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虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌 作者:力水

第1章 異世界武者修行編

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第15話 第四の試練

 2082年8月3日 夏休み終了まで残り30日。

 朝起きたら昨日の怠さが嘘のようにスッキリしていた。この数日4~5時間しか睡眠をとっていなかった。よほど疲れていたのだと思われる。

 朝食を食べたあと、簡単なミーティングをする。内容は以下の4点。
 第一、魔術の実技を行うための演習所の設置の件。
 いくら理論を学んでも実際に魔術の発動の訓練をしないと魔術は何時までたっても扱えない。僕が魔術を扱えないのは確かに魔術を学び始めてまだ半年という期間の短さが最も大きな要因ではあるが、糞教師共に魔術の発動実習に参加させてもらえないことも大きかったのだ。
 僕としては《錬金工術》の異空間生成を上手く使えないかと考えている。今晩から早速試してみることにする。
 魔術の訓練所が完成するまで魔術の授業は一旦中止し、その代り回復薬の勉強をすることにした。

 第二、今日の迷宮攻略についてだ。
 今日から迷宮の未攻略部分の探索が開始される。トラップも解除されていないだろうし、40階層にはボスも待ち受けている。
 トラップは当面危険そうなところでは解析を必ず発動することにした。
トラップを解除するだけの能力は僕らにはない。そこでトラップを見つけ次第、《爆炎糸》で炎滅することになった。
 40階層のボスは僕も戦いに参加することにした。解析が済み次第、一切の躊躇いなく僕らの最大火力で殲滅する。

 第三が第4の試練の攻略後の打ち上げの件だ。
 第4の試練の攻略後、冒険者組合での紅石の換金のため一度グラムへ行く必要がある。その際、飲食店で打ち上げをしようと提案したのだが二人から即却下される。
 その理由を尋ねた際の二人の口ごもり方から察するに、調味料がふんだんに使われた地球の料理に舌が慣れてしまった二人にはグラムのあのクソ不味い料理では打ち上げにならないからだろう。
 兎も角、この打ち上げは《妖精の森スピリットフォーレスト》の結成祝いも兼ねている。彼女達の意思を無視しては本末転倒だ。
グラムへは明日1日休みにしてゆっくり訪れることになった。

 第四が《眷属軍化》のLVが上昇したことにより、彼女達が使用できる僕のスキル・魔術がもう一つ増えた事だ。
 アリスに新しい剣術関連のスキルを開発してからにして欲しいと頼まれる。
 確かに、一度セットすれば僕がスキルを抽出により消失でもさせない限り外す事はできない。剣術を極めたいアリスにとっては理になかった主張かもしれない。
 これに対しステラは《錬金術》の即決だった。錬金術を僕が消失させても、スキルのようにLV1からやり直しということにはならない。このように魔術はスキルと比較し使い勝手が良い。


 機械を用いない回復薬の作成法が今日の課題だ。基礎魔術についての講義もなく、回復薬の製造も今日は各薬草を干すだけだ。
時間が大幅に余ったので、午前10時に迷宮攻略に出発することに相成った。


 30階層に転移し、31階層から探索を開始する。
 31階層は僕の太ももまで水嵩がある階層であり、水の中には魚類系の魔物や水生動物系の魔物がウヨウヨいたが、ほとんどがLV1であり僕らを襲ってくるのは限られていた。
 具体的にはLV11の【魔魚】、レベル12の【人面蟹】、レベル13の【巨大ウツボ】だった。
 トラップは存在しなかったが、代わりに水中に潜む吸血水生動物がその役目を十分に担っていた。
 ズボンの中の脚にびっしりと蛭に似た虫が張り付いていたときは本当に背筋が凍った。
 魔術師の家に生まれ異常事態や気色悪い事態に耐性がある僕でもこれだ。女性のしかもお嬢様育ちのステラとアリスには荷が重すぎた。終始悲鳴を上げて幾度となく屋敷と迷宮を行き来するはめとなる。


 そんなこんなで34階層の中ごろ辺りを彷徨っていると、水の中にポツリと不自然に聳え立つ祭壇がある。
 祭壇は青色透明であり、その頭上には2メートルを楽に超える薄く青みを帯びた透明の大剣が刺さっていた。
青色の(オーラ)がまるで陽炎のように纏わりついている様子からも魔剣の類だろう。

「あれは宝物でしょうか?」

「多分ね。僕らが見つけた記念すべき宝物第一号って奴じゃない?」

「ね~、ね~? あれボクがもらっていい?」

 大剣の解析はもう済ませてある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
             【ブルーレイン】
★説明:魔剣。MPを消費し自然界にある水分子を操作する。
・《軽量化》:剣が羽のように軽い。
★武器の性能:筋力――+70 水分子を操作する際の威力は【魔力】に依存する。
★魔力+70
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「構わないよ。でもボス戦では慣れてる刀で戦ってね」

 ルール上、屋敷に戻ってから所有者を決める手はずだが、僕は銃剣がかなり気に入っておりそれ以外使う気はない。ステラも弓や銃がメインだ。剣はアリスが使うのが一番いい。

「は~い!」

 無意識に鼻歌を口ずさみながらアリスは祭壇の階段を上がり、剣を引き抜き数回振る。いくつもの青色の輝線が空を舞い、一瞬にして祭壇はバラバラの細かい破片と化す。


 その後、アリスは【ブルーレイン】を左手に【雷電】を右手に握り魔物との戦闘にのめり込み始めた。
さっきまであれほど馬鹿騒ぎしていた蛭もどきにもお構いなしだ。確かに僕らのステータスならダメージはほぼ皆無と言ってよい。ゴキブリと同じ。ただ嫌悪感があるだけだ。
それにしても――。

(アリスの剣技ってどんどん化け物じみてくるよね)

 当初、二刀での戦闘にもたついていたが暫くして動きに一切の無駄がなくなった。まるで二刀を手足のごとく扱う様に戦慄すら覚える。
この変化はどう考えても異常だ。解析してみると、やはり【二刀剣術】のスキルを開発していた。
《剣技閃》は剣技のみを編み出しやすくする能力に過ぎず、新たな《剣術》等を生み出すことはできない。つまりアリスは何のスキルや魔術も用いずに新たな剣術を編み出してしまったというわけだ。
 これはどう考えても異常だ。剣術の才能があるだけではすまされない。何か他に要因があるのだろう。そして僕にはその要因が狂気じみたものに感じるのだ。
それはまるで僕が知る天才魔術師の魔術に対する――。
頭を振ってその不吉な考えを振り払う。
 悪い方にばかり考えるのは僕の悪い癖だ。アリスがその類まれなる才能により新たな剣術を開発した。そう考えるべきだ。


 魔物(モンスター)を瞬殺し無数の武具や道具を取得しながらもついに地下40階への階段を発見する。
 40階への階段を降りて行くと途中から水につかっている。潜水しながらボスを倒せということだろう。
 アリスの【ブルーレイン】があれば窒息死の心配はないが、解析の結果この40階層を満たす水には一定時間転移系の魔術・スキル・魔術道具(マジックアイテム)を無効化する効果もあるらしい。
水に一度でも触れれば少なくとも十数分は転移不可能。つまり真の意味で命がけとなる。
 とは言えここで引き返すほど僕は甘い状況にない。
 僕は明神高校で首席を取る実力をこの3年でつけなければならないのだ。首席を取れなければ僕と沙耶は破滅だ。
 ステラに視線を向けると今にも敵地に強襲をかける兵士のような表情で僕に頷く。
 アリスは――頬を興奮気味に上気させていた。まあやる気があるに越したことはない。
さあ始めよう。僕らの戦いを!


 アリスが【ブルーレイン】を発動し、僕らを中心とした半径1メートルほどの水のない空間を作り出す。
 ゆっくり、歩いていくと10メートルほどの高さの広大な広間へ出た。
 突如頭の中に厳格な声が響き渡る。

《挑戦者の冒険者カードの認識開始…………終了
 ギルド名:スピリットフォーレスト。
キョウヤ・クスノキ、ステラ・ランバート、アリス・ランバート。

『第四の試練:ミニクラーケンを倒せ!』
 ・クリア条件:ミニクラーケンの討伐。
・特殊条件:討伐時間が短いほど得る宝物の価値が高くなる》

(ん? この下りどこかで聞いた事があるような――)

《試練に挑みし勇者よ。
これは人と魔の生と死をかけた潰しあい。
 これは魂同士のぶつかり合い。
 これは互いの誇りをかけたデスゲーム
 与えられるのは偉業か、死。
 武をつくせ、叡智を尽くせ。
 されば与えられん!》

 この一説は僕らゲーマーの間では極めて有名だ。地球の2000年代初頭に発売されたゲーム――《ロストファンタジー》の試練の間で流される言葉。
大方この名作の熱狂的信者の天族が自身で再現したくなったのだろう。まったく、この迷宮の凝りようといい、悪ふざけにも度が過ぎている。
ややゲンナリしつつ壁を震わすほどの殺気をまき散らしながら僕らを睥睨しているデカブツに視線を向ける。
直径7メートルもある巨大イカがその真っ赤な血のような目を光らせていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
             ステータス
【ミニクラーケン】

★レベル:19
★能力値:HP1000/1000 MP320/320 筋力310 耐久力260 俊敏性150 器用200 魔力110 魔力耐性180
★スキル:《墨幕》
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

予想通り【ワイバーン】はイレギュラーだったらしい。これなら今の僕らに万が一にも負けることはない。
僕とステラが胸を撫で下ろすのと、アリスが深い落胆の溜息を吐きだすのは同時だった。今まで星々のようにキラキラと輝かせていたアリスの目の中には強い失望が浮かんでいた。
 まったくこの子は――。
 昨日も【ワイバーン】と戦えず少々欲求不満気味だった。アリスが爆発すると連携が乱れてかえって危険だ。この機会に不満を解消させておくことにする。
肩を落としつつアリスに許可を出す。

「アリス。好きに戦っていいよ」

「本当?」

 頷く僕の姿を見たアリスはパタパタと不可視の尻尾を振る子犬化し、巨大軟体動物に向き直り身をかがめ両手に握る剣を構える。
そのアリスの姿を契機にミニクラーケンは5対の触腕を僕らに向けて高速に伸ばす。
僕らを握りつぶさんと水を巻きあげながら迫る【ミニクラーケン】の巨大な5対の触腕。それを視界に入れアリスは口角を吊りあげる。
 触腕が到達する直前、アリスが両腕を高速で振るう。距離無効化の力を帯びたアリスの剣と刀はミニクラーケンの触腕を瞬時に粉々の肉片に変えた。
そこから先はただの一方的な蹂躙劇(ワンサイドゲーム)
アリスが剣――ブルーレインを垂直に振り下ろすとミニクラーケンの身体の3分の1と残り3分の2が左右に分離されていく。
アリスが袈裟懸けに刀――雷電を振るうとミニクラーケンの身体が斜めにずれていき、石床へ向けて水の中をゆっくり落下してく。
アリスが横一文字に一線すると、上半身と下半身が真っ二つに分れて、水の中を漂い彷徨う。
剣により、刀により、ミニクラーケンは少しずつこま切れの刺身の状態へとなっていく。
このイカ食べたら美味いのだろうかとこの場にふさわしくない感想を抱きつつも、数秒後、ミニクラーケンは多量のイカ刺身へと変貌していた。

 ゴウ~~ン

 鈍い音を伴い水が急速に引いていく。1分と経たないうちこの40階層の大広間には水は1適たりとも残ってはいなかった。
 再び頭の中に響き渡る偉そうな声。

《第四の試練クリア。挑戦者側の勝利。
 討伐経過時間12秒。評価S
 第四試練Sランク宝物解放》

 気が付くと部屋の中心には宝箱が出現していた。宝箱の回りの床の色が異なることからも、ゴウ~~ンという音はこの宝箱が床からが出現する音だったのかもしれない。
近づいて宝箱を開ける。

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             【黒魔術奥義書】
★説明:黒魔術の奥義書。黒魔術の才能を得る。ただし一度使うと消滅する。
 奥義書に触れ《発動(ムーブ)》と念じることで才能を得る。
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 魔術師にとってこれ以上の報酬はない。この試練とやらの特殊条件にも今後目を配っていくべきなのかも。
 兎も角、この【黒魔術奥義書】はステラが使うべきだ。僕は黒魔術の才能を得たステラの髪の毛を創造魔術(クリエイトマジック)により摂取すれば獲得しうる。

「はい。ステラ、これは君が使ってよ」

「で、でも。このアイテムはマスターが――」

説明するのも面倒だ。あとで髪の毛を貰う際にでも簡単に話せばよい。

「ステラ、今は僕の指示に従って。後で説明するからさ」

「は、はい!」

 僕のいつになく強い言葉に背筋を正して答えるステラ。
 散らばったイカモドキから紅石を捜し採取する。
しかしこの巨大イカとんでもなく美味そうに見えるのは気のせいだろうか。
 試に口に含んでみると、頬がとろけそうなほど美味い。これは今日の打ち上げの食材にはもってこいだろう。身体の芯が僅かに熱くなるスキルラーニングの感覚をかみしめながらも、ミニクラーケンの刺身に解析をかけてみる。

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             【ミニクラーケンの身】
★説明: ミニクラーケンの身。HP、MP回復効果がある。
★食材ランク:上級
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 HP、MPの回復の特殊効果まであるようだ。調理して迷宮攻略中のオヤツにでもいいかもしれない。全部持って帰ろう。
 ステラ達も解析をかけて僕の意図に気づいたのか、一口食べて頬を緩めていた。
あの凶悪イカの姿を見てすぐに口に放り込む所など以前のステラ達では考えられない。僕ら狂った魔術師の世界にすでに彼女達も足を踏み込んでいるようだ。


 【ミニクラーケンの身】をすべてアイテムボックスに収納し、地球の屋敷に転移する。

2082年8月2日――迷宮探索の成果。

《終焉の迷宮》到達階数――第40階層。
 第四の試練クリア

 討伐魔物
○魔魚(LV11)――30匹
○人面蟹(LV12)――45匹
○巨大ウツボ(LV13)――33匹
○ミニクラーケン(LV19)――1匹

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             ステータス
【楠恭弥】
★レベル:35
★能力値:HP2400/2400 MP2600/2600 筋力801 耐久力802 俊敏性806 器用804 魔力810 魔力耐性807
★スキル:《進化LV6(――)》、《眷属軍化LV4(42134/50000)》、《爆炎剣術LV6(――)》、《爆炎糸LV6(――)》、《奈落蜘蛛召喚LV6(――)》、《皮膚鋼鉄LV6(――)》、《《墨幕LV1《0/50》
★魔術:《創造魔術(クリエイトマジック)》、《錬金工術》、《呪術》、《魔道工学術》、《錬金術》
★EXP:15328/17000
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 様々なスキルが一気にLV6となった。
 《創造魔術(クリエイトマジック)》で抽出する際にでもゆっくりと検証しよう。

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             ステータス
【ステラ・ランバート】
★レベル:33
★能力値:HP1000/1000 MP2600/2600 筋力302 耐久力405 俊敏性500 器用407 魔力1200 魔力耐性800
★スキル:《加護LV6(――)》、《進化LV6(――)》
★魔術:《精霊召喚術》、《魔道工学術》、《錬金術》
★EXP:8028/15000
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 少し確かめたい事がある。ステラ達のスキルは後で調べる。

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             ステータス
【アリス・ランバート】
★レベル:33
★能力値:HP3000/3000 MP800/800 筋力909 耐久力902 俊敏性603 器用601 魔力309 魔力耐性304
★スキル:《接続LV6(――)》、《剣術LV6(――)》、《進化LV6(――)》、《空破斬LV6(――)》、《爆炎糸LV6(――)》、《二刀剣術LV6(――)》
★EXP:8028/15000
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               ◆
               ◆
               ◆

 屋敷に戻り真っ先に僕らがしたことは風呂に入ること。何せ体中に無数の蛭がくっついている状態だ。壮絶に気持ちが悪い。
体中にへばり付いた蛭モドキを外で落としてから順番に入浴する。
僕は元々カラスの行水であり、どんなにかかっても10分程度で入浴は完了する。また僕が後だと彼女達がゆっくりと湯船につかれまい。そこで僕が先に入らせてもらった。



 お読みいただきありがとうございます。
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