米電気自動車(EV)メーカー、テスラ・モーターズがロサンゼルスのデザインスタジオで手ごろな価格の新型車「モデル3」の試作車を発表してから数日間で受注が約32万5000台に上り、自動車製造業界は驚きに包まれている。創業からの13年間の販売台数がわずか10万台ほどの同社のような自動車メーカーにとっては、確かに目を見張るような成果だ。
だが、テスラの紛れもなく魅力的な電気自動車の技術に向けられた人々の関心を証明したことを除いて、同社の意欲的な最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏は厳密には何をなし遂げたのだろうか。
まずは同氏がやってこなかったこと、つまり利害関係者と非常にきっちりした契約を結ぶことについて取り上げよう。テスラのウェブサイトをのぞいてみると、同社が負っている義務は比較的ゆるいことが見て取れる。順番待ちリストに入ることが保証されるために1000ドルの予約金が求められるが、これは(購入を)義務付けるものではなく、購入希望者が望めばキャンセルできる。
また、テスラに対して実際の納車を義務付ける確固たる日付があるわけでもない。マスク氏は2017年の秋までに納車を始めたいとしているが、車両が準備できなければこの期限を守る必要はない。これは、注意しなければならない可能性の一つだ。テスラの直近モデルである「モデルX」(の納車)は2年以上遅れた。
最終価格すら確定していない。マスク氏は3万5000ドル程度のモデルと言うが、生産コストが分かるまでそれを特定しない抜け目なさがある。
とは言え、顧客は、テスラが基本モデルをこのぐらいの価格帯で販売すると極めて公に語った約束に守られる。店頭表示価格をあまりに引き上げれば、同車の「手ごろ」という評価(や販売数)は失われる。
■低額の予約金では資金得られず
製造計画を実行するための資金源として予約を利用したらどうだろうか。いずれにせよ、企業が購入希望者から資金を調達するのはめずらしくない。例えば、不動産開発業者は着工前の計画段階で集合住宅を販売して、収益を建設費用に充てる。また、キックスターターなどのクラウドファンディング(ネットを介して広く資金を募るサービス)の仕組みもある。本質的に、人々はこうした方法で印象で気に入った商品を事前購入できる。企業はその後、利益を上げられるかを検討する。
だが、テスラの予約方法の問題は、注入する資本をあまり得られないことだ。第一に、1人当たり1000ドルの予約金では少なすぎてあまり資金を生まない。3億2500万ドルは正確には少ない額ではないが、今後5年間で110億ドル近くに及ぶ資本支出が必要となれば、大海の一滴でしかない。