ブログにセックスの話を書くとブクマとTwitterが性教育の教室みたいになるけど、またしてもセックスの話。今回はオナニーも含むよ!
抗がん剤投与中の説明文を飛ばし読みされる
みなさんは抗がん剤服薬中の方とセックスをしたことがありますか?
また抗がん剤服薬中にセックスを、オナニーをしたことがありますか?
医師からもちおの抗がん剤治療開始の説明を受けていた時のこと。
「あなたたち、年齢的にも雰囲気からいっても、セックスレスですよね?」
と思われたのか、抗がん剤の副作用を予言する恐ろしい説明文のなかの
「抗がん剤服用中は必ず避妊してください。妊娠を望む場合は医師に相談してください」
という箇所だけを、なぜか読み飛ばされた。
今回もちおが使う薬は国内で認可されたばかりで、いくつかの病院で実験的にためしていることもあり、その治験に参加することもあって説明がいちいちかなり細かかった。なのでセックスに関するところだけ飛ばされたことには違和感があった。
100%真顔の医師は「ひとつも漏らさず説明する」という意気込みで、悪夢のような副作用をひとつひとつ読み上げ、神経がぴりぴりするような注意点を念押しし、「すべて説明を受けました。理解した上で同意しました」とサインするようにうながした。神妙な面持ちのもちおに続いてわたしも同意書にサインをした。
「ほかは全部読んだのに、セックスのところだけ飛ばしたね」
「気まずかったんじゃろう」
「だいじなことなのにね。うちはセックスレスだろうと思って飛ばしたのかなー」
と、あとでもちおと話した。その後わたしの頭の中では素朴な疑問がどんどん膨れ上がっていった。
抗がん剤服薬中のセックスにまつわる素朴な疑問
説明の中には「化学療法*1中の人が使ったトイレは水でしっかり流し、しぶきなど飛び散っていないかよく見るように」というものもあった。ここはしっかり音読された。おそらく排泄物に有害物質が混ざるのだろう。
飛沫程度で注意を促されるのなら抗がん剤投与を受けている人の精子を粘膜に受けるのは危ない、ということかもしれない。じゃあ抗がん剤投与を受けている女性の膣はどの程度危ないの?
「避妊しろっていうのはなぜですか?
避妊ってコンドームをつけろということですか?ピルでもいいんですか?
パイプカットしてたり閉経してたりしたら関係ないですか?
それとも化学療法中の粘膜接触が有害だから?
じゃあキスは?オーラルセックスもだめ?
化学療法中の人の精子を口や顔で受けるのも危ないの?
そういうのってAV業界や風俗業界にも周知されているの?*2」
このような素朴な疑問に答えてくれる本を図書館で見つけた。
セックスしてもいい白血球数が知りたい
がん患者のセックス の著者長谷川まり子さんは、抗がん剤投与を受ける恋人に会うため病院へ通っていた。抗がん剤投与がはじまってからは免疫力の低下に伴う感染を恐れ、何から何まで片っ端から消毒していたそうだ。そして恋人にキスをすることで相手に病気をうつす恐れがないのか不安に思っていた。
愛する人を抱きしめる。キスをする。愛し合う。これらはみな人を安心させる。安心すれば免疫が上がる。でも肉体的に悪影響はないのか。
髪の毛が抜ける、皮膚がただれる、口内炎に悩まされるといったつらい症状が出はじめるとそのような不安は増す。免疫低下が著しいときは避けるとして、どこまで回復したらセックスを再開していいのか。
こうしてノンフィクション作家である長谷川さんはガン治療に関係した性にまつわるアドバイスを国内、国外を問わず探し求める。しかしガン治療と性に関する情報はびっくりするほど少なく、わずかなアドバイスもほとんどは英文のものだった。
最終的に白血球数2000以上であればセックスしてよいという指針を見つけ、二人は愛し合う。行為のあとぐったりしている恋人にまり子さんは気分をたずねる。「生きてるってかんじ」と恋人は答えた。
がん治療と性的欲求の葛藤
抗がん剤による免疫低下だけではなく、がん治療によるセックスの影響は多岐にわたる。ある男性は体調がどの程度回復したのか確かめたくてオナニーをして、射精した精子の色にドン引きする。いったい精巣に何が起きているのか。
また別の男性は化学療法後の射精に驚くほど体力を奪われ、射精することが恐ろしくなる。こんなに体力を奪う行為はがんを再発させるのではないかと不安になり、妻を抱けない。
子宮がん、卵巣がんによって膣が短くなり、分泌がよくない。性交痛があるが、求めてくれるパートナーにそのことをいえない。痛みが怖くて、理由をいえないままパートナーを避けるようになる。反対にパートナーに求められないのは自分が女性として不完全になったからだと感じて打ちのめされる人もいる。
大腸がんなどで人工肛門オストメイトを利用するようになり、ベッドの中で臭うのではないか、汚いと思われるのではないかと気が気ではないという人もいる。乳がんで乳房を切除して自分のボディイメージを悪い方へ考えずにいられなくなった人もいる。
これらに加えてがんの告知を経験した人はみな大なり小なり再発と悪化を恐れている。セックスやオナニーが身体に悪いかもしれない、死へ直結するかもしれないと思うのは恐ろしいことだ。性欲は食欲や睡眠と同じ生理的な欲求なのに、自然な欲求を満たすことが苦痛を伴う死につながるかもしれないと考えるのは本当につらい。またその不安から愛する人と性を分かち合うことを断念することもとても寂しく胸の痛むことだ。
医療の場でセックスの話題を避ける風潮
日本の医療のなかではセックスは子作り、また排泄行為と同じくくりにされているようで、こういったデリケートな問題について相談する窓口がほとんどない。長谷川さんが取材を続けるなかで登場する人々の意見を読んでいると「命が助かればそんなことはどうでもいいだろう」という風潮が医師の中にも患者の理性の中にもあるように思う。
しかし世の中には勇敢で心ある人がいる。この本の中にはこうした悩みを直接聞く立場にいた看護士たちが立ち上がり、相談機関やよくある悩みに具体的に答える冊子を作った経緯が書かれていた。サガミオリジナルでおなじみの相模ゴムに精子がゴムからこぼれる確率を取材し、ゴムアレルギーの人向けのポリウレタン製コンドームと潤滑剤としておすすめ素材のゼリーをサンプル提供したりしているそうだ。
ところがこの冊子に対して「赤裸々すぎる」「オーラルセックスについて書くなんて」という批判があったというから驚く。医療従事者が書かないで誰が書くんだ。これには本当にあきれた。
詳しくはぜひ書籍を手に取って読んでほしい。んだけど、図書館までいけない人、amazonで買い物できる状況じゃない人もいるよね。というわけで、注意点として書かれていたことを以下にまとめます。詳しくはお医者さんに確認してね。そういう相談にのってくれるお医者さんが見つかることを祈るよ。
がん治療中のセックスやオナニーの注意点
・セックスは白血球数2000以上になってからがよい
・抗がん剤投与中は粘膜接触を控えた方がよい。キスは軽いものならOK
・挿入行為はコンドームを使う。ゴムアレルギーはポリウレタン製がおすすめ
・濡れにくい場合は潤滑剤を使うと良い*3
・抗がん剤がどの程度精子に含まれるかは未知数。念のため粘膜接触は避ける
・妊娠を望む場合は抗がん剤投与が始まる前に精子や卵子を冷凍保存することもできる
・傷口から感染する恐れがあるので皮膚を傷つける行為は避ける
・臓器を切除したあとで内臓が安定しない場合は体位を工夫する
・手術後の勃起不全にはバイアグラの処方が認められる場合があるので応相談
この本には書かれていなかったけれど、ガンやAIDSのように粘膜接触を控えたい人のためのセックスの楽しみ方はあると思うんだよね。水嶋かおりんさんはセックスワーカーのために粘膜接触なしのセックスワークを推奨していたけど、そういうテクニックが闘病中の人やそのパートナーのためにも広まっていくとといいよね。いわゆる「舐めて突っ込んで腰振ってぐったり」じゃない方法で愛し合う方法がたくさんあるといいのに。
内科医のミルトン・エリクソンは下半身が不随になった女性に乳房でオルガズムスに達することが可能だと示唆した。彼女は実際にその方法で種類は違えどこれまでと同様の高まりをえることができて、セックスを楽しんだ。そして数年後には母親になった。
重い病気になると、目の前の問題に加えて「これまで楽しんだあれこれを、今後楽しむことはもうできないんだ」と思うのがつらい。セックスやオナニーもそのひとつになることがある。でも創意工夫で新しいお楽しみを楽しむ方法はある。そしてそういった性の喜びを探求することは生きている喜びのひとつで、あさましいことでも、見下されるようなことでもないんだよね。
病気はあってもみんなハッピーセクシャルライフで人生を謳歌できるといいよね。