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【中国新聞】 栃木女児殺害判決 「可視化」に一石投じた

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 栃木県今市市(現日光市)の小学1年吉田有希ちゃん殺害事件で殺人罪に問われた勝又拓哉被告の裁判員裁判で、宇都宮地裁はきのう、求刑通り無期懲役を言い渡した。被告は捜査段階では自白したが否認に転じ、公判では虚偽の自白を迫られたとして無罪を主張していた。
 自分の意思で供述した任意性はあるとして、地裁が証拠採用した自白調書の信用性が今回の最大の争点である。法廷では取り調べの録音・録画が7時間以上にわたって公開された。
 しかし、公開された録音・録画は約80時間の全記録を編集したもので、取り調べの一部はもともと記録されていなかった。検察の主張を全面的に認めた判決ではあるが、冤罪(えんざい)をなくすために導入された取り調べの可視化の在り方について、一石を投じた裁判といえるだろう。
 この事件は捜査が難航し、逮捕は2005年の発生から8年半後だった。何の罪もない幼子がなぜ殺されたか、理解できないまま遺族は苦しんできたという。裁判によって真相を知りたいと願ってきたのである。
 だが有力な物証はなく自白に依存せざるを得なかった。録音・録画で被告が身ぶり手ぶりを交えて話していたことを踏まえ、検察側は「自白は迫真性があり信用できる」と主張した。
 一方弁護側は、自白の殺害時刻や殺害場所は遺体や現場の状況と矛盾すると指摘し、取り調べで「刑が軽くなる」と誘導されたと反論した。検察側は事件当時の車の走行記録や被害者の遺体に付着した猫の毛の鑑定結果など状況証拠を示したが、弁護側はいずれも「結びつきが極めて薄い」と訴えていた。
 被告は別の事件で逮捕され勾留中の14年2月18日、検察官の取り調べで殺害を初めて自白したとされ、県警は同日午後から任意の取り調べを始めた。しかし6月3日に殺人容疑で逮捕するまで録音・録画していない。この間、「殺してごめんなさい」と50回言わされた—などと自白の強要を被告は主張し、取り調べた側は否定しているが、これも記録がないようだ。
 録音・録画は違法な取り調べを防ぎ、裁判で供述の任意性を立証するため、検察や警察が実施するのが趣旨だ。検察や警察の裁量で録画や公開をするかどうか判断したとすれば、由々しき問題だろう。法廷での印象操作につながる恐れがある。
 本来なら、取り調べを全て記録に残し、裁判の必要に応じていつでも引き出せるようにしておくべきではないか。刑事訴訟法改正案は可視化を義務付ける一方で対象を絞り込む方向だが、これで冤罪防止につながるのかどうか疑問が残る。
 一方、今回の裁判員裁判は検察側と弁護側が真っ向から対立したため、審理に比較的長い時間がかかり、判決期日も延期される異例の経過をたどった。裁判員の負担感は重かったとみられ、地裁は辞退希望者が出ることを想定した措置を取った。モニターに映し出す遺体の映像にも配慮したという。
 自白以外の証拠がないに等しい難しい裁判で、自白を信じるかどうかを市民の裁判員に問うことが妥当だろうか。最高裁が裁判員裁判の結論を見直したケースもあり、今回の裁判を機に裁判員の負担も軽減する検討がなされるべきだろう。

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