)》、《接続LV6(――)》、《剣術LV6(――)》、《空破斬LV6(――)》、《二刀剣術LV6(――)》
★魔術:《創造魔術》、《錬金工術》、《呪術》、《魔道工学術》、《錬金術》、《黒魔術》
★EXP:15328/17000
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
予想通りだ。
《創造魔術》の文言は、あくまで他者からの魔術・スキルの情報の摂取。ならば、其の者のスキルLVでの取得でなければおかしい。
魔物達のステータス欄にスキルのLVが存在しないのは、そもそも魔物達が扱う場合、スキルLVの概念自体が存在しないせいだと思われる。
それでは個別のスキルを見ていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【眷属軍化】
★説明:眷属は主の指定する魔術・スキルの4つを使用可能。主人を介して眷属同士にネットワークを形成し、情報・取得経験値・取得スキルポイントを共有する。ただし取得経験値・取得スキルポイントの共有は一定範囲の距離にいる者に限られる。
・《眷属化》:他者に印を刻み眷属化する。眷属は個々に自由意思を持ち主人の命に一切強制はされない。ただし、眷属の主人に対する攻撃防止措置と命令遵守の効果を付けることは可能。
・《眷属離脱》:眷属化した者から印を取り、眷属の地位を消失させる。
・《情報伝達》:主と各眷属、眷属同士に情報伝達が可能。
・《主人・眷属召喚》:主人は眷属を、眷属は主人と他の眷属を呼び寄せることができる。
★LV4:(42134/50000)
★ランク:混沌
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今まではステラ達の認識した事実が僕に思考として流れてくるにすぎなかったが《情報伝達》により彼女達とコミュニケーションできるようになった。
要は情報の伝達が一方的な伝達である《メール》のような機能なら、この《情報伝達》は相互にやり取りが可能な《電話》のような機能だ
さらに《主人・眷属召喚》により相互に移動可能となった。これで一人さえ訪れれば全員が転移可能となったと解してよい。
これにより単独戦闘を強いられることはなくなった。この意義は極めて大きい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【爆炎剣術】
★説明: 切りつけたものを爆発し、炎滅する剣術の神級。視認した対象に距離を無視して切るつける事が可能。
・《剣の極意》:新たな剣技を編み出す確率が著しく増加し、視認した他者の剣技を自身のものとすることができる。さらに自身の持つ剣技を他者に伝授することが可能。
・《次元斬》: 次元を捻じ曲げ視認した複数の目標を攻撃する。
・《絶斬》:切口の大きさを調節可能。
★LV6:(――)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
至高のLV6だけある。
《絶斬》。アリスが7メートルものミニクラーケンを小さな刀で切ったのもこの切口の大きさを可変可能という能力故だろう。
《次元斬》は次元を捻じ曲げ一振りで視認した者全てを攻撃する能力。
両方とも反則的な能力だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【爆炎糸】
★説明:視認した一定の範囲に糸を出現させ自在に分裂・伸長・操作する。また糸の硬度は自由に操作でき、糸に爆発と、燃焼の効果を選択的に付与しえる。
・《自動操作》:糸に漠然的な内容を指示し、自働操作する。
・《糸造形》:多数の糸を自身の好きな形に造形し、自働操作する。
・《糸受信》:糸から知覚情報を摂取する。
★LV6:(――)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
例えば《糸造形》で鳥を造形し、《自動操作》で敵アジトへの潜入の命令を与える。《糸受信》でその鳥の知覚情報が僕に入る。
こんな能力。この【爆炎糸】は使いやすさだけ見たらダントツだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【奈落蜘蛛召喚】
★説明:爆炎を司る蜘蛛の精霊を召喚する。
・《レベル85蜘蛛精霊召喚》: レベル85の蜘蛛の精霊を召喚する。
・《蜘蛛支配》:蜘蛛に召喚者とその指定する者に対する攻撃防止措置と命令遵守の効果を付することができる。
★LV6:(――)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《蜘蛛支配》があれば召喚者の僕やその仲間に攻撃を向けられる事はない。グラムの屋敷の護衛等には使えるかも知れない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【加護】
★説明:庇護者は発動者の魔術・スキルを6つだけ使用可能となる。ただし加護を与える事ができるのは1人だけであり、庇護者の魔術・スキルの使用中、加護者は使用できなくなる。
・《スキル進化の加護》:庇護者のLV6の所持スキルを一段階進化させることが可能。
★LV6:(――)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《スキル進化の加護》は抽出すればステラとアリスの能力向上に使える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【接続】
★説明:6人を接続し情報・取得経験値・取得スキルポイントを共有する。
・《 HP回復接続》:一人が回復すると接続者のHPも回復する。
・《 MP回復接続》:一人が回復すると接続者のMPも回復する。
・《能力向上接続》:一人が能力向上すると接続者の能力も向上する。
★LV6:(――)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一人が回復すれば他のHPとMPも回復する。使えるスキルだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【二刀剣術】
★説明:両手で刀剣を扱う剣術の神級。
・《二刀閃》:二刀剣術の新たな剣技を編み出す確率が増す。
・《二刀進化》:自己の持つ剣技を二刀剣術の剣技に一定の確率で進化させる。
・《二刀伝術》:自身の持つ二刀剣術の剣技を他者に伝授することが可能。
★LV6:(――)
★ランク:固有
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今僕が持つスキルで把握が未了だったのはこれで全部。
魔術には《黒魔術》があるが、魔術は暇なときに解析した程度で把握できるような甘いものではない。今後じっくりとした検証をする必要がある。
混沌にするとステラ達が使用できなくなる。《進化》は抽出すべきではないだろう。LVが6ではない《墨幕》と《眷属軍化》も今抽出しては効率が悪すぎる。
それ以外の全てのスキルを一度抽出しよう。
《進化》、《墨幕》、《眷属軍化》以外の僕の所持スキルすべてを思い描き《抽出》と念じる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【成分】
・【加護】:庇護者は発動者の魔術・スキルを1つだけ使用可能となる。ただし加護を与える事ができるのは1人だけであり、庇護者の魔術・スキルの使用中、加護者は使用できなくなる。
・【接続】:複数人を接続し情報・取得経験値・取得スキルポイントを共有する。
・【剣術】:刀剣による敵を倒す術。
・【剣術】:剣術神級。
・【召喚術】:召喚に関する術。
・【精霊】:精霊。
・【蜘蛛】:蜘蛛。
・【糸】:糸を形成する。
・【可変】:意思で自由に形態を変え動かすことが可能。
・【変硬】:硬さを自由に変更可能。
・【爆発】:対象を爆発する。
・【燃焼】:対象を燃焼する。
・【視認制御】:視認した一定の範囲に効果を及ぼす。
・【爆炎剣術神級】:爆炎剣術の神級。
・【極意】:新たな技を編み出す確率が著しく増加し、視認した他者の技を自身のものとすることができる。さらに自身の持つ技を他者に伝授することが可能。
・【次元操作】: 次元を捻じ曲げる。
・【切断面調節】:切断面の大きさを調節可能。
・【自動操作】:漠然的な内容を指示し、自動的操作する。
・【造形形成】:自身の好きな形に造形する。
・【受信】:他の者の有する知覚情報を受信する。
・【レベル85以下召喚】: レベル85以下の存在を召喚する。
・【召喚支配】:召喚者とその指定する者に対し攻撃防止措置と命令遵守の効果を付与する。
・【両手持】:武器の両手持ち。
・【二刀剣術神級】:二刀剣術の神級。
・【スキル進化の加護】:庇護者のLV6の所持スキルを一段階進化させることが可能。
・【 HP回復接続】:一人が回復すると接続者のHPも回復する。
・【 MP回復接続】:一人が回復すると接続者のMPも回復する。
・【能力向上接続】:一人が能力向上すると接続者の能力も向上する。
・【皮膚鋼鉄】:皮膚を鋼鉄にし自己の耐久力、魔力耐性を向上する。
・【鋼鉄授与】:対象に対し皮膚を一定時間鋼鉄にし耐久力、魔力耐性を向上する。
・【一般魔術無効】:一般による魔術を無効化する。
・【空月刃】:三日月状の真空破を発生し遠方の敵を倒す。
・【追跡】:視認した相手を自動追跡する。
・【空月乱舞】:無数の三日月状の真空破を発生し敵を倒す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これが抽出した全てだ。やはり一度に抽出し融合させた方が効率が断然いい。
融合の方針は、《数は少ないが強力無比》。これでいこう!
真っ先に作るのが、僕専用の混沌の攻撃特化スキル、防御特化スキル、召喚スキル。
最初は攻撃特化スキル。取り敢えず攻撃の成分を全部くつけてみる。融合できなければ取り外していけばいいだけだ。
【糸】、【可変】、【変硬】、【爆発】、【燃焼】、【次元操作】、【切断面調節】、【視認制御】、【追跡】、【極意】、【両手持】、【二刀剣術神級】、【爆炎剣術神級】、【剣術】、【空月刃】、【追跡】、【空月乱舞】。
猛烈に嫌な予感がするので兄さんが残してくれた数少ない上級のHP回復薬を数十個ほど机におき、そのうち1個を口に含んでおく。
《融合スキル》と念じる。いつものように、身体の芯が急速に熱くなる。
だがその発火は留まるところを知らず、僕の身体を内部から燃やしていく。神経に幾多の五寸釘を刺したかのような、気が狂うほどの激痛が僕を襲う。心臓の音が暴走し、視界が灼熱に染め上げられる。
慌てて口に含んでいるHP回復薬を飲み込むと少し和らぐがすぐに復活する。震える手で他の上級HP回復薬を飲み込むことを続ける。
それを僕はひたすら繰り返した。
………………。
…………。
……。
いつの間にか、床に仰向けにぶっ倒れていた。指をピクリと動かし、足もゆっくりと動かす。どうやら壊死はしてはいないようだ。
ノロノロと上半身を起こして全身を確認する。少し気怠いが外傷や動かない箇所はないようだ。
地面には数十個の上級HP回復薬の空瓶が転がっていた。その光景を見て僕の背筋に冷たいものが走る。
危なかった。上級HP回復薬をしこたま飲んでもこれだ。仮に飲んでなかったら…………考えるのは止めよう。
《終焉剣武》がスキルの項目に増えていた。
解析を開始する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【終焉剣武】
★説明: すべての剣術の終であり、いかなる剣術にも通じた究極の形態。その初級。技伝授、技閃き、技視認取得の力を有する。
大気中にある魔力から無数の刀剣を創造し操作することができる。随時、刀剣の形態、大きさ、基本性能は発動者の意思によって自在に変化可能である。
・《終の型Ⅰ》:刀剣を持てば二刀流であり、刀剣を振るえば爆炎を纏う真空破、視認複数目標攻撃、切断面調節、追跡等の特殊効果を付する事ができる。
★LV1:(0/10000)
★ランク:虚無
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣を造り出すスキルだが剣術系スキルでもあるらしい。
この【終焉剣武】のように剣を造り出し操る能力は極めて強力だが、《青魔術》では定番であり、さほど珍しいものではない。僕が読む漫画や小説でもこの手のスキルは頻繁に出てくるし……。
こればかりは実際に発動してみないと能力の把握は不可能だ。そこで迷宮40階層へ転移し簡単な実験をした。
【終焉剣武】の発動は簡単だった。刀剣の数、形態、大きさ、硬さや切れ味をイメージすると、空中に刀剣が生じ、浮き上がる。
小さな剣を造り、それを大きくし楯状にする。
さらに、その刀剣を分裂し、細かな刀剣として空中を舞わせ、その一つ、一つを再び大きくし大剣とする。まさに文字通り自在だ。
飛び交う大剣に高圧縮された灼熱の炎の塊と、石や金属さえ切り裂く鎌鼬を纏わりつかせることが出来ることを確認し実験は終了した。
それにしても虚無って何だろう? 解析は何度か試みたが全て失敗してしまった。
どう考えても《爆炎剣術》と同等とは思えない。素直に考えれば混沌の上のランクとして表示されていた□□の事だろう。今はそう理解しておくしかない。
再び自室へ転移する。
防御系スキルを作成する。これについて僕は大した成分を持っていない。あまり期待はしないでおく。
【可変】、【変硬】、【次元操作】、【皮膚鋼鉄】、【鋼鉄授与】、【一般魔術無効】を《融合スキル》する。この身体の芯の燃えるような熱さ。この感触は至高だ。
即座に解析をする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【鉄壁の鎧】
★説明:発動者より低レベルの者の物理的攻撃・魔術的攻撃の一切を無効化する。
★LV1:(0/100)
★ランク:至高
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《鉄壁の鎧》ね。僕より低レベル者の攻撃の一切を無効化するスキル。全か無のかの法則ってやつだ。
LV1の段階では使えるスキルか否かは不明だ。でもまあこんなものだろう。
お次が召喚術。
【レベル85以下召喚】、【召喚支配】、【召喚術】、【精霊】、【次元操作】、【爆発】、【燃焼】、【空月乱舞】、【視認制御】、【爆炎剣術神級】。
出来上がるのは多分混沌だ。万が一に備えて中級のHP回復薬を口に含んでおく。
《融合スキル》するが融合しない。
そこで【爆炎剣術神級】を取り除き再び、《融合スキル》すると、すぐに意識を失うほどの熱が僕の身体を蹂躙する。HP回復薬を数個胃の中に流し込むと、意識を失わなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【次元精霊召喚】
★説明:次元を司る精霊を召喚する。
・《レベル90次元精霊召喚》: レベル90の次元の精霊を召喚する。
・《次元精霊支配》:次元精霊に召喚者とその指定する者に対する攻撃防止措置と命令遵守の効果を付することができる。
★LV1:(0/1000)
★ランク:混沌
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次元精霊というのがよくわからない。
取り敢えず《次元精霊支配》を発動し、僕とステラ、アリスに対する攻撃防御措置と命令尊守の効果を付与し4柱ほど出してみることにする。
スキルを発動させると地面に漆黒の魔法陣が4個出現しクルクルと回転する。魔方陣は回転しながらも空中へ浮かび上がり、170センチほどの黒装束の者達を形成していく。
4柱の黒装束は僕に跪き、その命令を待つ。
黒装束たちを解析する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ステータス
【次元精霊】
★レベル:90
★能力値:HP21000/21000 MP21000/21000 筋力7400 耐久力7400 俊敏性7400 器用7400 魔力7400 魔力耐性7400
★魔術:《次元魔術》
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
レベル90……ね。混沌の能力がどれほど化け物じみているかようやく実感できた。こんなのポンポン呼び出されたらマジでたまらないよ。
でもこの屋敷の警護にはもってこいかもしれない。
「君らこの召喚は何時切れるの?」
召喚魔術は半年で効果が切れるのが原則だ。だがこれは召喚スキル。同等の効果とは思えない。
黒装束の1柱が代表で一歩前に出ると右腕を胸にあて一礼する。
「約1年ほどでございます」
やはり召喚魔術の倍近く人間界に存在する事が出来るようだ。これは使える。
「じゃあこの屋敷の警護をお願いするよ。この屋敷に近づく者がいたら僕に知らせて。
僕がいない場合に、この屋敷内に不法侵入しようとする者がいたら、気絶させて森の入り口にでも寝かせておいて。絶対に傷はつけないでね」
「「「「御意!」」」」
4柱の精霊達は恭しく右手を胸にあて一礼するとス~と姿を闇に溶け込ませる。
試に呼んでみると瞬時に姿を現す。いるか否かの確認のために呼びましたと説明するのも体裁が悪い。この際だから、《次元魔術》のラーニングのため髪の毛を貰えないかと頼むと躊躇いなく僕に髪の毛を手渡し再び姿を消す。
髪の毛を摂取し、《次元魔術》を獲得する。
最後がアリスの剣術スキル。これは至高でなくては《眷属軍化》で使用できない。
つまり混沌になったらやり直しになるということだ。混沌は気を抜けば意識を失うほどの負担なのだ。これでは僕の身体がもたない。
そこで《融合スキル》のコントローラーのようなものが作れないかを模索することにする。
【糸】、【可変】、【自動操作】、【造形形成】、【受信】、【接続】、【加護】、【スキル進化の加護】、【 HP回復接続】、【MP回復接続】、【能力向上接続】、【次元操作】を《融合スキル》するが、今度もHP回復薬を飲んだにも関わらず、抵抗することすら許されず意識はストンと失った。
蝉の騒々しい声で目が覚めると周囲はすっかり明るくなっていた。身体を起こして頭を数回振ると昨日の出来事がイメージとして鮮明に浮かんでくる。
(そっか、僕は《融合スキル》して気絶したのか……これ何度目だろう? 僕もマジでこりないね)
腕時計を見ると午前7時。完璧に寝坊だ。
今日は冒険者組合に行かなければならない。さらに土地とギルドハウスも購入しなければならないのだ。ボーとしている暇はない。昨日の融合したスキルを解析し、リビングへ移動しよう。
解析をすると、《思金神》がスキル欄に増えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【思金神】
★説明:五感も認識しえる高性能な人工知能。
スキル所持者と眷属の魔術・スキルの管理、眷属の所持スキルの進化、スキル所持者・眷属のHP・MPの回復等を最適なタイミング・最適な方法で行う。
・《偵察》:糸を飛ばし周囲を探知、情報を取得し自己分析する。
・《造形》:糸でかりそめの肉体を造り出す。
★LV1:(0/1000)
★ランク:混沌
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
仮にも混沌。間違いなく出鱈目なスキル。
同じスキルでありながらスキル所持者と眷属の魔術・スキルの管理をしてくれるらしい。
試しにアリスに最適な剣術スキルを開発し、《眷属軍化》でセットするように命じる。
《APPROVAL(了承)》と僕の頭の中に男性の声が響く。
ついでに魔術の修練所とステラ達の日本の滞在資格の取得についても考えておくように命じ、リビングへと直行した。
お読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。