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 長崎で被爆した熊本県の被爆者らが、原爆症と認定しなかった国の処分を取り消すよう求めた訴訟の控訴審で、福岡高裁(金村敏彦裁判長)は11日、うち3人の病気を原爆症と認めた一審・熊本地裁判決を支持し、国の控訴を棄却する判決を言い渡した。一審で原爆症と認めなかった2人については再び訴えを退けた。

 被爆者らは2008年に国が定めた基準で原爆症と認められず、提訴。13年に現行の基準に改定後も対象外とされた。被爆者側の弁護団によると、現行基準で認定されなかった人を高裁レベルで原爆症と認めたのは初めて。一審に続き国の認定の不十分さを指摘した形だ。

 金村裁判長は、病気が放射線によるものかどうか判断するに当たり、国が用いる被曝(ひばく)線量の推定方法は「一応の目安にとどめるのが相当」と指摘。被爆状況やその後の行動、生じた症状に照らして十分に検討する必要があるとした。

 国は控訴審で、現行基準で認定の対象外とされた場合に、病気が放射線によるものと法的に認めるには「多数の科学者が認めるような科学的知見が必要」と主張した。これに対し判決は、病気が放射線によるかどうかに関する知見の評価は、具体的な症状などを「総合的に考慮するのが相当だ」として退けた。

 高裁判決は、被爆者5人が「健康に影響を及ぼすような線量の被曝をした」と認めた上で、慢性腎不全などを患った3人について「被曝のために免疫機能が低下した」などと認定。一方で、糖尿病や変形性脊椎(せきつい)症などを患った2人については、原爆の放射線で発症したとは認めなかった。

 14年3月の一審判決は、長崎市内で被爆した8人中5人について、国が申請を却下したのは違法と判断。国はうち3人について控訴した。一方、一審で原爆症と認められなかった3人のうち2人も控訴していた。

 厚生労働省は「国の主張が一部認められなかったと認識している。今後の対応は関係省庁と協議して決める」とコメントした。(張守男)

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 《原爆症》 原爆の放射線が原因で病気にかかったりけがを負ったりして、治療が必要と認められると原爆症と認定され、月額約13万8千円の医療特別手当を受給できる。認定を却下された被爆者による集団訴訟が2003年に始まり、国は相次ぎ敗訴。国は08年に基準を見直し、13年にさらに改めた。代表的な病気のがんの場合、爆心地から約3・5キロ以内で被爆したり、原爆投下から約100時間以内に約2キロ以内に入ったりした人は、積極的に認定するとしている。集団訴訟では全国5地裁や最高裁、高裁で約70人が国と係争中。