アップルの故スティーブ・ジョブズ氏以来の革新家に数えられるアマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は教科書的な経営者ではない。ベゾス氏はジョブズ氏に劣らぬ毒舌家として知られる。従業員を「あなたは怠け者なのか、能力不足なのか」と責め立てたり、報告書の内容が気に入らないと、「BチームじゃなくAチームの報告書を持ってこい。Bチームの報告書を見るのは時間の無駄だ」と怒ったという。ベゾス氏はオフショア脱税の疑いで名前が挙がったこともある。一部には納税を避けるため、利益を過小計上しているとの批判もある。
電気自動車の技術革新の主役であるイーロン・マスク氏も負けてはいない。マスク氏の前妻は「一緒に暮らしていけない変人で、社会不適応者だ。妻を部下の社員かのように考える人物だ」と評した。その上、金食い虫であるマスク氏の電気自動車事業は、財務的観点から見れば合格点とは言えない。
それにもかかわらず、2人には人々を熱狂させる魅力がある。他人の目にはとんでもないと映る目標に向かって奮闘を続ける熱情は、多くの人に未来に対する希望と驚きを与える。代表的な例が宇宙開発事業だ。最初は金持ちのお遊びと考えられていたが、宇宙船打ち上げロケットを再利用し、打ち上げ費用を10分の1に抑える実験に成功し、SF映画の世界だった宇宙観光を現実にした。使い捨てだったロケットを宇宙空間で再点火させ、ロケットが重力に耐えながら、ゆっくりと降下するようにした発想の転換は、実業家の創意的アイデアがどれほど世の中を変えるのかを物語る。
残念ながら韓国企業からは、そうしたスター経営者がいなくなりつつある。いつしか企業経営者も専門経営者もオフィスのドアを締め切り、経営データばかりを気にすることが最高の美徳になってしまった。未来に向けた攻撃的な新技術開発や投資は後回しにされ、財務的価値を極大化する短期成果主義が絶対的価値となった。CEOが消費者と積極的に意思疎通を図ったり、CEOが個人をブランド化したりする取り組みも姿を消して久しい。
企業経営者は口ぐせのように「今年も経営環境の悪化が見込まれる。苦痛に耐え、支出を抑えよう」と繰り返す。大企業に取って代わるべきベンチャー企業も大企業を批判しながら、大企業のやり方を踏襲している。成功したベンチャー企業家は「うちは財閥とは違う」と叫ぶが、経営権の維持と相続のために会社を分割し、会社の有力者が代を継ぐ姿は、批判を受ける財閥と何ら変わりはない。
相対的に健全に思える米国経済も実際には大企業中心の産業構造が定着しており、韓国と同じ悩みを抱えている。コンサルティング業者のマッキンゼーによると、2008年の金融危機以降、10兆ドルを超える規模の合併・買収により、米国の巨大独占企業の収益は過去最大規模に膨らんだ。しかし、勤労者や中小企業は立つ瀬を失いつつある。それでも米国経済が躍動的に見えるのは、不況のたびに登場するスター経営者と彼らが発掘、育成する産業生態系のおかげではなかろうか。