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福岡高裁も認定 新基準で却下の3人

 長崎で被爆し、原爆症の認定申請を却下された熊本県在住の男女5人が、国に却下処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(金村敏彦裁判長)は11日、このうち3人について原爆症と認定した1審・熊本地裁判決を支持して国の控訴を棄却した。1審で認められなかった2人の控訴も退けた。国は2014年1月に認定範囲を広げたとする新基準の運用を始めたが、3人はいずれもこの新基準でも却下されていた。新基準で認定申請を却下された被爆者を原爆症と認定したのは高裁レベルは初めてで、改めて国の審査のあり方が問われそうだ。

     金村裁判長は、疾病と放射線との関係について「医学的・病理学的に直接証明することが求められるのではなく、被爆状況や被爆後の行動から推定される被ばくの程度と疾病との関連性を考慮する」として1審の判断を踏襲。国の新基準で積極認定の対象とされていない疾病についても「放射線との関係を総合的に考慮するのが相当」とした。

     その上で、5人それぞれの被ばく量や放射線と疾病との関係について改めて判断。5人とも「健康に影響を及ぼす程度の被ばくがあった」と認めたものの、高血圧性脳出血やバセドウ病などを発症した3人についてのみ放射線との因果関係を認めた。一方、変形性脊椎症や骨髄炎などを発症し、1審で訴えが認められず控訴した2人については因果関係を認めなかった。

     1審・熊本地裁判決(14年3月)は、原告8人のうち5人を原爆症と認定。国はこのうち3人について判決を不服として控訴した。認定されなかった被爆者2人も控訴していた。2審の5人は71〜86歳の男女で、09〜11年に原爆症の認定申請を却下された。

     厚生労働省によると、新基準導入後、同種訴訟の判決は熊本や長崎など5地裁で8件あり、被爆者47人中35人が原爆症と認定された。このうち20人は国が控訴せず確定した。3月末現在、東京、大阪、広島など5地裁で54人が認定を求めて係争中。原爆症認定を巡っては行政と司法の判断が分かれ、国は段階的に基準を見直してきた経緯がある。

     原告弁護団の寺内大介弁護士は「実質的に新基準がこのままではいけないことを示した」と話した。厚生労働省原子爆弾被爆者援護対策室は「判決の内容を精査し、関係省庁と協議して決める」とコメントした。【吉住遊】

    司法と行政のギャップ改めて

     佐伯祐二・同志社大法科大学院教授(行政法)の話 原爆症の認定において、司法と行政とのギャップが依然としてあることを改めて示した判決だ。最高裁への上告理由は限られているため、高裁での判断は非常に重いものになる。審査を待つ申請者はなお多数いることから、国は個別の被爆者の事情を余さず考慮して審査するのは難しい場合もあるかもしれないが、司法判断を重く受け止め、ギャップを埋める努力が求められる。

     【ことば】原爆症認定制度

     原爆の放射線が原因で病気になり、治療が必要な状態であることを要件に、国は月約13万9000円の医療特別手当を支給する。認定を却下された被爆者による訴訟で国の敗訴が相次いだため、国は2008年に認定基準を一部緩和。この基準でも却下された被爆者の提訴が再び相次いで国側の敗訴が続いた。国は14年、更に一部を緩和した新基準を導入。がんなど3疾病は爆心地から約3・5キロ以内で被爆▽心筋梗塞(こうそく)など3疾病は同2キロ以内で被爆▽白内障は同1.5キロ以内で被爆−−などに該当すれば積極的に認定し、該当しなくても既往歴などから総合的に判断するとした。

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