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九州大学名誉教授
藪野祐三
第2に、中東での安全保障について考えてみたいと思います。2014年7月1日、自公政権は集団的自衛権を限定的に行使する際の「新3要件」について閣議決定しました。〈我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること〉などの項目があります。
安倍首相は集団的自衛権行使の可能性について、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海を例に挙げて説明してきました。2015年9月14日、公明党の山口那津男代表は安保法制の国会論戦のなかで、安倍首相にこの点について問いただしています。安倍首相は「現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定していない」と答弁し、前言を翻す格好になりました。
ホルムズ海峡のシーレーン(海上交通路)に中東諸国が機雷を設置するという事態は、現実的にはありえません。中東の石油産出国にはビジネスがありますから、そんなことをして石油が売れなければ彼らも困ってしまうわけです。
友達(friend)であり、なおかつ敵(enemy)でもあるという意味の「フレネミー」という造語があります。アメリカと中国はまさに「フレネミー」の関係です。アメリカは中国の軍事的拡大を望まず敵対的ですが、経済的には米中は友好関係を保っています。その米中が真正面から軍事衝突するメリットは何ひとつありません。
中東諸国と多くの国との関係も、まさに「フレネミー」です。ホルムズ海峡でひとたび軍事衝突が始まれば、容易には停戦できないでしょう。石油の流通が止まれば、石油を売る側も買う側も皆が困ってしまいます。軍事衝突が起きようがないホルムズ海峡で日本が集団的自衛権を運用という話は、想定自体がおよそ現実的ではありません。
第3に、アフリカなど地球の反対側でIS(「イスラム国」)による紛争が発生したり、アメリカの後方支援をする必要が生じた場合はどうでしょう。仮に必要だとしても、万単位の自衛隊員を地球の反対側に運ぶほどの事態が生じるとは思えません。大きく見積もってもせいぜい千人単位の部隊が出動するだけでしょう。
合計24万人いる自衛隊員を丸ごと地球の反対側に派遣するという事態は、100パーセントありえません。これだけ巨大な規模の部隊による海外での活動に、持続的に兵站(兵器や物資の調達)を確保する戦略も予算も日本にはないわけです。
日本人がISなどのゲリラに拉致監禁されたとしても、自衛隊が軍事的作戦によって救出することはできません。かつてイラクで日本人が拉致されたときにも、自衛隊は使わず、さまざまな外交ルートによって救出を模索するほかありませんでした。
このように、①日本近海②中東③地球全体――という3層のどれを考えても、集団的自衛権を行使する可能性は極めて低いのです。
<第三文明』2015年12月号より転載>
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